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#習作 メイド・イン・スリランカ

# 純文学チックなので面白くはないです。
# 30分執筆チャレンジ お題「猿股、虹、スリランカ」



京都の夕闇をコウモリが舞う。
数十の仲間たちとともに群れているのか、踊っているのか、あるいは餌場を探しているのか、それは知らないけれど、僕には、何かに追われて逃げ回っているように見えて仕方がなかった。冬眠から目覚めたばかりかもしれない貪欲なコウモリたちは、ちょうど就職活動に追われている僕と同じで、幼児の落書きのように無意味でありながら、彼らなりに意味のある形をさまよっていた。いつか彼女と観た、京都市動植物園のインドオオコウモリはもっと雄大だった。インド南部やスリランカに住むらしい。

コウモリの一羽が止まった京阪三条の八番出口はいつもの迷惑な自転車であふれていて、歩道は半分くらいの面積になってしまっていた。ずいぶん時間が経ったのだろう、午後6時を過ぎて視界はいくぶんか狭くなっている。薄暗がりを流れる鴨川の色はおのずと仄暗くなっており、いくらエントリーシートを書いても、”お祈り”メールが来ていた僕をさらに陰鬱とさせた。

ちょうど昨日、薄暑でまだ肌寒い5月というのに、猿股のままで目を覚ました。どうやら、エントリーシートとお祈りメールを前にして、ほんの一行たりとも自己PRを書けずにベットに逃げ込んでしまっていたようだ。大学にある小綺麗なキャリアセンターに行く気持ちにはなれはしなかった。先日、東京の出版社の面接で一緒になった学生は「社会に虹を架ける運動」などと称して地下鉄の駅の階段に、
 「1段で1kcal消費します。エレベーターよりも階段を!」
という社会広告をだしたらしい。写真も持参して、面接官ひとり一人に見せて回っていた。その彼女は、社会的には標準体型なのだろうけれど、僕には小太りに見えていた。その日以来、僕は、絶対に地下鉄では階段を使っていない。何か自分だけの自己PRが欲しかった。

僕にしかできないことは何だろう。
昨日のこと、そして就活と来年、さらにこれからのことを三条駅前で薄らぼんやりと考えていると、ちょうど「北大路バスターミナル」行きのバスが轟音を鳴らして近づいて来た。コウモリが一羽、逃げ出して、さらに数羽が後を追うように逃げ出した。たとえば、インドオオコウモリは、大型バスが来ても逃げ出さないのだろうか。彼らの現地であるスリランカに行けば、なにか自己PRは見つかるのかな。
そんなことを思いつつ、僕は、市バスの狭いシートに座りながら、スマートフォンでインド・スリランカへの旅程を夢想していた。
僕にとって、2020年はどんな一年になるのだろう。
(完)

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