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人は、生涯に何回ビスコのお世話になるんだろう

おいしくてつよくなる
江崎グリコ株式会社・ビスコ商品ページより

スーパーやコンビニのお菓子コーナは、おおむねポップである。デフォルメされた動物やちょっとヘンテコなキャラクターのパッケージ、オシャレな字体の大人向けお菓子…その中に紛れて

リアル調の男の子のイラストが
じーーーっと
こちらを見ている。

そう。ビスコのパッケージの彼。ビスコ坊やと呼ばれているらしい。

彼の存在を強く意識したのは、高校生の時。

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ビスコ坊やと初めて出会ったのは、まだ私が小さい頃。小さなビスケットに挟まれたクリームは、なんだか、甘いようで、ちょっとさわやかな、不思議な味。ただ、幼稚園児だった頃の私は飴を与えていれば静かにしている子供だったらしく。ビスコの登場頻度は少なかった。

それから十数年経ち、当時私は高校生。食べてたお菓子はもっぱらスナック菓子やチョコレート、グミなど。お小遣いの中で、安いお菓子や新発売のお菓子を食べていた。「ビスコって、赤ちゃんのお菓子じゃないの?」と、いつのまにか思い込んでいて、多分数年に一度、記憶に残らないタイミングで食べてたくらい。(赤ちゃん用の白くて縦長のおせんべいは好きで、学生時代に食べてたりもしたのに。)

そんな誤解をしていた高校3年の頃。公務員試験に受かるべく、猛勉強。進学は家庭の事情で難しく、就職組。毎日毎日勉強、講習、勉強…。お供にカロリーを気にしたお菓子を用意しつつ、勉強の日々。

公務員には色々な種類があって、受けられるだけ受けた。でも、結果は一次試験で不合格の嵐。

行きたい製菓の専門学校は家族に反対され、もちろん金銭的に大学に進学出来ない、なりたいものを目指せない、公務員もなりたいものだったけど、それさえ落ちる…

不合格になるたび、私の顔から正気が失われていたらしい。お金無いんだからしょうがない!大学行けなくてもいい!働いて稼ぐ!なんて、割とひょうひょうと生きていた気がしたけど、周りの友達にはなんとなく伝わってたようで…。


ある日の部室で、同じパートだった仲良しの子が、何気なく、私にお菓子をくれた。


なにかのアソートパックをひとつ。赤くて、リアル調の男の子がついていて…あぁ、これ、あれだ。ビスコだ。
ありがとう・と友達にはお礼を言いつつ、脳内では

「赤ちゃんのお菓子だよね、これ」

と思いながらパッケージをよく見ると、文字が書いてある。

おいしくてつよくなる

弱りきっていた心に、このキャッチコピーが突き刺さった。

選べる人生の道の少なさ。
その少ない選択肢の中で選んだ道さえ進めない。
不甲斐なさ。
悔しさ。

くじけてた私の体に、ものすごいパワーをくれた。
これを食べたら、きっと、前を向ける。そう思った。

友達が、そのメッセージを私に伝えたくてビスコをくれたのか、真相はわからない。でも、その友達には今でも心の中で感謝してる。

すべての公務員試験に落ちて、民間の仕事についた。慣れない仕事でくじけたり、元気が出ない時にはお菓子コーナーで赤い箱の男の子を探した。心の中で、あのフレーズを唱えて。じんわり浮かぶ涙を乾かして、レジへ。


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「おかぁさーん、これにするぅ!」

さらに20年近く経った今、お菓子コーナーで我が子が選んで持ってきたのはビスコの焼きショコラ。

「おー、いいの選んだね。お母さんもこれ好きだから、いいよ。一緒に食べよう」

ビスコを持ってきた我が子に「戻してきなさい」と言う時は、家にビスコの在庫がある時だけ。大体いいよ、って言って買い物カゴに入れてしまう。

乳酸菌も食物繊維も入ってるし、なんとなく、体に良さそうだし。そう思って、今もお世話になり続けている。

きっと、我が子が大きくなるにつれて買わなくなっていくんだろう。でも、もし、難しい年頃になって、親の言葉でのフォローが裏目に出るような、そんな時期がきたら。こっそりビスコを買って、リビングの見えるところに置いておこう。

きっと、力をくれるから。

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