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「聞く読書」をしていたら、「読む読書」ができるようになった話

  うつ病になると本が読めなくなるのは、あるあるらしい。私もそうだった。それが小説を聞いていたら、本を読むことができるようになったのだ。今回はその話をしようと思う。

 うつの気分を上げてくれる散歩。1日3時間を超える散歩を続けていたら、散歩のお供、ポッドキャストのお気に入りの番組を聞き倒してしまった。
 そこで小説を聞くことにした。最初は朝井リョウの『正欲』。映画がポッドキャストで話題になっていたのもあって、これを選んだ。
 朗読者の静かな声がすっと頭に入ってきて聞きやすかった。物語の終盤に「正しい」とは何なんだと心を揺さぶられていく感じは、本を読む行為と遜色なく、私は聞く読書に満足した。

 次は川上未映子の『黄色い家』、西加奈子の『サラバ!』と続いた。

 うつ病になってから、文字を目で追っても頭に入ってこなくなっていた。半年以上読書ができず私は焦っていた。
 だが小説を聞くことはできた。これは驚きだった。
 小説の世界に入るまでは少し時間がかかるけれど、それは本を読む時も同じ。3分も続ければ、物語の世界に入っていて、朗読者の次の言葉を心待ちにしている。

 ミステリー仕立ての『黄色い家』を聞いていた時には、早く次を聞きたくて再生速度を1.2倍、1.5倍と上げていった。本を読んでいたらそのスピードになっているはずで、言葉が待ちきれないのだ。

印象的なシーンは朗読を
聞いた場所もセットで覚えている。


 聞く読書にすっかりハマった私は、以前から読みたいと思っていた西加奈子の『サラバ!』に挑んだ。上下に分かれたリアルな本の厚みご存知だろうか?
オーディブルでは上中下に分かれていて21時間を超える大作だ。

主人公の歩はイランで生まれ育つが、イラン革命のために帰国。歩は、大阪での新生活を始める。
 そんな折り、父の新たな赴任先がエジプトに決まる。日本人学校に通うことになった歩は、ある日、ヤコブというエジプト人の少年と出会う。

歩と個性豊かな家族、中東の暮らしぶりをオーディブルの上から中へと聞いているうちに、我慢ならなくなった。

本が読みたい!活字を目で追いたい!

 どんなに倍速にしてもダメなのだ、目で文字を読む時の没入感は味わえないのだ。
 かくして私はリアルな本を入手し、思う存分自分の速度で『サラバ!』を読了した。

 まだ以前より読む行為は苦手だけれど、本が読めるようになったのはうれしい。本の手触りが好きだ。



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