見出し画像

14羽「6カ国目・カンボジア・Cambodia3」

いまから11年と4ヵ月と5日前。

2007年1月13日。

この日、僕は世界遺産で脱糞していた。

世界遺産「で」と書くと、世界遺産内のトイレで糞をしたとも読めるか。
では訂正する。僕は世界遺産「に」脱糞した。
いまから僕はなんにも悪くないという言い訳を長々とするから、どうか最後まで聞いてほしい。

いまから11年と4ヵ月と6日前。

憧れのアンコール遺跡群で脱糞する前日。僕はそこら辺の道端の屋台で売っていた「焼き虫」を食べた。「焼き蒸し」の誤変換じゃない。虫は焼かれていたかもしれないし、蒸されたのかもしれないし、煮られたのかもしれない。そこら辺はよくわからないけど、とにかく「熱を通された虫」だ。
お写真はこちら。

このうちのどれか1つだったか、2つだったか、3つだったかは酔っ払っていたしあんまり覚えてない。一緒の宿に泊まっていた人たちとカードかなにかをやって、負けたやつが虫を食う、みたいなことをやって、まぁ僕は負けたわけです。別に好き好んで食べたわけではないんです。しかしこれが食べてみると意外とイケましてな。胡椒が効いていて、ビールとよく合うんです。あんまり覚えてないけど、僕は勝っても食べ、負けても食べ、「はい、ウノって言ってな~い!!(´◉◞౪◟◉)どや」とかバカみたいに叫びながらも食べた。結局罰ゲームに買ったものだけでは足りず、新たに買い足しにも行った。他のみんなは負けたとき以外食べなかったので、余った虫は僕のベッドサイドテーブルに集められた。みんながおやすみ前のアイス食べてるときもまだ、僕はひとり虫をかじっていた。

一夜明け、翌日。

僕が記念すべき脱糞第一号をかました瞬間は、奇跡的に写真におさめられた。これだ。

「ヤバイ!ヤバイ!トイレどこ?!」と遺跡の上からバイタクの兄ちゃんに叫んだら、彼は「写真を撮ってくれ」と勘違いした。「ウェア イズ ザ バスルーム」 をどう聞き間違えたら 「プリーズ テイク ア フォト」になるんやと突っ込むヒマもなく、ビッグバンは起こった。さすがにこの距離で臭いがしたというわけでもないだろうけど、下に写っているハゲは「かなわんわー!」と逃げているようにみえるし、左上には僕の脱糞した瞬間を撮っているやつまでいる。なんていう辱めだろう。天久聖一さんの「味写入門」に掲載できるんじゃなかろうかというほどの情けない写りっぷりだ。

僕はこのあと遺跡の周りの茂みに飛び込み、小一時間ほど悶絶した。アンコール遺跡群とは遺跡そのものだけでなく、密集して遺跡が残っているこのエリア全体を指しているそうだ。つまりはこの茂みも土も、一応は「世界の遺産」。世界遺産を汚してしまったとネガティブに考えるか、むしろ遺産の総量を増やしてあげることになった、栄養も与えてあげることができた、よかったよかった感謝せい!とポジティブに考えるか。僕がどちらだったかはご想像におまかせする。

全然関係ないけど、味のある写真で思い出したのが「北朝鮮レストラン」。

まだ腹を壊すまえ、たしかシェムリアップに着いた次の日に、同じ宿に泊まっていた日本人に誘われて興味本位で行った。世界に数軒しかないよ、と言われて思わず行くといってしまったけど、正直なところ全然興味がなかった。

踊っているお姉さんたちは確かにきれいだったけど、なんだか広い舞台の上でまばらに座る客のために踊る景色にはなんだか哀愁を感じてしまったし、名物とされる冷麺もおいしくなかった。

ただ、お姉さんたちをしつこく激写する中国系のおじさんはおもしろかった。

ひとり舞台ギリギリまでせまり撮影しようとするおっさん。露骨にパンツの中を撮ろうとするおっさん。少ないとはいえ数名の客がいるなか、恥ずかしげもなく一心にシャッターをきり続けるおっさん。(ちなみにパンツはどうがんばってもみえないつくりになっている。当たり前だ。)

僕を含めそこにいた日本人全員がお姉さんよりおっさんを撮りまくったのは言うまでもない。いま見返しても「味があるなぁ~」と思うが、まさかこの数日後、じぶんも味のある写真の被写体のひとりになるなんて、このときは想像だにしてなかった。

気が狂うほどの痛みに苦しんだのに、僕は病院に行かなかった。

僕の入った海外旅行保険で行ける病院は、シェムリアップにはなく首都プノンペンまで戻るか、タイのバンコクまで行くしかなかった。プノンペンに戻るのもバンコクへ行くのも、どちらも1日がかりの移動になる。それならバンコクにいく一択しかない。

バス内で脱糞するかもしれないという恐怖からか、国境を越えた記憶がまったくない。気づいたら、バンコクに着いていました。

このときはもう本当に大変だったけれど、不思議とあれ以来どこへ行っても全然お腹を壊さなくなった。インドに1か月もいたのに一度もお腹を壊さなかったし、アラスカで2週間以上野宿したときもなんともなかった。

破壊された筋肉がより強く大きくなって再生されるように、僕のお腹も虫たちに破壊し尽された結果、より強くなったのかもしれません。

結果として僕のお腹は強くなったし、遺跡ですくすくと成長する木々たちに豊潤な栄養も与えることができたし、バイタクの兄ちゃんを除いて僕は誰にも迷惑をかけてない。(バイタクの兄ちゃんの大事な大事なバイクは汚物まみれになった。)

これも商売だ。むしろ彼にとっても、より強い気持ちをもってバイタク業に取り組むためのいい経験になったんじゃないかしらん。だとしたら、これはもう本当にメリットしかないような出来事だ。みんな幸せ!よかったよかった。

というわけで、みなさんもカンボジアを訪れた際はぜひ虫をご賞味ください。

きっとあなたと、遺跡で育つ木々たち、そして観光業で生活する現地のカンボジアの方々の心身の成長につながります。

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?