ハーゲンダッツ2

8羽「3カ国目・中国・China3」

ガガガガガガガガガガガガ!

朝8時。ものすごい音が聞こえ、ホテルのベッドから飛び起きた。

寝ぼけているのか、夢なのか?と一瞬自分を疑うほどでかい音が、部屋のドアの方から聞こえている。まさにドアをこじ開けているような音だった。いや、僕は本当にこじ開けられていると思った。

ベキベキベキベキベキベキベキ!

いったいなにが起こっているんだ?!時間を2日前に巻き戻そう。

中国名は「奥森酒店」。

しかし英語読みは「オーシャンホテル」。

森なんか海なんかどっちやねん。
という中途半端な名前がつけられたホテルに腰を落ち着けた僕は、まずバスタブに浸かった。約1週間ぶりのバスタブだ。

バスタブがついてるようなちゃんとしたホテルでも、僕はもうこの国を信用できなかった。すっかりバリケード癖がついてしまい、扉と窓にバリケードをつくらなければ安心できない状態に陥ってしまった。あのまま中国にいたら、僕は今頃バリケード職人になっていたかもしれない。

監視カメラかなにかで見られていたらとても滑稽に写っていたことでしょう。お前は組織を裏切った殺し屋か?と言われてもおかしくないほど警戒しまくった。撃たれて血が流れてるわけではないけど、血から血が流れてる。じゃなくてケツから血が流れている。足をつたって流れる血の跡でもつけた日には、僕は本当に裏切りの末、凶弾に撃たれた哀れな殺し屋にみえたかもしれない。しかし屋台の揚げ物ひとつでケツから血が止まらない僕が殺し屋以上に哀れなのは、言うまでもない。僕は体以上に精神的に衰弱しきっていた。

しかし驚くことに、バスタブで身体をあたため、丸1日寝たり本を読んだり日記を書いたりしてベッドの上でゆっくり休んでいたら、びっくりするくらい回復した。本当に精神的なものだったのかもしれない。と思えるほどピタっと止まった。以後、僕のケツから出てくるものはすべて茶色かった。「地球は青かった」的な言葉がでそうなほど、それ(つまりうんこ)は僕をとても安心させた。うんこは茶色かった。便器も白かった。地球は青かった。なんてすばらしいんだ!

すっかり元気になった僕は、この奥森酒店に3泊するつもりでいたけど2泊でじゅうぶんな気になった。ここにあと1泊する理由もなくなってしまったし、1泊80元はやっぱりちょっと高い。このベッドはハーヘンダッツ片手にしあわせそうに寝そべる女の子みたいな気分になりそうなくらい寝心地がよかったけれど、できるならキャンセルして返金してもらいたい。そして次の町へ進んでしまおう。ということで、世話になったフロントのおじさんに伝えたが、当然返金はしてもらえなかった。うーん、1泊分もったいないけど明日出発しちゃうか、ここでもう1日のんびりして中条あやみにでもなりきるか、どうしようか。よし、明日起きたら決めよう!ということで眠りについた。
しかし翌朝、おそろしい事件が起きた。

ウィーン!ウィーン!
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャッ!!
ベコベコベコベコベコ、ガッシャーン!!ドカーン!!

それはホテルのとなりで工事がはじまった、とかそんなレベルの音ではなかった。いままさにドア自体が壊されている。そうとしか思えない。そしてこれはハンマーだとかバールなんていう「ちゃち」なものじゃない。確実にでかい機械をつかっている。バリケード職人見習いにも満たない素人のバリケードなんて、一瞬で吹き飛ばせてしまえるような駆動音だった。

僕は心の底から恐怖した。なんだ?僕はまたなんか悪いことしたのか?まだ誰も裏切っちゃいないし、殺し屋でもない。いや、もしかしてあのフロントのおじさんが、なにかしらヤバイ組織の人間だったのか?そう言われてみると、なんだかいかがわしい人間にみえなくもなくもないこともない。よよよ、よくよく考えれば、上から3つ目までボタンを開けてるなんてまさしくチンピラじゃないか!なんで気付かなかったんだ!お前は中国をなめすぎだ!中国にはそこらじゅうにマフィア的存在がいるんだ!お前はやっぱりネギをしょったカモなんだ!どこからみてもカモにしかみえないほど弱っていたし、そんなお前なんか簡単に捕まえてどこかへ売り飛ばせる!昨日のお前なんか、今日の僕でも容易く捕まえられるぞ。そうだ、そうに違いない。理由はわからないが、僕はいまからとっ捕まってどこかへさらわれてしまうんだ!

恐怖で時間感覚はさっぱり覚えてないけれど、こんな自問自答を1分くらいしていたような気がする。しかし不思議なことに、ものすごい音がするわりには、いつまで経ってもだれも入ってこない。

さらわれるぅ!おかされるぅ!ちょん切られるぅ!と被害妄想全開だった僕が冷静になるのに、加えて2分はかかったと思う。

さすがになんか変だ、と思いドアを見るも、ドアもバリケードも全部無事で、元の通り。あれ?なんかおかしいぞ?相変わらず激しい音はやまないけど、どうやらドアをぶち破ろうとしてるわけではないようだった。

僕は自分でつくったバリケードを自分で取り除き(なんて滑稽なんだろう)、おそるおそるドアを開けた。

ドアの目の前に、でかい脚立があった。ドアから近すぎて、5分の1くらいしか開けてないのに、ガツン!と当たった。

「なんじゃワレェ!!!」

すごい剣幕で怒鳴られて、急いでドアを閉める。脚立の上にはヘルメットをかぶった中国人のおっさんがいた。そのおっさんにめっちゃ怒鳴られた。なんじゃワレェ!って言った。絶対言った。中国語だけど絶対そうだ。「ハーゲンダッツクリスピーサンド3種のベリーとレアチーズ」は絶対うまいに違いない。食べたことないけどそれくらい僕にだってわかる。それくらい確かなことだ。あいつ絶対「なんじゃワレェ!!!」って言った。

背中越しのドアの向こうでものすごい音がするなか、変わらないホテルの室内をみてるうち、だんだん腹が立ってきた。なんじゃワレ!ってお前の方こそなんやねん。こっちは宿泊してる客だぞ。ホテルに客がいるのなんて当たり前だろ。なんで怒んねん。ていうかなんでドアの前に脚立置いて工事はじめとんねん。絶対お前の方があかんやつやんか!

恐怖より怒りがまさってきて、僕はもう一度ドアを開けた。男は廊下の天井をぶっ壊していた。僕の部屋のドアの、目の前の廊下の天井をだ。廊下の電気は全部消えていた。ここで僕はさらに驚いた。天井どころか、廊下の壁も崩れ、床はがれきの山だった。廊下にでて、足もとに転がるハーゲンダッツクランキークランチのアーモンドみたいに粉々に砕かれているコンクリートたちをみて、僕はようやく気づいた。

「こいつら、改装工事はじめとる。」

僕はフロントにダッシュし、おじさんに猛抗議した。

ありえへんやろ!わしまだ泊まってるんやぞ!なんで工事はじめとんねん!「模様替え」なんてレベルちゃうぞ!バイオハザードのステージみたいになっとるやないかい!なんですか?中国ではいまバイオハザート風の内装でも流行ってるんですか??わしのケツからでるもんがいま、ハーゲンダッツスイートストロベリーくらい赤なっとるっていうたよな?!クリスプチップチョコレートとまでは言わんけど、せめてブロンドショコラ~マロンソース仕立て~くらいの色になるまで休みたいって言うてたやんな?!なのになんで廊下の壁から天井から全部砕けて粉々のクッキー&クリームみたいになっとんねん!!

しかしおじさんはハーゲンダッツを食べたことがないのか、僕の言ってることを全然理解してくれなかった。工事はじめちゃってるのに、今日1泊分のお金も返してくれなかった。

部屋にもどり、荷物をまとめ、態度の悪い現場作業員のケツにクランキークランチの棒を突っ込んでやりたいと思いながらエレベーターに乗って下に降りた。おじさんに文句を言いにいったときは気づかなかったけど、エレベーターの右側の壁も一部なくなっていて、むき出しのまま動いていた。

他にも色々とヤバイところはあったし、いま思えばよくあんな解体現場みたいなところを平然と通り抜けれたなと思うけど、あのときは怒りで冷静に周りをみれていなかった。たぶん中城あやみちゃんが東出昌大くんと入れ替わってても気づかなかった。それくらい、僕もおかしくなっていた。もう色々とありえなかった。

こうして僕はなかば追い出されるように、「奥森酒店」またの名を「オーシャンホテル」をチェックアウトした。

そして駅に向かい、電車のチケットを買った。

こんな調子で、旅が楽しいなんて全然思えなかった。

3話につづいてこんな話ししかできないんだ。楽しいわけがない。

でも、安心してくれ昨日までの僕。散々な目にあうのも、ここまでだ。

今日この先に、あまいあまい、ユートピアのような場所が待っている。

この先は、写真をたくさん撮っている僕がいる。

こんな文章だらけのnote読まずにすむぞ!

ということで、来週につづきます。

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