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おにぎりエッセイ

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おにぎりにまつわるストーリーを綴っています
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記事一覧

vol.12 「書く」を休んでみた 【レシピ未満の焼きおにぎりアレンジ】

書けない。 時間がない、ネタがない、気分がのらない、正解がわからない。 頭の中にポンポンと理由を浮かべてみては、全部“いいわけだ……”と針をさしてしぼめていく。 「書けないのは、書かないからではないだろうか?」 そんな当たり前のような解答に、本当はもうずっと前から気づいていたのだと思います。気づいていたけど、ただその事実の前に呆然としてしまう自分がいました。 とにかく書けない ごめんなさい。のっけから超ネガティブで。 でもこれが、ここ数年、自分の内に抱えていたひとつ

vol.11 はじまりの風景 【朝から幸せになれる ほうれん草とウインナーのおにぎり】

「今朝は、何番手だろう」 はやる気持ちを抱えながら、早朝に車を走らせました。 流れる景色に映るのは、仄暗いなか荷台に仕事道具を積み込む人や、ダウンジャケットに顎まですっぽり包まれながら犬の散歩をしている人。この時間帯を外で過ごしている人数は多くない。勝手に仲間意識もちはじめた頃、雲がピンク色に染まりはじめる。 去年の暮れから年明けにかけて、朝活を復活させました。 もともと朝は得意なほう。しんと静まり返ったダイニングで、ひとりパソコンを開き、カタカタ指を動かすのが好きなん

ほぼ毎日おにぎりを握る 【4年目の考察】

6月18日は「おにぎりの日」。 日本最古の“おにぎりの化石”が出土した石川県の旧鹿西町(ろくせいまち)にちなんだ「6月」と、米という字に“十”と“八”が含まれていることから米食の日とされている「18日」が合わさって制定されたのだとか。 わたし自身は、SNSでおにぎりの投稿をはじめてから3年が経ちました。 せっかくなのでこの機会に、ほぼ毎日おにぎりを握ってきて感じたおにぎりの魅力についてまとめてみようと思います。 まだ飽きはこない「自分のために1日1個、おにぎりを握ろう

vol.10 ジーンズの魔法 【ピリッとアクセントが効いた 枝豆わさびのおにぎり】

「大切に履きつづけていけるような、上質なジーンズが1本欲しいのよね」 友人がぽつりと放った言葉に激しく反応しました。わたしも同じことを考えていたから。 その友人と会うのはコロナ禍以前ぶり。会うといつもおしゃべりが止まらなくなるのと同時に、買い物モードが一瞬でトップギアに入ってしまいます。友人とは好きなテイストが似ていることもあり、一緒にショッピングすることが楽しくてしかたないのです。 そんな友人とさっそく、ジーンズ探しをはじめました。 直接触れることを忘れた数年間

vol.9 うねる前髪に射す光【あえてそのまま入れてみた プチトマトのおにぎり】

毎年この時期は、髪の毛のうねり具合で「あぁ、もうすぐ梅雨だな」と感じます。 とにかくここからの数カ月は、自分の体の一部であるはずの髪の毛に、とことん好き放題される期間。もう起きた瞬間からバリバリの反抗期で手に負えません。 雨の日でもサラ、ストンとしている髪に憧れて、コンプレックスに支配される年代もいくつか越えてきました。そして大人になるにつれ、「はいはい。今は暴れたいときなんだよね」と、ありがたくもない悟りを開いてきたのです。 * 先日訪れた美容院でも、大きな鏡に映る

vol.8 惹かれる人の共通点【どうしたって食べたくなる お好みソースのおにぎり】

「この人に会うとなんだか嬉しい気分になれる」という存在はいますか?わたしにとっては、ある宅配業者のスタッフの方がそうです。 ネットショッピングにいそしむわたしのもとに、ときどきやってきてくださるそのお方。わたしよりも15〜20歳くらいお姉さんかな?という頃合いの女性です。 ドアを開けるといつも、素敵な笑顔で挨拶してくださります。それもわざとらしくない、なんだか「おかえり〜」と言われているような気さくな雰囲気。 荷物を持ってきてくださったのはその方なのに、わたしのほうが自

vol.7 温もりに包まれたわたしたち【まるごとウインナーおにぎり】

子どもの頃、ずっとこんなふうに思っていました。 「ひとりで気ままに生きていきたい」 早く働けるようになりたい。海外にひとりで行ってみたい。ひとり暮らしがしたい。とにかく大人に憧れて、それこそわたしの今の年齢くらいを生きる世代の人たちが羨ましかったんです。 一方で、いつだったか母が何気なく放った次の言葉が、ずっと心のなかに引っかかっていました。 「人はひとりでは生きていけないよ」 当時のわたしは小学生とかで、社会の仕組みも何もかもまだ全然知らない時期。母の言葉の真意が

vol.6 超あがり症のわたしがテレビ&ラジオ出演した話【塩こんぶで作る オートミールおにぎり】

少し前、メールボックスに1通のオファーが届きました。 「ラジオの生放送でインタビューしたいです。」 ある晴れた日曜の正午過ぎでした。“わたしがラジオ!?”と驚きつつも、春の陽気でチルな気分になっていた頭の中に“面白そう!”という直感が走ったのを覚えています。 そこからバタバタと出演が決まり、数日後にはラジオブースに座る状況が実現。少し前までは想像さえしていたなかったシーンに、よくある言い回しかもしれませんが、人生って何が起こるかわかならいなと思ったのです。 そんな経験

vol.5 未完成の魅力【ちょっと焦げても絶品 キムチとチーズの焼きおにぎり】

子どもの頃から、大人になってからも、よく父とふたり旅をしました。 “移動”そのものを楽しむタイプの父なので、旅といっても飛行機や電車を使うことはなく、自家用車で何時間もかけて目的地へ。到着したらものの数時間でとんぼ返り、といった具合です。 そんな父と中学生の頃、一台のバイクで淡路島へ訪れたことがあります。 南大阪の深日港からフェリーに乗って、淡路島の洲本港へ。父が運転するバイクの後ろに乗り、のんびり島内を周遊しました。島特有の穏やかな雰囲気を、風で感じるのが気持ちよかっ

vol.4 生活に余白を生む【秒でできる お茶づけおにぎり】

日常生活の中で、ゆっくりと椅子に腰を据え、家族や友人とおしゃべりする時間はありますか?シンプルに会話を楽しむ習慣はありますでしょうか? * 先日のこと。わたしは総合病院での定期検診を終え、院内に設置されている売店に向かって歩いていました。 売店までの道中リハビリ病棟を通るのですが、そこでは廊下のあちこちで、パジャマ姿の患者さんと医療スタッフの方が、歩く練習をしたり、ベンチに座って休憩していたりする姿を見かけます。その日もたまたま、わたしの前に、松葉杖をついた女性と医療ス

vol.3 おいしいを受けとめよう【朝にぴったり サラダチキンおにぎり】

やめようと決めました。 “ながら食べ”というものを。YouTubeを観ながら、雑誌を読みながら、仕事をしながら、はたまた答えが出ない考えごとをグルグルと頭の中に巡らせながら。 特に朝食の時間は、今日一日であれもこれもやりたいという気持ちから、つい食べながら他の事柄にも手をつけてしまいがちです。気がつけばお皿はカラになっているし、お腹は満たしても心まで満たす実感はありません。 * もともとマルチタスク(複数のタスクを同時にこなすこと)が脳に負担をかけ、結果的に効率を下げ

vol.2 自粛生活の先にあったもの 【栄養もとれる ひじきおにぎり】

家族でおうちに引きこもる生活も、もう何度目でしょうか。 新型コロナウィルスの影響で、子どもたちが通う保育園でもクラス閉鎖が実施されたためです。 さて、困りました。 フリーランスで在宅ワーク、すでに納期が決まっている仕事をいくつか抱えており、おうちに家族がいようがいまいが作業はストップできません。 ひとまず子ども2人とわたし自身が、なるべくストレスなく過ごせる1日のスケジュールを決めて、さぐりさぐりの日々がはじまりました。 ◇ 一番きがかりだったのは、子どもたちのお

vol.1 記憶に刻まれるごはん 【ひと手間で美味しい おかかおにぎり】

家族でのおでかけには、いつも母が握ったおにぎりが一緒でした。 近所の里山にふらりと遊びに行く際も、たまの家族旅行にも、出発の前には必ず、台所でいそいそとおにぎりを握る母の姿があったことを思い出します。ラップで包んで、ころんころんと袋に入れられたシンプルな塩むすび。おかかや梅干し入り、海苔を巻いたものやふりかけを振ったものも少し。 遊びの途中やドライブの休憩に、ぱくぱくと塩むすびをほおばる若かりし日の父も光景の中にいて。今もなお、おにぎりを作ったり食べたりしていると、そんな