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ひとつ嘘混ぜたらぜんぶ嘘になる 擦り切れたって恋なのになあ

ひとつ嘘混ぜたらぜんぶ嘘になる 擦り切れたって恋なのになあ/藤井 うたの日2023.1.28『 たら/たり/たる/たれ 』 禁断の恋、と少し前まで言われていた恋を、いま私はしている。 私には同性の恋人がいる。 私は女性。恋人も女性。 当事者である私には禁断どころか何の違和感もないことだが、理解が進んだのは最近のことであり、時代に関わらず同性愛がマイノリティであることは意識している。 お互いの家族や友人などには打ち明けているが、たとえば職場の人全員に話しているわけでは

    • Bless or hate crime ソーダ割り選べばそれで十分だった

      Bless or hate crime(祝福とヘイト・クライム) ソーダ割り選べばそれで十分だった/藤井 うたの日 2023.6.7『ライム』 レイン・オン・パレード 法も結婚も要らない、きみに傘を差したい/藤井 うたの日 2023.2.6『レイン』 香港のショッピングモールで、手を繋いでいた同性カップルが刺殺される事件があった。 報道によって、被害者の2人を「友人」としていることもあれば、犯人が精神疾患を抱えていたという情報もあり、詳細な事実はわからない(仮にカップル

      • 葉桜がひとりでそよぐ おれを許していないのはおれだけだった

        葉桜がひとりでそよぐ おれを許していないのはおれだけだった/藤井 うたの日 2023.5.2『葉桜』 小学生から12年間、サッカーをしていた。 強豪のクラブチームではなかったが、12年という歳月は私に多くの経験をもたらした。 そして最後の数年間、すなわち私が大学生のとき、私はチームのキャプテンを務め、県の代表に選ばれたりもした。 端的に言えば、私はそれなりの技術をもつ選手になっていた。 そこでサッカーを辞めてしまうのは惜しいくらいの。 何より私はサッカーが大好きだ

        • あたためる この世のすべてが類想になった時渡したい言葉を

          あたためる この世のすべてが類想になった時渡したい言葉を/藤井 2022.9.17 うたの日『時』 愛おしいと思った時に、好きと伝えるように。 心を痛めた時に、悲しいと伝えるように。 感謝した時に、ありがとうと伝えるように。 傷つけてしまった時に、ごめんと伝えるように。 私たちはみんな違う人間なのに、同じ感情を抱いて、それを同じ言葉で伝える。 なんなら、同じ感情ですらないかもしれない。 感情を表すというのは、2人の人間がりんごを指差して「りんご」と言うのとは違う

        ひとつ嘘混ぜたらぜんぶ嘘になる 擦り切れたって恋なのになあ

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          雪の果て 私が私のために泣くまでを代わりに泣くひとがいる

          雪の果て 私が私のために泣くまでを代わりに泣くひとがいる/藤井 2023.3.22 うたの日『私』 雪の果て。終雪、その冬の降りじまいの雪。 それは、その雪が降っている時には、そうだとはわからない。 暖かくなり、桜が咲き、また暖かくなり、もう雪は降らないだろうという確信をもって、あれが終雪だったのだと気づく。 そんなふうに後から気づく悲しみがある。 誰かに教えてもらってやっと気づける悲しみがある。 最近、職場で嫌なことがあった。 ミスをしたとかではなく、受動的に

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          足の裏のへんなところにマメがある どうしてきみにぼくなんだろう

          足の裏のへんなところにマメがある どうしてきみにぼくなんだろう/藤井 うたの日 2023.2.23『変』 彼女と温泉旅行に行った。 温泉が好きな彼女は、でもすぐにのぼせてしまうので、全身ではあまり浸からずに身体を少しずつ外に出しながら温泉に入る。 そして露天風呂にて。私の前に岩があり、岩を挟んで向こう側に彼女がいた。 彼女が例によってばしゃりと脚を外に出し、くるぶしを岩に乗せたとき、足の裏が私の正面に来た。 へんなところにマメがある。 中指のすぐ斜め下。 へんな

          足の裏のへんなところにマメがある どうしてきみにぼくなんだろう

          でもきみの悲しみだから聞いているありふれたありふれたなきごと 

          でもきみの悲しみだから聞いているありふれたありふれたなきごと/藤井 2022.4.24 うたの日『から』 自分だけが辛かったらいいのに。 そう考えていた時がある。 辛いのが自分だけだったなら、それに押しつぶされてだめになってしまった自分を許せるのに。 辛さに押しつぶされることなく歩き続ける人たちと自分とを、比べなくていいのに。と。 私の悲しみはきっとありふれている。 悲しみを寸分違わず分かりあうことなどできないくせに、自分の悲しみが普遍的な感情だなんて、あまりに残

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          意味なんて無くていいのにきみに花言葉をもたない花をあげたい

          意味なんて無くていいのにきみに花言葉をもたない花をあげたい/藤井 うたの日 2022.4.9 『無』 花言葉は嫌いじゃない。 自分の部屋に飾るための花を買う時は見た目や直感で決めるけど、人から何か花をもらったらきっと花言葉を調べてしまう。 そんな程度に興味があって、そんな程度に興味がない。 気になるかならないかで言われたら気になる。 そういう感じ。 でも、そうやって花言葉が特別好きというわけではない私でさえ、花をもらったときに花言葉を気にしてしまうのであれば。

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          冬 きみがきみをゆるせない朝ならば給湯ボタンは僕が押すから

          冬 きみがきみをゆるせない朝ならば給湯ボタンは僕が押すから/藤井 うたの日 2022.12.1『冬』 「まあいっか」で自分に優しくできないときがある。 冬の水道水は冷たい。 私が想像する冷たいものの中で一番冷たい。 というよりは、冷たいものと言われていちばんに浮かぶ、のほうが正確かもしれない。 辛いとか寂しいとか悲しいとか、そういう気持ちの温度に似ているのが、冬の水道水だ。私の中で。 だから本当は、冬に水道水を出すときはお湯を使いたい。 だけど使わないことの方が多

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          いつの日かあなたを憎みそうなとき思い出すピノの一粒だろう

          いつの日かあなたを憎みそうなとき思い出すピノの一粒だろう/藤井 うたの日 2022.12.30『みそ』 嫌いになれたらいいのに、と思うことが何度かあった。 あなたの未来にどんな不幸が待っていようと、知らん顔をしてみたかった。 あなたが笑い、悲しみ、喜び、涙することに、ひとつも心を動かされないでいいと思った。 それでも、ひとを嫌いになるのは難しい。 それはあなたが私の重い病気を治してくれたからではなく、断崖絶壁で手を取ってくれたからでも、怪獣の破壊光線から守ってくれた

          いつの日かあなたを憎みそうなとき思い出すピノの一粒だろう