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『SOLE』赤ちゃんを売るために偽装夫婦を演じる男女に待ち受ける運命

10月10日よりMUBIで配信が始まったイタリア映画『SOLE』がなかなかの良作だった。監督はローマ出身のCarlo Sironi。ミュージックビデオ・テレビ番組・ドキュメンタリー・短編映画とキャリアを経て本作が長編映画のデビュー作となる。

身重のポーランド人女性 レナは子供のいないイタリア人夫婦に生まれてくる赤ちゃんを売る約束をする。その夫婦の甥 エルマンノはレナと偽装夫婦を演じるよう言いつけられる。イタリアでは代理母出産が禁じられているため「養育能力のない若夫婦に代わって赤ちゃんを養子縁組する」という表向きのストーリーが必要なのだ。

エルマンノは赤ちゃんが生まれてくるまでレナの夫役、つまり身の回りの世話をしなければならない。しかし見ず知らずの妊婦にそれほど気遣いができるほど大人ではない。二人のために用意された部屋にレナを残して酒にギャンブルにと好き放題。一方レナは見知らぬアパートの一室に閉じ込められて苛立ちを募らせていく。

ある晩、いつもどおりエルマンノは自分の寝室で寝ているとレナの呼ぶ声が聞こえる。ただならぬ表情で「赤ちゃんが動かなくなった」と訴える。二人は急いで病院に駆け込む。幸いなことに医師からはお腹の子供は順調に育っていると告げられる。このことがきっかけで責任感のなかったエルマンノにレナを気遣う気持ちが芽生える。

出産まで残された期間を恋人でもなく夫婦でもない微妙な距離感で過ごす若い二人。買い物に出かけたり、友人のパーティーに参加したり、行きつけのスロット屋で遊んだり。これまでずっと平行線たどってきた男女の感情が少しずつ交わり始める。しばらく前まで赤の他人だったのに、今や未熟な若夫婦の顔になりつつある。そして遂に新しい命の誕生を迎える。

この映画の本当に美しいところは子供の誕生をきっかけに、バイク泥棒を稼業にしていたエルマンノが父性を身に着けていく描写だ。手放すことが決まっている赤ちゃんにそっけないレナとは対照的に、エルマンノはオムツ替えや寝かしつけに率先する。この父性の芽生えが彼の中に淡い希望さえも抱かせる。もしかしたらレナと赤ちゃんを養っていけるのではないか。そうすれば3人で暮らしていけるのでは…

「赤ちゃんの養子縁組」というテーマを聞いてすぐに連想するのはエリオット・ペイジ(当時はエレン・ペイジ)主演の『JUNO』だろう。ティーンの望まない妊娠と出産をコメディタッチで描いたことで人気を博した。テーマ的には今回の『SOLE』も類似しているが“東欧の女性が出産して子供を売る”という設定はヨーロッパ社会の影の部分に光を当てているとも言える。厳しい目で見れば人身売買をメロドラマで美化しているとも取られかねない。

どのような感想を抱くかは個人の自由として、私としてはCarlo Sironi監督のテーマ選び、人物の上部に大きく空間を取った独特な構図の作り方、二人の主人公の感情をラストで爆発させるためにあえて単調なリズムを選んだ手腕を評価したい。映し出されるイタリアの海が青々とした地中海ではなく、むしろ鉛色の日本海のようにどんよりとした色をたたえていることにも目を引かれた。

トロント国際映画祭2019で監督と主役の二人が登壇した様子が公開されている。英語・イタリア語・ポーランド語が行き交う国際的な雰囲気だが、映画の内容や俳優たちの苦労が垣間見えてとてもよかった。(※この動画の概要欄で主人公の二人が劇中では10代の設定だと気づいた)

ポーランドから来た妊婦を演じたSandra Drzymalskaは、今年配信のNetflix作品『Sexify』にてメインキャストで出演している。

●作品情報 『SOLE』監督:Carlo Sironi 制作:イタリア・ポーランド 公開年:2019年 上映時間:103分

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