僻地にて #1

6月第1週土曜日の明け方、私は千鳥足でワンマン電車に駆け込んだ。プシューとドアが閉まる音を車内で聞いて私は安心した。1時間に一本しか電車がないので、次を逃すと大変なことになる。都会と比べて電車一本の重みが全然違うのだ。新卒の初期配属で僻地に飛ばされて2ヶ月、私は早くも限界が来ていた。

毎朝の出勤時に通るどこまでも続く田んぼ道にも、勤務時間中にお局達が噂話に花を咲かせまくっている職場環境にも、田舎育ちの課長の訛りにも私は嫌気がさしている。就活時に何も考えずに大企業を手当たり次第受けてきたツケが回ってきたのだろう。

車内はガラガラなので、1時間に一本しか電車がないのも納得だ。席に座るとオールした疲れがどっと押し寄せてきた。ガタッゴトッと揺れる電車の音が次第に聞こえなくなり、数分もしないうちに私は眠ってしまった。電車は森の中をどんどん進んでいく。都会の電車と違い、景色は全く変わらない。

浅い眠りについた私は情けない夢を見た。ワンルームの部屋でタバコをふかしているぶくぶくと太った中年になった私。飲み終わった発泡酒の缶と何十冊もの自己啓発本で散らかっている部屋。うなされたように起きた私は、朧げな意識ながら漠然とこう思った。このままじゃいけないと。

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