つながらない権利とジェンダーギャップ - Alternative Work Lab Letters -

人的資本経営の重要性が大きくなり、働き方、職場での仕事のあり方についてのイベントや記事を毎日のように目にするようになった。実際に以前に比べ、働き方に関する関心度は高くなっているだろう。そんな中でリモートワークの普及とともに多くの会社でフレックスタイム制など、フレキシブルな時間で働くことが当たり前の権利のように普及してきている。
私も子供がいるが、子供がいると中抜けしたり送り迎えの時間の調節などがしやすくフレキシブルな働き方は必須とも言えると感じるし、子供がいなかったとしてもその日の体調や繁閑に合わせて働けることは良いことであるの間違いない。

フレキシブルに働けることは職場のジェンダーギャップを解消するのにも有効であると言われているが、一方で「フレキシブルワークのみ」に頼っていると逆にジェンダーギャップが生まれてしまうという研究を今回はご紹介したい。

Peters et al.(2019)の「Forget about ‘the ideal worker’: A theoretical contribution to the debate on flexible workplace designs, work/life conflict, and opportunities for gender equality」がまさにそれである。

この中で近年ビジネス界でも聞くようになった「つながらない権利」について言及されている。つながらない権利とは就業時間後や休みの日には仕事の連絡が来ない、職場とつながらない権利が働く人には保証されるべきといった運動、流れのことだ。

フレキシブルな時間に働く職場において、自分が終業後、もしくは休みの日に上司や同僚から連絡が入り、それに終業後や休みであっても返信した方がいい、返信しなければならないという規範が組織に根付くと職場でジェンダーギャップが拡大するという。
この先行研究の中では、上司や同僚からの終業後の連絡に対して返信する、ということは仕事以外の時間、例えば家事をしたり育児をしたりの時間が減ることにつながる。つまり仕事の時間とそれ以外の時間はトレードオフであり、終業後も仕事の連絡をするということはそれ以外の家事などの時間を減らす、もしくは誰かに押し付けることになる。そうなると男性が仕事に時間を費やし、女性が家事などに時間を費やすことが多くなる。結果として男性の方が上司や同僚からすると模範的な社員のように見え、それが後々の昇進や昇給につながっていく。またそのように返信をしていた人が昇進すると、部下にも同じような対応を求めるので、どんどん終業後にも連絡を返すのが当たり前になり、それができない人が淘汰されてしまうというサイクルが生まれる。このメカニズムが職場内で働くことで職場内のジェンダーギャップが拡大してしまうというわけだ。

つまり働きやすい職場を目指してフレキシブルな働き方を推進したのに、結果的にジェンダーギャップを生んでしまったり、長く働ける人が有利になる職場になってしまう。
ここから言えるのは、制度を作るだけでは不十分であり、その制度によって生まれるジェンダーギャップや差異、不具合を防ぐための仕組みや文化とセットであるということである。それがないと、良かれと思った行為の連続によっていつの間にか特定の誰かにとってのみ働きやすい職場になってしまう。

「制度によって解決する」は素晴らしいことだが、実際にはそうはいかない。
本当に働きやすい職場、差異が生じない職場を作るための仕組みや文化を作るための多面的な能力が人事担当や経営者には求められる時代になっているということだろう。


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