飛行機内の妄想
今日、飛行機に乗った。
私はいつも、飲み物のサービスにはスープを頼むことにしている。疲れた体に染み込む感じが好きなのだ。
さて、今日のキャビンアテンダントのことだが、そのスープの入った紙コップを私に渡す時に、こう言った。
「熱々ですので、気をつけください。」
彼女は真っ直ぐに私を見て、事務的ではない笑顔を見せた。まるで付き合い始めたばかりのカップルが「はい、あ~んして。」って言う時のような、そんな笑顔で。
私は呆気にとられた。きっと人見知りの子供が遠くから他人を観察するような目をしていたと思う。そのCAから目を逸らすことができなかった。手元を見てなかったので、思わず彼女と手と手が触れてしまった。
待てよ。
今、CAが「熱々」って言ったよな。
耳を疑った。徹底的に訓練されたCAが、機内で「熱々」なんて言葉を使うだろうか?
紙コップを右手に握りしめたまま考え込んでしまった。
紙コップの熱さに気づいて我に返った時、ジェットエンジンの轟音が聞こえた。その音に混じって、後列の男がコーヒーをオーダーするのが聴こえた。それに対して彼女は言った。「お熱いので、お気をつけください。」
違った…。
私に対して投げかけた言葉と違った…。私にだけ「熱々」と言った。
なぜだろう?
♪もしかしてだけど〜(*)
♪もしかしてだけど〜
♪熱々したい男に出す
♪サインだったんじゃないの〜
私は、まだ暑さの残る夜の東京に降り立った。もしかしてだけど、後ろから「熱々の」視線を浴びていたかもしれない。でも私は、振り返ることなく足早にその場所を去った。
(*)「どぶろっく」からインスパイアされた妄想。
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