40. Spring Power Since 1945 Part1

時は変わって、第二次世界大戦終戦後。

敗戦と言う暗闇の中で、人々が焼け野原になった日本を一筋の光に向かって逞しく生きていた、そんな熱い時代のお話です。

ある町の境の空き地で、二つの小学生のグループがにらみ合い、対峙しています。

「おい!!春男はいるか!?」一方の少年グループの中の、一際体の大きな一人の少年が進み出て、野太い大きな声で怒鳴りました。

彼の名は須田力太郎、大人顔負けの怪力自慢の豪腕で「ヒグマのリキ」と呼ばれ恐れられている、大工の棟梁の息子です。

そして相対するグループの中から、ヒョロッとした長身の少年が進み出て「何だ!?力太郎!!」

と、怒鳴り返しました。

春男と呼ばれた少年は須田春男、素早い動きからの切り裂くような鋭い蹴りを繰り出す「稲妻の春男」、パン屋の息子です。

「お前んちのパンはアメ公から流れてくるメリケン粉で作ってんだってな!?・・・このアメ公の手先が!!」

そう力太郎が大声でののしると、春男が負けじと

「ああ!?お前ん家の父ちゃんだって、アメ公が落とした爆弾で町が焼けちまったおかげで商売繁盛、アメ公様々だって言ってるらしいじゃねえか!!」

すると力太郎は顔を真っ赤にして

「・・・何だとてめえ!!俺の父ちゃんはそんなんじゃねえ!!・・・覚悟しやがれ!!」

一斉に力太郎とその仲間の少年達が駆け出すと、春男達も駆け出し迎え撃ちます。

力太郎と春男は同じ歳で、隣あった町の小学校のガキ大将同士でした。

お互い仲間を数人引き連れて遊び回り、顔を合わせれば喧嘩をするような犬猿の仲です。

しかし、二人とも卑怯な手は一切使わない、まっすぐな性格だったので、お互いを認め合っているような奇妙な仲でした。

「コラアアアッ!!お前ら!!何をしているか!!」

通りからお巡りさんが駆け寄ってくるのが目に入りました。

「マズい!!お巡りだ!!・・・お前ら行くぞ!!」

力太郎と取っ組み合っていた春男が力太郎を突き放し仲間達を振り返り、走り出すと

「クソ!!逃げんのかよ!?・・・俺達も行くぞ!!」すると、先に駆け出していた春男が笑顔で振り返り

「・・・力太郎!ドタドタ走ってて捕まんなよ!」

力太郎も笑いながら

「うるせえよ!・・・またな!」

少年達はちりぢりに走って逃げて行きました。

こうやって子供達は暴れることで、敗戦という暗い時代の空気の鬱憤を晴らしていたのかも知れません。


さて、春男の家のパン屋には、お客さんとして何人かのアメリカ兵が出入りしていました。

春男が店番をしていると一人のアメリカ兵が、口笛を吹きながら商品を選んでいました。

「・・・何だろう?・・・この曲は?」

春男は初めて耳にしたその音楽、ブルースにたちまち心を奪われてしまいました。

そのアメリカ兵も自分の口笛に目を輝かせる日本の少年に興味を持ったようで、来店するたびにアメリカで流行っている音楽を教えてくれるようになりました。

そのうち春男はそのアメリカ兵の部屋に招かれ、彼の部屋にあったレコードと言う不思議な円盤で、未知の音楽に触れ、衝撃を受け、次第にどっぷりとのめり込んでしまいました。

そして彼の持っていた1本のアコースティックギターのその魔法のような音色に触れ、手ほどきを受けました。


しばらくしてそのアメリカ兵は、本国アメリカに帰還する事になりました。

彼は帰国の際、置き土産に彼が持っていたそのギターを春男にくれました。

これがそのアメリカ兵と春男の別れでした。

春男は暇があるとそのギターを持って河原へ行き、ギターを弾いていました。

ある日無心にギターを弾く春男のいる河原の上の土手を、力太郎とその仲間達が通りかかりました。

力太郎は春男の姿を見つけましたが、瞬間的に春男の奏でるギターの音色に心奪われてしまったのです。

すると仲間の一人が、一人でいる春男を見て、

「力太郎君!あいつ一人だぜ。今のうちにやっつけちゃいましょうよ!」

と、喜び勇んで力太郎に提案をしました。

力太郎はそれを聞いて

「バ、バカヤロウ!そんな卑怯な事が出来るか!・・・良いかお前ら、あいつが一人でいる時は絶対に手を出しをするなよ。絶対にだ。・・・わかったな。」

と、叱りつけました。

叱られた仲間は

「・・・ごめんよ、力太郎君。」

半べそをかいてしまいました。

力太郎はその肩を大きな手で優しく抱えてやり

「わかったんなら良いんだ。・・・さあ行こうぜ!」

いつしか春男は、将来ギターで生計を立てるプロのギタリストになりたいと、強く思うようになりました。

ギタリストにとって手は命です。

春男は手を怪我しないように、これまでのように悪さや喧嘩をすることを止めました。

でも春男の家の稼業はパン屋です。

ゆくゆくは父親の後を継がなくちゃいけないのだろうか?と、ボンヤリ考えることもありましたが、ギターを夢中になって弾く事でそんな不安もかき消すようになっていました。

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