34. Nxt Live 2013

商店街の会合が終わり、俺と蕪島君、田穴さんの三人が並んで家路に着いた。

田穴さんが

「ねえ針須君、良かったの?勝手にあんな事言っちゃって?」

それは隣町との合同フェスでの催し物の提案を求められて、返答したことについての問いだろう。

俺が頭をかきながら

「ハハハ・・・、まあ一応活動内容については、みんなから任されてるから、大丈夫だと思うよ。・・・多分ね。」

蕪島君が、笑いながら

「でも、まさかあいつらが同窓会で言ってた事を、本当にやってるとわな。」

・・・?

ああそっか、俺は同窓会に行けなかったんだっけ?

「・・・何話してたの?」

俺がたずねると、

「おう、何か蓮野が毎日マンネリでつまんねえってぼやいてて、松ヶ谷がバンドでもやるか?って言ってたな。・・・俺はそこらでよその奴らの所に移ったから、その話がどうなったのか知らなかったけど、松ヶ谷の冗談だと思ってたからな。まさか40過ぎてバンドって。」

そのまさかの冗談を、結構真面目にやってるんですけどね。

「そうか、あんた達は高校も一緒だったもんね?・・・松ヶ谷君は元気なの?」

田穴さんは中学を卒業して、偏差値の高い女子校に進学したんだっけ。

そんな田穴さんの問いに

「うん!元気だよ。現在は芸能事務所の社長さんだよ。」

すると、田穴さんが眼をまん丸にして驚き

「へーっ!あの問題児が、社長やってるんだ?・・・まあ芸能界なんてどうせヤクザみたいなもんだろうから、あいつには向いてるのかもね。」

・・・徹君、・・・酷い言われようだな。

まあ、俺もちょっと前までは芸能界とかって怖い世界かと思ってたけど、徹君とレイラちゃん見てるとそんなのは一般人の思い込みなのかも知れないのかも?って思います。

「・・・で?誰がいるの?松ヶ谷君の事務所の芸能人って?」

田穴さんが目を輝かせて聞いてきました。

やっぱりそっちには興味があるんだね?

「最近、バラエティによく出てる、レイラちゃんって女の子一人だよ。」

「そうそう、あの子ここんとこ急に売れ出したよな?」

蕪島君が相づちを打つと、考え込んでた田穴さんが

「・・・ゴメン、知らないわ。私、普段本ばっかり読んでて、あんまりテレビ見ないし。」

・・・流石、本屋の女ご主人ですね。

って、これがよく言う、テレビ見ないアピールってやつなんですかね?

僕がその後の返答に困っていると、蕪島君が

「お前さあ、興味が無いなら聞くなよ、祥二が困ってるじゃん。」

・・・その通りです。

すると、田穴さんが口を尖らせて

「別に良いじゃないのよ?・・・それに映画は好きだから、イケメンの映画俳優とかいたらとか思ったのよ。」

御期待に添えず申し訳無い。

・・・いや、俺のせいじゃないよね?

それを聞いて蕪島君が、ちょっと呆れた風に

「何だ、そう言うことかよ。まあ松ヶ谷の事務所にはレイラちゃんしかいねえけど、祥二がつるんでる蓮野って奴も、なかなかのイケメンなんだぜ?」

「ふーん、そうなんだ?」

「・・・まあでも、お前は祥二みたいなのが好みなんだろうから、タイプじゃねえかもな?」

「ちょ、ちょっと、な、何言ってんの!?バ、バカじゃないの!」

ちょ、ちょっと、な、何言ってんの!?

「だってお前昔から祥二を庇ってたじゃんか。リーマンの旦那も祥二そっくりだしよ。」

そう言えば小柄なご主人が出勤して行くのを何度か見掛けたな。

面と向かったことは無いのでよくわかりませんが、俺に似てるんですかね?

「そ、そりゃ、針須君は弱っちかったから、守ってあげなきゃって思ってたし。・・・うちの旦那が針須君に似てるのは偶然よ!偶然!」

・・・弱っちくてすいません。

自覚はしてたけど、・・・結構傷つくな。

「お前酷いこと言うなよな?祥二が泣いちまうだろ。」

蕪島君が笑いながら言うと、田穴さんが慌てて

「あ、ごめんなさい針須君!・・・その、気にしないでね?・・・じゃあまた!」

そう言って帰って行った。

「うん、・・・お休み。」

「じゃあ俺も、またな!」

蕪島君も自宅の方へ手を振りながら去って行った。

「うん、またね。」

さて、俺も愛する家族が待ってる自宅へ帰ろう。

・・・さて、みんなにはどう伝えようか?

・・・怒られるかな?


「・・・と言うわけで、俺達の次のライブが決定しちゃったんだ。」

祥二が練習前に急にそんな事を切り出してきた。

徹が呆れ顔で、

「何が、・・・と言うわけなんだよ?話が見えねえぞ。」

それを聞いて信吾が

「つまり、その商店街のフェスってやらの催し物の提案を求められたんだけど、何も考えて無くて咄嗟にバンドをやってますって話をしたら、それがあっさり採用されちまったって事だな?」

祥二がちょっとうつむいて申し訳なさそうに

「・・・う、うん、そう言う事なんだ。・・・その、・・・勝手にゴメン。」

それを聞いて一瞬全員黙ったが、俺が多分みんなが思ってるであろう事を祥二に伝えた。

「何謝ってるんだよ?良いよ、やろうぜ?・・・なあ?」

みんなの顔を見回すと、信吾と陽子が笑顔でうなずく。

俺の当てが外れ、ひとり徹がちょっと不服そうな表情で

「まあ、趣旨は理解した。・・・あそこは俺も世話になってた街だしな。」

いの一番に賛成すると思ってた徹、そんな徹を見て陽子が

「何よ?あんたらしくもなく、何か煮え切らないわね?」

と、怪訝そうにたずねる。

すると、徹がなおも煮え切らない口調で

「いやまあ・・・だってよ・・・、祥二、それっていつやんのよ?」

祥二もこの場の重苦しい空気に押しつぶされそうになりながら

「・・・うん、・・・・半年後なんだ。」

と、声を振り絞るように答えると、急に徹がでかい声で

「はあ!?何だよ!?半年もあんのかよ!?・・・はあ、良かった。」

陽子がさらにいぶかしげな表情で、徹の顔をのぞき込む。

「・・・あんた、・・・大丈夫?」

「おう、こないだのライブの時は時間が無いからって、祥二に無理な特訓させられたからな。」

そう、この間の対バンライブの時は、あがり症の俺と下手っぴの徹の為に、祥二が魔の個別特訓をしてくれたんだ。

俺はストリートライブさながら、見ず知らずの通りがかりの人々の前で歌わされるという、スパルタンXな特訓を受けたんだっけ。

その甲斐あって、ライブはそれなり以上の成果を上げたんだけどね。

そしてそのスパルタンな仕掛け人、祥二が

「ハハハ、サボって寸前まで仕上がって無かったら、また特訓やるよ。」

俺と徹が揃って首を振る。

そんな俺と徹を尻目に陽子が

「ところで、祥二君。そのフェスのライブって私達のワンマンなの?」

祥二が苦笑いしながら頭を掻く。

「いやあ、流石に僕らだけで何十分も演奏するのは無理だから、他のバンドさんにも声を掛けたいんだよね。・・・例えばDEATH BOYSの子達とか、協力してくれるかもね。」

・・・あのケバケバしい髪色の、けたたましいヤツらか。

俺と陽子は顔を見合わせて苦笑いした。

「他にもオーナーに頼んで、他のバンドさんも紹介してもらおうかと思ってるんだ。」

陽子が手を叩いて賛同する。

「それは良いわね!」

「前にも言った通り、これからはオリジナルでいきたいと思うんだ。僕は頑張って曲を作るから、詞は頼むよ純ちゃん!」

・・・やっぱりそうなるのね?

「お、おう、・・・お、お手柔らかにな。」

陽子が俺の二の腕をつねりながら

「あなたは相変わらず煮え切らないわね!」

「いてててててっ!!・・・や、やめて下さい。」

その様子を見て信吾と徹と祥二がドッと笑う。

徹が笑いながら

「お前らは相変わらず仲が良いな?・・・おし、次の目標も決まったところで、気合い入れて練習すっか!」

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