39. Welcome to the Festival 2013

さて、あっという間に半年が経ってとうとう祥二の商店街と隣町の商店街の合同フェス開催日となった。
俺が10代の頃、親父が歳を取ると時間が経つのが早くなると言っていたのを聞いて、そんな馬鹿なことがあるか、小学校の6年間なんて滅茶苦茶永かったし、歳を取ったって1秒の長さが変わるわけでもあるまいしと思ってたが、40を過ぎて実感している。
歳を取ると時間が経つのは早くなる!!マジで。
実行委員である祥二は準備作業を勤めながらも、たまに俺と徹の特訓
俺の特訓は前にも行った、抜き打ち路上ライブ。
俺はこの特訓によって、本番のステージであがらなくなっていたんだ。
当然最初は渋々やっていた路上ライブも、すっかり楽しめるようになっていた。
祥二曰く
「オロオロしてる純ちゃんをもうちょっと見ていたかったんだけどなあ。順応するのが早くて驚いたよ。」
フハハハハ、ざまあ見ろ。
でも祥二は凄いよ。
普段は大人しくて引っ込み思案のパン屋のご主人なのに、この半年の精力的な様はまるで別人のようだった。
きっと俺なんかが感じる時間経過の速さなんかよりも、よっぽど加速した時間の中で過ごしてたんじゃ無かろうか?
どうしよう?祥二だけ爺さんになっちゃったら?
・・・んなわけないか。
俺達を含むフェス出場バンドをおさらいしてみようか?・・・作者も忘れてるようだから。
俺達の再結成ライブからのつきあいになる、カラフルな髪色のけたたましい音を出すDEATH BOYS。
俺達よりずっと年上の還暦なおっさん達、The VenturesのコピーバンドThe Adventures。
STUDIO AIRのオーナーのダジャレでバンド名が付いた以外、何の情報も無いガールズバンドのMissますからず。
そして、独りぼっちでコンピューターを使って完璧な音楽をどうとかご託を並べるネタニマジレスカッコワルイ君。
俺達出場バンドは何度か会合を開いて打合せをしたが、祥二の提案でリハーサルは一切していない。
他のバンドの演奏を当日初めて聴くことで出演者達も楽しめるじゃない?って事なんだ。
・・・表向きは。
実は俺達、ライブに向けて何曲かオリジナル曲を作り出したんだけど、まだちゃんと固まっていないってのが本音だったり。
しかしまあ、何とか本番の今日には間に合ったって感じ。
リハーサルをやってないんで俺はまだ実際立つステージも見ていなかった。
陽子と連れ立って、良い臭いの漂う出店の並ぶ通りを歩き、会場となる公園の方に近づいて行くと、ヒップホップ系の音楽が流れてるのが聞こえてきた。
「おっ?やってるな?」
俺がつぶやくと
「そうね、フフフ・・・。」
陽子も笑う、否応無しに高揚感で気持ちがあがってくる。
公園に到着すると、広場にステージが設営されていて、ヒップホップの音楽に合わせて子供達が踊っていた。
みんなバッチリメイクして、凄いドヤ顔で踊ってるな。
微笑ましいっちゃ微笑ましいが、マセてる感じがして俺はあんまり好きじゃ無いんだよな。
と、足を止めてステージ全体を見回すと、手作り感は満載だけど意外にしっかりした作りに感じられる。
どうしたんだろ?言っちゃアレだけど、たかが町フェスでこんなステージ作れる予算があったのか?
まあ、何にしろこれが今日俺達が立つステージか。いっそうワクワクが増してきた。
すると、そのステージの傍らに祥二と信吾それと蕪島が立って何やら話をしていたが、祥二が俺と陽子に気づき手を振る。
「純ちゃん、陽子ちゃん、おはよう!」
俺と陽子がステージの方に近づき、見回しながら
「よう、商店街のフェスにしちゃなかなかしっかりしたステージじゃ無いか?」
と、たずねると
祥二がにっこりして信吾を見上げる
信吾が照れたような表情で
「・・・俺の会社は建設会社だからな、現場の奴らに声かけりゃこのぐらいは朝飯前だ。」
「信吾の会社が噛んでたのか。でもそれだと結構予算掛かるんじゃ?」
「そこはアレだ、俺が頭下げて回ってよ。宣伝も兼ねてるしな。」
よく見ると何箇所かに信吾の会社の社名が書いてある。
「おかげで、予算もだいぶ助かったんだよ。ステージの設営に参加してくれた信吾君の会社の方々は、今日は出店で飲み放題食べ放題なんだ。」
陽子が首をかしげながら
「折角予算が浮いたのに、ガテン系の人達に無料で飲み食いさせたら、出店で赤字出すんじゃないの?」
「ハハハ、・・・そうかもね。」
蕪島が腕時計を見て、
「おっと、じゃあ俺は持ち場に戻るわ。・・・それじゃ、みんな頼むぜ、しっかり盛り上げてくれよ?」
「おう!任せろよ。」
「じゃあね!蕪島君、そっちも頑張ってね。」
蕪島は手を振りながら、出店が並ぶゾーンへ歩いて行った。


そこへにこやかに手を振りながら、The Adventuresのおっさん達がアロハシャツにジーンズという出で立ちでやって来た。
まあ、俺達も十分おっさんなんだけどね。
「やあ、みなさん早いですね。今日はよろしくお願いします。」
すると祥二が
「こんにちは、よろしくお願いします!控え室はこちらです。」
と、ステージ袖のプレハブにエスコートすると、今度はその後ろからMissますからずの女の子達も続いてやって来る。
「・・・こんにちはー。」
と、言いながら、The Adventuresの後に続こうとすると、祥二が慌てて
「あ、あの!君達は女の子だからこっちを使って下さい!」
と、もう一方のプレハブを指さす。
すると、女の子達は恥ずかしそうに顔を赤らめて、示された控え室に足早に逃げ込んだ。
陽子がその様子を笑いながら
「可愛いわねえ?・・・ねえねえ祥二君、私も元女の子だからこっちの控え室使って良いのよね?」
と、祥二を振り返る。
「あっ!・・・えっと、・・・そうだね。陽子ちゃんはこっちだね。」
と、祥二が思い出したように言うと、陽子が頬を膨らませて
「ちょっとー!祥二君、私を女子として全然気にしてなかったでしょ?ひどくなーい?」
なじられると、祥二が慌てて首をブンブン振りながら否定する。
「ま、まさか、そ、そんな事無いよーっ!」
女子科おばさん属の陽子でも、まだそういうのを気にするんだな。


それから数分後、スーツケースをガラガラ引きずり、ノートPCを小脇に抱えてネタニマジレスカッコワルイ君がやって来た。
祥二が
「やあ!今日はよろしくね!」
と、声を掛けるとこちらを見て立ち止まり、無表情でぺこっと会釈だけしてステージの袖へ向かい、スーツケースから機材を出し、黙々とセッティングを始めた。
・・・今さらながら変わった子だなあ。
俺達も高校生ぐらいの頃は、John Lennonの曲名からなぞらえて、現代人(いまじん)と大人達から呼ばれ、変わった生き物みたいに扱われていたが、そんな俺達以上に現代の現代人(いまじん)は、変わった生き物に成り果てているなあ。
それだけ俺達が年を取ったって事なのかも知れませんけどね。
・・・人類は一体どこを目指して進化して行くのだろうか?


「・・・おーっす!」
それからしばらくして徹が遅れてやって来た。
その後ろにはカラフルな髪色のDEATH BOYSが引率されるような格好で続く。
「よう、そっちのバンドに移籍したのか?」
俺が笑いながら茶化すと
「おっす。・・・バカ、冗談じゃねえ。たまたま駅で鉢合わせしただけだぜ?そしたらよう、レイラは来ないのか?ってしつけえんだよ、こいつら。」
すると、DEATH BOYSの雷堂が
「・・・いえ、その、もし前みたいにですね、レイラちゃんを呼んでくれてたら嬉しいなって思ったんですよ。」
徹が困った表情で
「だからよー、レイラも前ほど暇じゃ無えんだよ。それによう、町フェスでも何でもタレント呼ぶのにいくら掛かると思ってるんだ?大人の世界はな、全て金なんだぜ?金、銭、マネー。・・・わかったか?」
「・・・そうですか。・・・ですよね。」
DEATH BOYSのメンバー達は徹の現実的な言葉に、ガックリと肩を下ろす。
可哀想な気はするが、まあそもそも何故そんな期待をしてたのか?
陽子が窘めるように
「ちょっと徹君、そんな言い方しなくたって良いじゃ無いの。」
すると徹は腕を組んで
「あのなあ、俺はガキどもに現実ってもんを教えてやったんだよ。むしろ、感謝して欲しいぐらいだぜ。」
祥二が苦笑いしながら
「そろそろ、俺達も準備しようか。・・・トップバッターだしね。」


俺達The Namelessはこれまでの打合せで、他のバンド達が敬遠していたトップバッターを買って出ていた。
実行委員である祥二なりの他のバンド達への配慮でもあるし、.演奏を先に終わらせればあとは実行委員としての仕事に専念出来るって事もあってのことだ。
ただし、集まったオーディエンスを暖められるかどうかって難しい役割でもあるんだな。これが。
子供達のダンス大会が終わり、いよいよ開演時間となり、身支度を終えて舞台袖に立ち、そって客席の方を覗くと50人ぐらいのお客さんが今や遅しと待ち構えている。
二番手のDEATH BOYSも俺たちの後ろからやって来て
「うわあ、結構いっぱいいますねえ?・・・頑張って下さい!」
と、応援してくれた。
祥二が笑いながら
「ありがとう!・・・じゃあ徹君行こうか。」
徹が両の手で頬をパン!と叩いて
「よっしゃ!・・・The Nameless!気合い入れてくぜ!」
「おう!」
全員掛け声を合わせると、俺と徹を残して祥二、信吾、そして陽子の3人がステージ上に上がりそれぞれの持ち場に着く。
そして、信吾のドラムがパワフルに鳴り響くと、それに祥二がベースを乗せ、最後に陽子がキーボードでメロディを奏で出す。
これは練習中、たまたまこの技巧派の3人が、即興でジャムセッションを始めたのを聴いて感心した徹が提案したものだった。
徹曰く、町フェスともなると、ライブハウスのライブと違って、客層は老若男女様々な年齢層のお客さんがいるはずだ。
当然、世代によって好みの音楽のジャンルも違うだろうし、男女もまた然り。
それなら、初っぱなに圧倒的な演奏力の3人の演奏で、ジャンル関係無くお客さんのハートをわしづかみしちゃえば良いじゃん?という徹の提案。
祥二と信吾もこれを快諾して、陽子に至っては褒められたからか、徹にしちゃ珍しく名案だと褒め称えた。
そして徹はニヤッと笑って、コッソリ俺にこう耳打ちした。
「・・・これで俺達は初っぱなの一曲をサボれるな。それに客を暖められなくても俺達二人のせいじゃねえ。」
そちもワルよのう。・・・知ってたけど。
しかしそんな俺と徹の思惑は関係無く、今ステージ上では祥二と信吾と陽子のスーパープレイが展開されている。
まるで、俺と徹と言う足枷が外れたかのように、本来の姿で自由にのびのびとプレイしているようだ。
当然お客さんも驚愕の表情でそのプレイを見つめる。
多分、町フェスの素人バンドのライブで聴けるレベルのプレイじゃ無いはずだし、お客さんの大半もそう思っているはずだ。
徹と俺の思惑は半分当たって半分外れて、ちょっとばかし出にくい状態になった。
曲が終わりお客さんから拍手喝采、祥二が笑顔で俺達を手招きする。
「・・・腹括って行きますか、松ヶ谷君。」
「・・・そうですな、蓮野君。」
俺達は顔を見合わせてステージへ駆け出した。
そして俺を待ち構えていたマイクをつかみ
「Yeah!こんにちは!俺達The Namelessです!」
お客さんも祥二達のおかげでだいぶ暖まっているようだ。
お客さんの方を見回すと、樹莉亜の顔が見えた。
よし、落ち着いてるな俺。あがり症は祥二との特訓で解消出来てるな。
「・・・俺達、高校時代からの同級生のバンドです!全員42歳、足すと132歳です!」
ちょっと間があって、客席から「違うよ!」とツッコミと軽い笑いが。
「・・・あれ?違いましたっけ?・・・すいません、高校時代から数学が苦手で。」
ここでお客さんがドッとウケた。
セッティングをしていた徹の方を見やると、準備万端のようで親指を突き立てる。
祥二も信吾も陽子も頷く。
「じゃあ、そんな俺達のロックを聴いて下さい。」
信吾にアイコンタクトを送ると、信吾のカウントが始まる。
「・・・ワン・ツー・スリー!」
信吾のカウントから一斉に楽器達が歌い出し、グルーブがうねりを上げてその場を包み込む。
俺が詞を書き、祥二がそれにメロディを着せて、俺と徹以外のみんなでアレンジした俺達The Namelesの楽曲達。
曲のテイストは俺達が10代から20代の多感な時期を過ごした80年代から90年代ぐらいの曲調。
信吾のバカ力から生み出されるド迫力のドラムのリズムに、祥二のテクニカルなベースが絡みつく、そこへ若干の辿々しさはあるが祥二の努力の跡が見える徹のギターと、我妻ながらプロ級の腕の陽子のキーボードが彩りを与える。
そして、俺がマイクをつかむ・・・・・。
・・・あっという間の5曲だった。
いつも思うんだが、練習では何時間も何日も掛けて、一曲一曲仕上げていくのに、本番はあっという間に終わってしまう。
・・・ちょっと儚く感じる。
でもその儚さが、快感にも感じるんだよな。
・・・演奏が終わり汗だくで観客にお辞儀をすると、観客が拍手と歓声を俺達メンバーに浴びせてくれている。
よしよし、じゅうぶん観客を暖められたようだぞ。
俺達の役目は無事果たせたようだ。
高揚した気持ちのままステージを降りると、舞台袖で2番手のDEATH BOYSと3番手のThe Adventuresが拍手で俺達を迎えてくれた。
「凄い盛り上がりっすね!・・・俺達も続きますよ!」
張り切ってDEATH BOYS達がステージへ上がっていった。
・・・大丈夫かな?
演奏が始まると、相変わらずノイジーで耳障りな不協和音。
ふと傍らを見やると、陽子は指を耳に突っ込んでしかめっ面をしている。
どうしてもこの音に馴染めないようだ。
終始五月蠅いDEATH BOYSの演奏が終わり、続いてThe Adventuresの出番。
The Venturesのカバーを楽しそうに穏やかに演奏している。
大人の落ち着いた演奏で、ホッとするな。
そこへ、演奏を終え運営スタッフとして忙しく働いていた祥二が慌てるようにやって来て
「Missますからずの子達が控え室から出て来ないんだ。・・・陽子ちゃん、ちょっと彼女達を呼んで来てくれない?」
「うん、良いわよ。」
陽子が女子の控え室となっているプレハブをのぞき込み
「キャッ!」
と、小さく叫ぶ。
俺達が一斉にそちらを見ると、驚いて両手で口を塞いでいる陽子。
そして、ほぼ下着のような衣装に、プロレスの覆面姿で出て来るMissますからずのメンバー達。
・・・エッチだ。
曲調は元気なハードロックな感じだ。
・・・それにしてもエッチだ。
俺達の股間も元気なハードロック状態です。
観客もかなり盛り上がってる。・・・別の意味で。
「ちょっとーっ!あんた達、顔がニヤついてるわよ?」
ステージ袖で前のめりにステージ上に釘付けだった俺達とDEATH BOYSとThe Adventuresを陽子が見回して窘める。
俺達そんなにニヤついてた?
健全な♂の自然な生理現象ですよ、デヘヘヘヘ。
さて、そんなMissますからずの演奏が終わったところで、自らトリを立候補したネタニマジレスカッコワルイ君がステージに上がり演奏の準備をする。
どんなパフォーマンスをするんだろう?
パフォーマンスって言っても、機械が自動演奏するんだっけ?
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・?
・・・と、いっこうに演奏が始まらないな?
ステージ上のネタニマジレス君は、何度もPCのキーを叩き、そのたびに超困った顔で首をかしげている。
観客も異変に気がついてザワザワしだした。
祥二が心配そうに
「どうしたんだろう?何かあったのかな?」
オロオロしていたネタニマジレス君は、とうとう泣きそうな顔になりキョロキョロしている。
明らかに機材に異常があったようだ。
すると、そんなザワついた空気を切り裂くように
ダダダンッ!!
と、ドラムの音が響く。
ふと音のした方を見ると、いつの間にか信吾がドラムセットの前に座りドラムを叩き出した。
「よし!」
すると祥二がベースを担ぎながらステージ上に上がり、信吾のドラムに合わせて即興演奏を始めた。
そして、キョトンとしている俺達に手招きをする。
それを見た陽子がステージ上に駆け上がり、キーボードを弾き出し大きく
「・・・なるほど!じゃあ、我々も行きましょうか。」
The Adventuresのメンバー達も、演奏を終えたばかりのMissますからずも、そしてネタニ君を睨んでいたDEATH BOYS達もステージ上に上がりジャムセッションを始めた。
ステージ袖には何となく行きそびれた俺と、誰かとスマホで電話をしていた徹が残った。
俺が徹に
「どうする?」
とたずねると、徹がスマホを操作しながらシッシッと手を振り
「お前も行って来いよ。・・・俺は良いわ。」
「そうか、・・・じゃあ。」
俺はこっそりステージに上がって、演奏の最後列に加わり手拍子をしていた。
すると、最前列で機材の前に座り込み、茫然自失しているネタ君が目に入った。
ああ可哀想に、これじゃ良い晒し者だ。
そう思った俺は手拍子をしながら、演奏しているみんなの間をすり抜けネタ君に近寄ると、彼を立たせステージ袖まで連れて行って座らせてやった。
彼は目に涙を溜めた悔しそうな表情で、俺の顔を見上げていた。
・・・ちょっと余計なお節介だったかな。
でも、あのまま彼を放置しとくのもなあ。
・・・と、そんな事をネタ君と見つめ合いながらボンヤリ考えている俺の背後を、慌ただしく誰かがステージへ駆け上がっていった。
振り返ると、一人はジャムセッションのステージに上がるのを拒んでいた徹、・・・と、もう一人小柄な女の子?
・・・ん!?・・・レイラちゃん!?
徹がレイラちゃんをステージ最前列に押し出すと、レイラちゃんが微笑みながら観客に手を振りそしてぎこちなく踊る。
演者達が驚いて一瞬手を止めるが、祥二と信吾と陽子は演奏の手を止めない。
他の演者達も慌てて演奏に復帰する、・・・が、DEATH BOYS達だけは固まったまんまだ。
観客も一瞬「誰?」ってな感じでどよめくが、レイラちゃんだとわかると、今日一番の歓声が上がる。
出て来ただけでこの歓声か、・・・俺達の努力は何だったんだ?
・・・ちょっとだけ虚しくなるな。
・・・まあ、・・・良いんだけどさ。
そんなこんなで予想以上の大盛況で、フェスのステージは終幕した。


「松ヶ谷さん!レイラちゃんを呼んでくれてるなら、そう言ってくれれば良かったのに!」
みんながあらかた去った後、DEATH BOYS達が徹に詰め寄る。・・・満面の笑みで。
「ああ?うるせえな。仕事が終わって来れるようだったら来いって言ってあっただけだ。」
俺が祥二に
「聞いてたのか?」
とたずねると、祥二が首を振りながら
「ううん。」
徹が鼻の下をこすりながら
「来れるかどうかわかんねえのに、ぬか喜びさせられねえだろ?・・・まあ、間に合って良かったけどよ。俺も祥二と商店街には世話になったからな。恩返しのつもりだ。」
すると、もう帰ったと思ったネタニマジレスカッコワルイ君が、スーツケースをガラガラ引きずりながら近づいて来て
「あの、・・・みなさん、今日は僕のミスをフォローしていただいて、・・・ありがとうございました。」
祥二がにこやかに
「いや、気にしなくて良いんだよ。・・・で、結局何で演奏出来なかったんだい?」
優しくたずねると、ネタ君は下を向いて
「・・・その、・・・直前にメールが来てたんで開いたら、・・・その、ウイルスが付いてたようで。」
徹が呆れたような顔で
「そんなんで動かなかったのかよ。便利な機械っちゅうのも、一歩間違えれば不便なもんなんだな。」
ネタ君は顔を真っ赤にしながら
「・・・でも、ウイルスさえ無ければ、僕の完璧な音楽を完璧に演奏出来たんです!・・・僕は負けたとは思っていませんからね!」
「何だと!?」
DEATH BOYS達が色めき立つ
「こらこら、やめなさい。」
陽子が慌てて制止する。
しかしまあ、勝ち負けってこの青年は一体何と戦ってるんだろう?
レイラちゃんが、一緒に来ていた友達と別れ、近づいて来た樹莉亜を見つけ
「あー、樹莉亜ちゃんお久し振りー!」
樹莉亜も駆け寄って
「わーい!レイラちゃんだー!お久しぶりですー!」
レイラちゃんとハグし、俺達の顔を見上げ
「パパとママもみんなも、かっこよかったわよ!」
するとネタ君が妙にそわそわした感じで
「・・・娘さん・・・ですか?」
「うん、そうだよ。・・・どうかした?」
俺がたずねると、
「・・・いえ、何でもありません。・・・それじゃあ、僕は帰ります。」
ペコッと頭を下げる。そして俺の顔を見て
「それでは失礼します。・・・お父さん。」
・・・何でお前にお父さんって呼ばれなきゃいかんのだ?
・・・まあ、良いか。
それはさておき、祭りの後ってのはちょっと寂しい気持ちになるね。
夢うつつの時間が終わり、明日からはまた現実社会に身を投じる。
人生それの繰り返しだ。
さて、次はどんなステージが待っているのかな?
それを楽しみに待って、また明日から生きていこう。

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