33. Blazing Transfer Student 1984 Part2
今日から、僕のクラスにやって来た転校生。
僕はその転校生の顔を見た瞬間
「・・・!!!」
・・・彼は昨日の!?公園で倒れた彼!?
彼はくるっと黒板の方を向き、おもむろにチョークを掴むと黒板に
「松ヶ谷 徹」
と大きな下手くそな字で書き殴り、僕らの方に再度振り返り親指を立て
「おうっ!!お前らよろしくなっ!!」
と、言い放ちました。
クラス中がヤバい奴が転校して来たと思ったのか、水を打ったようにシーンと静まりかえてしまいました。
そしてひそひそと、あちらこちらで彼への悪口が聞こえてきました。
・・・それを耳にして、僕は何となく嫌な気分になりました。
その・・・、別に僕が彼を知ってるからって訳じゃ無くて、確かに見た目が怖くてぶっ飛んでる彼ですが、昨日知った彼の事情と彼が見せたピュアな意外な一面。
人間見た目が大事とは言いますが、見た目で人格まで判断するのもどうなんでしょうね?
転校生の彼はそんなクラスのみんなを見下ろすように見回すと、僕の顔を見つけ驚いたように
「よう!!命の恩人君じゃねえか!!お前このクラスだったのかよ!?」
その瞬間クラス全員の視線が僕に一斉に注がれる。
こんなに注目されたのは人生で初めてかも知れないです。
・・・でも、この視線はそんな暖かみのあるもんじゃなく、何だか突き刺さるような冷たい視線です。
・・・完全に僕はみんなから白い目で見られています。
そんな視線の中、松ヶ谷君はズカズカと僕の席に近づいて来て
「そう言えば恩人君の名前を聞いてなかったな?」
「・・・えっ?・・・針須・・・祥二です。」
すると、松ヶ谷君は僕の肩をポンッと叩いて
「おう!祥二か。よろしくな!祥二。」
「あっ、・・・うん、・・・よろしく。」
・・・ますます、クラス中みんなの視線が・・・痛い・・・です。
こうして松ヶ谷君は僕のクラスに転校してきました。
風貌は怖そうだけど、気さくって言うか、・・・気さくを通り越して遠慮が無いって言うか、ズカズカと他人の心に土足で上がり込むような感じです。
クラスの男子達が校庭でサッカーをする相談をしていると、僕の手を引っ張りみんなの所に行き
「おう!俺と祥二も仲間に入れてくれや!」
と言います。
そう言われると、僕みたいな足手まといのみそっかすは仲間に入れたくないけど、松ヶ谷君は怖いから仲間に入れざるを得ないと言うようなみんなのあからさまに迷惑そうな表情。
でも、松ヶ谷君はそんなの全くお構い無しのようです。
帰り道、松ヶ谷君と二人きりになった僕は、松ヶ谷君に僕が置かれてる状況を説明しておこうと思いました。
「・・・あのね、松ヶ谷君。」
「松ヶ谷君なんて他人行儀だな?俺とお前の仲だろ?徹って呼べよ。」
俺とお前の仲って言っても、出会ってまだ数日なのに・・・。
逆らって怒らせても嫌なので、言われたとおり名前で呼んでみよう。
「・・・じゃあ、徹・・・君。」
「君が余計だけど、まあ良いか。・・・で、何だよ?」
「うん、徹君がさっきみたいに僕を連れてサッカーに誘ってくれたのはありがたいんだけど、松・・・徹君は良いとして、多分クラスのみんなは僕をメンバーに入れたくないと思うんだよね。」
徹君がちょっと驚きながら
「何でだよ?同じクラスのダチじゃねえのかよ?」
「・・・そうなんだけど、僕は飛び抜けて運動音痴なみそっかすだから、どっちかのチームに僕がいるとそのチームは不利になるでしょ?・・・さっきも僕のいるチームは負けちゃったし。」
すると松・・・徹君は笑いながら
「カカカッ!そう言えば祥二は後ろの方でウロチョロしてるだけだったな!」
・・・見られてたのか。
「でもまあ、それで祥二が迷惑すんだったら、これからは無理にあいつらの中にお前を放り込むようなマネはしねえようにすっか。何かあいつらの、俺に対する態度も何か嫌な感じだったしよ。まあ、俺はダチのお前と一緒にいれれば良いからよ!」
そう言ってニッコリ笑いました。
そんな徹君の笑顔を夕日が真っ赤に染めていました。
徹君と別れて家に帰ると、カレーの良い匂いがしました。
「ただいまー!」
玄関に入るとお母さんが台所から顔を覗かせて
「あら、祥二お帰り。・・・カレーたくさん作ったから、松ヶ谷君の所に持って行っておあげ。」
「うん!わかった。」
お母さんからカレーとご飯の入った容器を受け取ると、徹君のアパートへと向かいました。
途中、お肉屋さんの前を通ると、肉屋の蕪島君がひょっこり顔を出しチョイチョイと僕を手招きしました。
「・・・祥二、お前転校生の松ヶ谷とツルんでるだろ?・・・良く思ってない奴らが結構いるみたいだぞ?気をつけろよ。」
小学校の頃は仲良しだった蕪島君も、中学生になってクラスも別になり、なおかつ仲間外れにされてる僕とは距離を取りがちになっていました。
でも、僕を心配してくれたんですね。
何かちょっぴり嬉しくなりました。
・・・いや、話の内容は全然嬉しくないものなんだけどね。
「蕪島君、・・・ありがとう!」
蕪島君にお礼を言い、徹君のアパートに急ぎました。
そして数日後の放課後、日直当番で遅くなり部活へ向かう。
昇降口から体育館の裏の部室へ向かうと、通路に3人の不良の先輩達がたむろってタバコを吸っていた。
僕はなるべく離れるように、お辞儀をしながら小走りにその場を通り抜けようとしました。
まあ、これまでにも何度かあったこのシチュエーション、そのままただサッカー部の部室に行くだけでした。
・・・今までは。
・・・しかし、・・・今日に限っては違いました。
「おいっ!!そこの一年坊止まれっ!!」
後ろから呼び止められました。
・・・えっ?
反射的に僕の四肢は固まったように止まり、とりあえず動く首を動かし周りを見回すと、先輩達以外に僕しかいませんでした。
・・・僕?
「おう、そうだ、てめえだてめえ。」
手にしていたタバコを足で踏み消し、僕の方へ歩み寄ってきました。
・・・何故?
僕は恐怖でもう一歩も動けず、すぅーっと自分の顔から血の気が引き、意識が朦朧とするのがハッキリとわかりました。
・・・こんな時にナンですが、矛盾してますね。
状況が飲み込めずパニクっていると、先輩の一人が僕の襟首をむんずとつかみ
「よう、てめえ最近よう、松ヶ谷とか言うとっぽい転校生とツルんで調子に乗ってるみてえじゃねえか?」
蕪島君が忠告してくれたのはこういうことだったのか。
・・・不幸すぎる。
「・・・いえ、・・・あの、・・・その。」
必死に何かを言おうとしますが、恐怖で声になりません。
「調子に乗ってるとどうなっか、教えてやんからよ。こっち来いや!」
先輩の一人がつかんだ襟首をグイッと引っ張りましたが、僕の体が硬直していて自然と動かなくなっていました。
「・・・おいっ!!てめえ抵抗すんのかよっ!?」
・・・そんなつもりはさらさら無いですよーーーっ!
何もしてないのに、先輩達の怒りにさらに油を注いでしまったようです。
そんなこんなで、その場で無意味に揉み合っていると
「・・・を゛いっ!!!」
体育館の方から誰かの怒号が聞こえてきました。
僕も含めその場にいた全員がその声の方を振り向くと、徹君が臨戦態勢の狼のような眼で睨み付けながら歩いて来ました。
・・・いや、ですからそんな狼を見た事は無いんですけど。
「・・・徹君。」
僕は声にならない声で、救いの声をあげたようなあげなかったような。
すると、虚を突かれた先輩達はざわめきあって
「・・・て、てめえが松ヶ谷か!?」
徹君は落ち着き払って
「・・・だったら、何だよ?コラ。」
友達の僕ですら、背筋が凍るような表情と声色で答える。
僕をつかんでいた先輩が、フッと手を放すと、僕はその場にへたり込んでしまいました。
・・・どうやら、腰が抜けてしまったようです。
「チッ!ダチを助けに来やがったのか。・・・まあいいや、人数では勝ってるんだ、フクロにしちまおうぜ?」
先輩達が狼狽すると、徹君がせせら笑い、これまで見たことの無いような冷淡で邪悪な表情をし
「・・・ダチ?・・・てめえら寝ぼけたこと言ってんじゃねえぞ?」
・・・えっ?
それを聞いて狼狽する先輩達。・・・と僕。
「て、てめえこそ、何言ってんだ?ツルんでるダチじゃねえのかよ?」
・・・これには僕も先輩達と不本意ながら同意見です。
僕をダチだって言ってくれてたじゃないか!
徹君は耳を小指でほじりながら
「バーカ、こんなチビ助が俺のダチなんかな訳ねえべ。・・・こいつは俺様のカモなんだから、手ぇ出すんじゃねえよ!ボケが。」
そう言い放つと学生服の上着を脱ぎ捨てました。
・・・カモ?カモ?カモ?
僕はその言葉が頭の中でエコーが掛かったようにリピートされ、目の前が真っ暗になりました。
・・・そんな!徹君は僕を友達だと思ってくれてると思ってたのに、・・・本心では僕をカモだと思ってたのか。
そう思うと、涙がとめどなく溢れてきました。
・・・結局徹君もみんなと同じで、みそっかすの僕をそういう目で見てたんだ。
うずくまって一人絶望の淵を彷徨っている僕を尻目に、徹君と先輩達の乱闘が繰り広げられていたようです。
結果は徹君一人の圧倒的勝利で、先輩達は捨て台詞を残し逃げ去って行った。・・・ようです。
「ケッ!あいつら口ほどにもねえな。・・・祥二大丈夫か?」
僕はうずくまったまま
「うーーーーーっ!うーーーーーっ!」
と、唸りながら泣いていました。
すると、徹君がしゃがみ込み僕の顔を覗き込み
「おい、どうした!?怪我でもしたんか!?」
やっと僕は徹君の顔を見上げて
「・・・徹君が、・・・僕を、・・・カモって、・・・言った。」
泣きじゃくりながら声を振り絞ると
すると、徹君は笑いながら
「あんだよ?さっきの本気にしちゃったのかよ?」
「・・・だって、・・・僕は!・・・僕は!」
泣き叫ぶと、徹君がすまなそうな表情をして
「だってよ、あそこでお前をダチって言ったら、またあいつらがちょっかい出してくるかも知んねえだろ?・・・お前をダチじゃねえって言っとけば、お前にちょっかい出す理由は無くなると思ってよ。」
それを聞いて僕はスーッと涙が止まり
「・・・そうなの?」
聞き返すと、徹君は僕の肩をギュッと抱いて
「お前は俺の大事なダチだからよ。何があっても俺がずっと守っててやんよ!」
・・・また一度止まったはずの涙がドバドバと溢れ出しました。
・・・今度は嬉し泣きです。
次の日、いつものように僕と徹君が登校すると、徹君は待ち構えていた先生に職員室に連れて行かれました。
どうやら、昨日の先輩達との喧嘩騒ぎが原因のようです。
しかし、喧嘩になった理由を考慮されてか、徹君は一番軽い謹慎処分3日とされ、徹君はそのまま下校してしまいました。
学校内では徹君が僕を守って、学校でも札付きだった先輩達3人をやっつけたって噂話が一気に広まりました。
謹慎処分の徹君が帰ってしまい、休み時間ぽつんと一人でいると、クラスの男子達が僕の周りに集まってきて
「よう針須、・・・松ヶ谷ってああ見えて実は良い奴だったんだな?見直したぜ。」
「そうそう、そんであの先輩達をやっつけちまったって。・・・俺もカツアゲされたことがあったから胸がスーッとしたぜ。」
「お前あいつとどうやって仲良くなったんだよ?俺達とも仲良くしてもらえるように言ってくれよ。」
と、口々にあんなに煙たがっていたはずの徹君を褒め、僕に言い寄って来ました。
僕はしばらく黙ってみんなの声を聞いていましたが、たまらない悔しさと怒りが沸いて来ました。
「・・・みんな、あれほど徹君を煙たがっていたじゃないか?それを徹君が良い人だとわかった途端に掌を返したように!」
普段は絶対に、感情的にならない僕が豹変した様を見て、みんなが驚き一瞬静まりかえりましたが、うち一人が口を開き
「・・・何だと?針須。お前松ヶ谷のマネージャー気取りかよ?・・・一人だけ恩恵を受けようとしやがって。」
となじりました。
僕はその言葉にカッとなり
「そんな気持ちで僕は徹君と一緒にいるんじゃ無いよ!徹君は、・・・僕を友達と認めてくれてるんだ!・・・君達みたいに損得勘定で友達を選んでるんじゃないよ!」
それを聞いた数人が、急に殺気立った目で僕を見る。
「・・・何だと?」
一人が僕の襟首を掴んだその時、僕のクラスの副委員長であり、同じ商店街の本屋さんの娘の田穴さんが割って入って来て
「やめなさいよ!針須君の言うとおり、あんた達は松ヶ谷君に取り入って、大きい顔したいだけなんでしょ?・・・あんた達は卑怯よ!」
そう意見すると、クラス中の他の女子達も口を揃えて
「そうよ!そうよ!」
と、シュプレヒコールが巻き起こり、僕を取り囲んでいた男子達はたじろぎ、すごすごと引き下がって行きました。
その時、僕は何となく思いました。
友達はたくさんいればそれはそれで楽しいかも知れないですよね。
僕は多分そんなに大勢の友達を作って、そして維持出来るような器用な人間じゃ無いです。
それよりも、一人でも親友と呼べる本当に信頼出来る友達が欲しい。
徹君がそれを僕に求めてくれるなら、僕も徹君とはそう言う関係になりたいと思いました。
すると、どこからか
「・・・針須君!・・・針須君!」
と、僕を呼ぶ女性の声がします。
・・・田穴さん?
ハッと辺りを見回すと、俺の目に飛び込んできたのは、俺よりずっと年上の商店街のご主人達と、隣にいる・・・中年になった田穴さんと蕪島君。
・・・あれ?
そう、俺達は隣の町内会さんと合同開催のフェスの打ち合わせに参加してたんだっけ。
この所、商店街としては近所に出来た総合商業施設にお客さんを持って行かれる傾向にあるから、隣町の商店街さんと合同でフェスを催して集客をしようって立ち上がった企画なんですよ。
今流行の街おこしみたいなもんですかね。
蕪島君が耳元で
「お前、何ボーッとしてんだよ?寝てたのか?」
・・・何か、中学生の頃の夢をね?・・・いや、何でも無いです。
すると、反対隣に座っている田穴さんが
「・・・ほら、フェスの催し物の案は無いか?って、針須君指名されたわよ?」
・・・えっ?俺?マジですか?
キョロキョロしながら渋々立ち上がると、会場にいた全員の視線が俺一人に突き刺さります。
大勢の注目を浴びるのは、大人になっても苦手ですね。
・・・って言うか、何も考えていなかったんですけど。
・・・どうしよう?
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