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ミリしら物理探査

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物理探査を1ミリも知らない人に、物理探査に関する専門用語を解説します。
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ミリしら物理探査のまとめ#2 #11から#20まで

長い間ブログの記事を書いていると、時々嫌になることがあります。そんな時には、手抜きが一番です。今回もそんな手抜きの回です。偶には手抜きをしても良いじゃないか!。それがブログを続けられる秘策です。

ミリしら物理探査のまとめ#1 #0から#10まで

この歳になると、知っていることは多少多くなりますが、まだまだ知らないことの方が多いと益々実感します。私の研究分野は物理探査なので、一般の人よりは詳しいですが、専門分野以外の探査ではまだまだ分からないことがあります。研究者だからと言っても、その研究分野全般を隈なく知っているわけではありません。 今回はこのブログの原点に戻って、『物理探査』の紹介をしたいと思います。と言っても、物理探査を”1ミリも知らない”人にはハードルが高いので、まずはよく使われるキーワード的な物から始めます

ミリしら物理探査#36 ネガティブとポジティブ

物理探査では様々な物性値を扱います。重力探査では密度ですし、磁気探査では磁化率です。これらの物理量には決められた単位があって、絶対値を測定することは可能です。しかし、物理探査では相対値が重要です。 電気探査・比抵抗法で扱う物性値は”電気の流れ難さ”を表わす比抵抗です。比抵抗は最も広範囲の値(ゼロから無限大)を持つ物性値です。比抵抗法では”高比抵抗”や”低比抵抗”という言葉がよく使われますが、これは周辺の比抵抗に比べて”相対的に”高いか低いかを表わしています。同じように、重力

ミリしら物理探査#35 非破壊検査と非侵襲検査

物理探査は地下を調べる探査法ですが、類似した方法に非破壊検査と非侵襲検査があります。非破壊検査の対象はモノの内部ですが、非侵襲検査の対象はヒトの内部です。 非破壊検査(NDT; non destructive testing)とは、機械部品や構造物の有害なキズを、”対象を破壊することなく”検出する技術です。主なものに、対象内へ放射線や超音波などを入射して内部のキズを検出したり、表面近くへ電流や磁束を流して表面のキズを検出する方法などがある。また、配管内部の腐食などの検査も非

ミリしら物理探査#34 遺跡の探査

 Wikipediaには、”遺跡とは過去の人々の生活の痕跡がまとまって面的に残存しているもの、および工作物、建築物、土木構造物の単体の痕跡、施設の痕跡、もしくはそれらが集まって一体になっているものを指す”と書いています。つまり、遺構や遺物が過去の痕跡として残存している場所が、遺跡になります。  遺跡探査では、遺跡の地下にある遺構や遺物を探します。遺構には、古墳・住居址・水田跡などがあり、遺物には鉄剣・銅鏡・馬具などがあります。物理探査でこれらの遺構や遺物を探す場合には、遺構

ミリしら物理探査#33 ゼーベック効果とペルティエ効果

 ゼーベック効果(Seebeck effect)は、物体の温度差が電圧に直接変換される現象です。ゼーベック効果は、1821年にエストニアの物理学者トーマス・ゼーベックによって偶然発見された。ゼーベックは金属棒の内部に温度勾配があるとき、両端間に電圧が発生することに気づいたのでした。  このゼーベック効果を利用して温度を測定するセンサが、熱電対です。熱電対は、二種類の金属の熱電能の違いを利用するため、二つの金属を接合した構造になっています。二種類の金属を接合した熱電対を途中に

ミリしら物理探査#32 季節を選ぶ地温探査

 物理探査は、基本的には時間と場所を選びませんが、地温探査だけは例外です。最も一般的な地温探査に、1m深地温探査があります。この探査法は、その名前からもわかるように、地下1mの深さでの温度(地温)を測定します。1m深地温探査の目的は、地中の”水みち”の探査です。  ”水みち”は、地下の透水性が高い部分を指します。地下水は地下に一様に分布しているのではなく、透水性の高い部分を選択的に移動します。そのため、同じ深さの地下でも、水が多い部分と水がほとんどない部分があります。  

ミリしら物理探査#31 地中レーダ

 地中レーダは英語では、Ground Penetrating Radarなので、GPRと省略されます。昔は地下レーダとも呼ばれていましたが、最近は”地中レーダ”と言う用語で統一されつつあります。レーダ(radar)の英語綴りは”rader”のように間違う人が多いのですが、radarという単語自体が”radio detection and ranging”の略語であることを知っていれば、間違うことはありません。  地中レーダの原理をわかりやすく言えば、”ヤマビコ”です。遠くの

ミリしら物理探査#30 百分率と百万分率

 物理探査では様々な物理量を扱いますが、絶対的な変化量だけではなく、相対的な変化量を扱う場合もあります。そんな時に使われるのが、百分率や百万分率です。  百分率は普段でもよく使っているパーセントのことで、1パーセントは100分の1を表わす割合のことです。厳密には、パーセントはppc(parts per cent)ですが、前半の”parts”の部分が省略された”percent”がよく使われます。英語の”parts per cent”というのは、”100個に分割した中の一部分”

ミリしら物理探査#25 本質を見抜く力

 ”本質を見抜く力”とは、”目に見えるもの”を手掛かりに、その裏側にある”目に見えないもの”を洞察する力のことを言います。本質を見抜く力を持っている人の特徴は、”目に見えるもの”を手掛かりに”目には見えない、二段目・三段目の奥行き”を見抜ける能力を持っていることです。つまり、最終的に「ああなれば⇒こうなる(こうなりやすい)」という”法則”の発見です。なので、目に見えるものだけで物事を捉えている人には、その法則は決して見通せません。  あなたの周りに、”いち早く仮説が立てられ

ミリしら物理探査#26 二つのマイグレーション

 石油のことを勉強していると、意味が異なる二つのマイグレーション(migration)に出会います。どちらも石油に関係する専門用語ですが、一つは石油の成因に関する地質用語で、もう一つは物理探査のデータ解析に関する用語です。  地質用語のマイグレーションは、石油またはその前駆物質が天然に地下の岩石中を動くことをいいます。もともと、migrationには”移動”という意味があります。この石油の移動は、根源岩(石油が生成した岩石)から貯留岩(石油が貯まった岩石)に達するまでの一次

ミリしら物理探査#29 受動と能動

 物理探査には数多くの手法がありますが、2つに大別すれば受動的な方法と能動的な方法に分けられます。受動的(passive)な方法は、自然(天然)の物理現象を利用する方法で、能動的(active)な方法は、人工的な送信源を利用する方法です。  例えば、電気探査ではSP法(自然電位法)は受動的な方法になりますし、比抵抗法はトランスミッタを使って地面に電流を流すので能動的な方法になります。  また電磁探査では、MT法(地磁気地電流法)は、自然の電磁場応答を利用するので受動的な

ミリしら物理探査#28 自発分極と強制分極

 まずは分極の説明をします。電気などの分極とは、正の電荷と負の電荷が、何らかの原因で物質中で偏ることを指します。通常の状態では、物質中では正の電荷と負の電荷が均等に混ざっているので、”電気的に中性”になっています。ただし、この電荷の偏り、つまり分極が生じると電気的に中性ではなくなります。  自発分極(spontaneous polarization)というのは、何も手を加えなくても勝手に分極をしている電気的な状態を指します。身近なもので説明すると、自発分極の代表選手が電池で

ミリしら物理探査#27 琥珀と静電気

 物理探査学の授業で、電気探査の導入として、いつも静電気の話をしています。静電気は、物質の表面に貯まった過剰な電荷によって引き起こされます。夏場はあまり感じませんが、冬場だと毛糸のセーターによるバチバチという静電気や、エレベーターのスイッチを触れた時のちょっとした感電など、割と身近な電気現象です。  この静電気はかなり昔から知られていて、琥珀が小さなホコリやゴミをくっ付ける不思議な現象が観察されていました。琥珀は貴族やお金持ちの衣服のボタンとして使われていたため、このような