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能登半島の地震について考えた。 「地下の流体が関与」~DDモデル?

今回は少し長文です。気合を入れて読んで下さい。

自分が住んでいる地域から遠く離れた場所で起きた地震には、発生直後には関心があっても、その後の関心は薄れていきます。これは、人間が”忘れる生き物”であるため、仕方のない事ではあります。しかし、日本列島に住んでいる限り、どこに住んでいようと地震被害から逃れることは出来ません。残念ながら・・・。

ここ2年余りで300回以上の群発地震が起きている石川県珠洲市で、2023年5月5日、震度6強(上から二番目のカテゴリー)の地震が発生しました。ゴールデンウィーク後半の中日で、中には久しぶりに帰省されていた人もいるでしょう。テレビの報道番組を見ると、「地下の流体が地震に関与?」みたいな解説が多かったのですが、一般視聴者向けの解説にするため、”ボンヤリとした/曖昧な”解説のように思えました。一応私も、地下のことを研究している”底辺研究者”ですから、私なりに少し調べてみました。ただし、私は地震の専門家ではありませんし、これから書くことは”間違った/勘違いした”内容が含まれるかもしれません。また、ニュース解説の批判のように感じる表現があるかもしれませんが、そのような意図はありませんので、ご承知置きください。

地震の発生メカニズムを説明する場合、阪神淡路大震災の時の兵庫県南部地震や、東日本大震災の時の東北地方太平洋沖地震のようなプレート境界型の地震を考えてしまいがちですが、今回の地震は少し様子が違うようです。そもそも石川県の能登地方は、下の図からもわかるように、日本海溝を形成する太平洋プレートや、南海トラフを形成するフィリピン海プレートからは、結構離れた場所にあります。しかし、テレビの報道番組では、”太平洋プレート”を引き合いに出した説明ばかりがされていました。ここが第一の違和感です。普通に考えれば、能登半島は『ユーラシアプレートと北米プレートの境界』付近に位置していますから、その点に言及するべきではないかと感じるのですが・・・。

日本周辺のプレートの分布
https://www.toppan.co.jp/bousai/shiru/03_16.html  より

それから二番目の違和感は、「ここは活断層が多い地域ですから・・・」という説明です。調べたらわかりますが、日本には活断層がいたるところにあり、能登半島だけが”特別に活断層が多い?”場所ではありません。最近は、”活断層”という専門用語も市民権を得てきたので、わかりやすさのために使ったのかもしれません。しかし、ここで重要なのは”どうしてそのように多くの活断層が出来たのか”を説明できる原因です。

これをスッキリ説明してくれたサイトを東工大のウェブサイトで見つけました。この記事は、東京工業大学・理学院・地球惑星科学系の中島淳一教授の研究で、石川県珠洲地方(能登半島)で発生している群発地震の原因を、地殻流体の上昇であると”弾性波速度の時間変化をエビデンス”として指摘しています↓↓。さらに詳しく知りたい人は、オリジナルの英語論文をお勧めします。

ところで、このような地下の流体による地震発生のメカニズムの理論は古くからあり、ダイラタンシー・ディフュージョンモデル(以下DDモデル)と名付けられています。この辺りの解説は政竹政和さんが地学雑誌(95巻3号)に投稿した『地震発生における間隙流体圧の役割』(1986)に詳しく書かれています。以下はその抜粋です。

 1960年代の始 めに,ソ 連の地震研究者たちから驚くべき発見が伝えられ た。 大きな地震の発生に先立って,周囲の地震波伝搬送度が大幅に変化するというのである(KONDRATENKO and NERSESOV, 1962)。ソ連の研究結果によれば,最大10数%に及ぶ地震波速度の減少がまず生じ,その後速度が増大に転じ,平常値まで戻ると地震が発生する。速度減少が始まってから地震が起こるまでの時間は,M4の地震で1月ぐらい,M5の地震で2~3カ月と,大きい地震ほど長い。また,速度変化が現 われるのはP波のみで,S波は殆んど変化しないとされている。
  中略
 こうした状況は,地震発生のダイラタンシー・ディフュージ ョンモデル(dilatancy-diffusion model,以 下 「DDモデル」と略称する)の登場によって一変した。大幅な地震波速度変化という一見不可解な現象が,この仮説に基づいて美事に説明されたか らである(NUR, 1972)。
  中略
 しかし,このブームも長くは続かなかった。精密な観測に基づいて,期 待されたような速度変化は検出されない,との否定的な結果が相ついでもたらされたためである。日本では,伊 豆大島を発破点とする人工地震観測が1968年以来定期的に行なわれ,関東から中部地方にかけての地震速度が精密にくり返 し測定されている。この間に,伊豆大島近海地震(1978年,M=7.0),伊 豆半島東方沖地震(1980年,M=6.7)など大きな地震が起こっているにもかかわらず,有 意な速度変化は検出されていない。肝心の地震波速度変化に決定的な成果が得られないため,DDモ デルそのものの有効性にも疑問が投げかけられた
とは言え即断は危険である。たとえダイラタンシーが起こっていても,地表 の人工震源から放射された波は,その領域の上側または下側を通過してしま う可能性がある。また,地震によって,DDモデルに従うものとそうでないものがあるのかもしれない。問題を結着させるまでには,これからも息の長い研究が必要である

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/95/3/95_3_167/_pdf

残念なことに論文の後半では、”DDモデルへの疑問”が投げかけられています。しかし、”DDモデルが太平洋側で起きた地震に適用できなかった”のは当然です。なぜなら、太平洋側の地震の多くはプレート境界型と呼ばれる地震で、地震発生のメカニズムが全く違うからです。当時は今より観測技術が劣っていましたし、今起きている”日本海側での能登半島の地震”には着目されていませんでした。いみじくも、抜粋箇所の最後に「問題を結着させるまでには,これからも息の長い研究が必要である」と言及されています。おそらく60年を経過してやっと、”時代がDDモデルに追い付いた”のだと思います。

DDモデルによる地震発生のメカニズム↓↓を、大雑把に説明すると以下の通りです。①プレートによるテクトニックフォース(この場合は圧縮力)の発生⇒②小さな亀裂の発生(白い部分)による地表の隆起。この過程で弾性波速度は大幅に低下⇒③深部の地下流体が上昇して亀裂を充填(黒い部分)。この過程で弾性波速度は元に戻る⇒④地震(逆断層)の発生

DDモデルの説明図(上記の論文中から抜粋)

ある程度地学の知識があるひとなら、テレビでやっているニュース解説より、わかりやすいと感じると思うのですが、いかがでしょうか?。


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