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ミューオンラジオグラフィ

 宇宙空間に飛んでいる高エネルギーの放射線が、大気中に突入すると、大気中の原子や分子と衝突して、様々な粒子を発生させます。この現象は、シャワーのように見えるので、宇宙線シャワーなどとも呼ばれます。様々な粒子のうちミュー粒子は地表まで到達し、地下にまで透過します。ミュー粒子は、電子の約200倍という重さがあり、電子と同じ大きさの負の電荷を持っています。乱暴な言い方をすれば、200倍重い電子といえます。

 ミュー粒子は、素粒子標準模型における第二世代の荷電レプトンで、ミューオンとも呼ばれます。ミュー粒子は、1936年にアンダーソンとネッダーマイヤーによって宇宙線の中から発見されました。この粒子が霧箱の中で描く曲飛跡から、電子と同じ電荷を持ち、電子より重い新粒子であることがわかりました。

 このミュー粒子は、物質中での相互作用が少なく、透過能力に優れています。例えば電子や陽子といった粒子は、水の中を1mくらいしか進むことができません。しかし、ミュー粒子は数千mも進むことができます。ミュー粒子が物質中を透過するときには、原子核の周りを回っている電子や原子核にぶつかったりしながら、少しずつエネルギーを失います。密度が小さい場合には、ミュー粒子が電子や原子核に衝突する確率は小さくなります。また密度が大きい場合には、逆にミュー粒子の減り方が多くなります。密度が同じであれば、透過距離が大きくなるほどミュー粒子の数は少なくなります。

 このようなミュー粒子の性質を使った探査法の発想は、既に40年以上前からありました。ノーベル賞物理学者Alvarezの研究グループは、1970年にピラミッドの中でミュー粒子を測定し、未発見の部屋を見つけようとしました。しかし、このときは新しい発見はなかったようです。我が国でも、ミュー粒子を非破壊検査に利用した人がいます。1980年代に当時の名古屋工業技術試験所の湊博士が”宇宙線透視像”と題した論文を発表しています。現在では、このようなミュー粒子を使った透視法をミューオンラジオグラフィと呼び、火山体の可視化やピラミッドのような大きな構造物の内部の可視化などに利用されています。

 NHKスペシャルで特集していましたが、世界最大のクフ王のピラミッドで、名古屋大学の研究チームがこのミューオンを利用して、その内部構造を可視化しました。その結果、ピラミッドの内部には謎の巨大空間が存在する可能性が高く、そのことが考古学者たちを驚かせているそうです。

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