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五種類の金属 五金

 古代中国の思想に、陰陽五行説というのがあります。陰陽五行説とは、万物は陰・陽の二気、木・火・土・金・水の五行で成り立ち、これら陰陽五行の要素で世の中は回っているという思想です。これは元々は古代中国の思想ですが、日本文化に昔から深く関わっています。

 この五行を色で表したものが五色で、青・赤(朱)・黄・白・黒(玄)の5色となっていて、それぞれ木=青、火=赤、土=黄、金=白、水=黒に対応します。色のほかにも、方角、季節などがこの五行に配されています。例えば、方位は木=東、火=南、土=中、金=西、水=北が対応し、それぞれを守る霊獣(五獣)が、青龍朱雀黄麟白虎玄武です。昔の中国では、五行の中央に当たる黄色は皇帝の色とされています。

 この五色を配した身近な金属が五金(ごがね/ごきん)です。ここでのかねは、きんではなく金属全体を表わします。最近はほとんど聞きませんが、「1つ年上の女房は、かね草鞋わらじを履いて探せ」という諺があります。これは、”1つ年上の姉さん女房は大変良いので、(壊れない)金属製の頑丈な草鞋を履いて、一生懸命探しなさい”という意味です。

 五金は具体的には、青金(あおがね:鉛/錫)、赤金(あかがね:銅)、黄金(こがね:金)、白金(しろがね:銀)、黒鉄(くろがね:鉄)の5つになります。青金以外は疑問の余地がないのですが、青金については、なまりと説明しているものや、すずと説明しているものもあります。鉛も錫も古くから使われている金属ですが、個人的には酸化皮膜が青灰色(鉛色)の鉛が青金にふさわしいと思います。しかし、青金せいきんと読む場合は、「金属工芸の材料としての錫の異称」とも書かれているので、鉛と錫の混同が起きたようです。

 鉛と錫は融点が低い金属なので、加工がしやすい金属として古くからから使われています。銅と錫の合金は青銅で、鉄が使われるまでは人類の主要な金属でした。また、錫と鉛の合金は、いわゆるハンダで、このハンダも金属を接合するときに古くから使われていました。意外な感じがしますが、錫の融点は232℃鉛の融点は327℃で、錫の方が低温で融解します。この2つを合わせてハンダにすると、さらに融点が低くなって、200℃前後で融解します。

 金属のことを調べていて、昔の知識が間違っていることの気付きました。銅が錆びると青い緑青ろくしょうを生じますが、この緑青は古くから有毒だと信じられてきました。実際、古い辞典を見てみると「毒」や「人体に有害」と書かれていますが、現在では無毒性が証明されています。この事実誤認は、日本の銅製品に猛毒のヒ素が混入していたり、銅板の接合に有毒な鉛が多量に使われていたためだと言われています。

 昔の常識は、今の非常識です。本に書いてあるからと言って、鵜呑みにしてはいけません。

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