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論文査読の闇 『査読偽装』

研究者の最も重要な仕事に、研究成果を論文にまとめる仕事があります。大学は教育機関なので研究と同時に、教育も重視されていますが、やはり研究のウエイトがかなり大きいのは事実です。大学教員や研究所の研究者は、論文作成のプレッシャーに常に晒されています。

論文は、研究成果をまとめた論文原稿を、学術誌に投稿し、そこで匿名の査読者によって査読(内容をチェック)され、査読を通過したものだけが正式な”論文”として受理されます。論文が受理されるには、少なくても2-3か月の期間が必要です。一流の学術誌は、この査読が大変厳しく、ネイチャーやサイエンスのような学術誌では、多くの論文原稿が査読の際にリジェクト(拒絶/不受理)されます。私も論文原稿をリジェクトされた経験が、何度もあります。

匿名の査読者は”意地悪”をしているのではなく、論文のクオリティを担保するために、ボランティアで査読の仕事を引き受けます。若い研究者の時には査読をお願いされることは殆どありませんが、数多く論文を書いていると、いずれ論文の査読をお願いされることになります。多くの査読者は、”自分の信念に基づいて”論文の内容を詳しくチェックするわけですが、中には査読を悪用する人もいるようです。

2022年7月末の記事に、次のようなものがありました。

『福井大子どものこころの発達研究センター長の友田明美教授が、査読を担った千葉大社会精神保健教育研究センター副センター長の橋本謙二教授と協力し、投稿した学術論文の査読に自ら関与する「査読偽装」をした疑いがある問題で、米学術出版大手ワイリーの学術誌は23日付で、友田教授らの論文1本を撤回した。
ワイリーはホームページで「査読が操作されたと確認できる証拠を受け取った」と明らかにし、査読に不正があったと認定。その上で「著者と学術誌の編集長、ワイリーが撤回に合意した」と説明した。この問題で撤回された論文は2本になったが、友田教授側が撤回に合意したことが明らかになるのは初めてで、自ら不正を認めた形だ。・・・』

ワイリー(Wiley)は有名な出版社で、理系の学術誌を数多く手がけています。その学術誌の査読に「査読偽装」という不正があったようです。通常、論文を書いた著者と利害関係のない人が匿名の査読者に選ばれますが、専門分野がニッチな場合には、研究者の数が限られているので、査読者が著者と親密な場合が出てきます。このような時には、査読者が査読を辞退すればよいのですが、今回の不正では、査読者と著者が結託していた(ズブズブの関係?)ことが明るみに出たようです。

学術誌の責任編集者も、全ての研究者の交友関係を把握しているわけではないので、このような事件が起こったようです。査読は研究者の”良心”や”信念”で成立しています。この査読がデタラメだったことが判れば、その学術誌の信用は失墜しますし、研究者の資質が問われます。

不正はダメ。絶対!

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