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「復興×建設、リカレント教育の必要性」

千葉県主催の「社会人のための学び直しセミナー」でお話しをさせていただきました。自分自身気付きがありました。ご一緒させていただいた伊藤羊一学長とも、同年代ということもあり、意見の方向性が合いました。以下、私のパートをスライドと原稿で再構成しました。

これから「復興×建設、リカレント教育の必要性」というタイトルで、15分ほどお話をさせていただきます。

弊社は千葉県成田市の建設会社です。ふるさとづくり、まちづくり、建物づくりの仕事をしています。成田をふるさととする方々が私達のお客様です。

弊社は、明治34年、1901年の創業です。2022年に創業120周年、平山建設株式会社設立60周年を迎えました。私は平山建設の創業家の四代目として生まれました。しかし、18才で将来の進路を選ぶとき、私の中では建設会社の社長になるという気持ちは全くありませんでした。それがどうして57才の今、「ふるさとづくり」と胸を張って言えるのか?これは実は長い物語です。もしご興味がある方は、120周年を記念して日経BP社から出版させていただいた「31の言葉」をお読み下さい。

ただ、ひとことで言えば、今で言うリカレント教育のお陰です。大学では感覚知覚心理学という経営とは全く違う分野の勉強をしました。更に、バブルの絶頂期には渋谷の不動産開発の会社で働きました。そんな私が米国に留学して2年間経営の勉強をする機会に恵まれたので、そこから30年近く経ったいま、胸をはって建設会社の社長です、成田の街づくりをしていますと申し上げられます。まさに生涯学習、リカレント教育の成果です。

さて、いただいたお題は「復興」です。自分の災害の体験から話しを始めましょう。もちろん私どもなど比べものにならないほど甚大な被害を受けられた方がたくさんいらっしゃいます。それでも、私にとって、東日本大震災の発災は大きな事件でした。2011年3月11日の午後に、会社で打ち合わせしている時に地震がありました。お客様と共に駐車場に避難しました。避難した駐車場では、めきめきと音を立ててアスファルト舗装にひびがはいりました。そして、アスファルトが紙が擦れるように足元で動きました。これはただ事ではないと感じました。さらに、その後、アスファルトのひび割れから土と水の混じった汚泥が噴き出してきました。液状化で数十センチも地盤が下がってしまいました。本社屋自体の基礎から杭まで露出していまいました。本社自体が大きな地震のリスクを負ったのです。

発災後すぐ、安否確認でまずは社員を帰宅させました。当日から電話、メールなどで様々な悲鳴のような依頼がひっきりなしに来ました。屋根瓦がくずれてしまったとか、水が出ないとか、私どもが建てた建てないにかかわらずご依頼を受け付けていきました。翌日から、社員をいくつかの班に編成して、片端から対応させていただきました。しかし、混乱した事態の中、電話と普通のパソコン、メールしかなかったので、相当な件数に対応できませんでした。60件あまりしか対応できませんでした。

東日本大震災の経験から、災害にあった時こそ、日頃ふるさとづくりを使命だと言っている建設会社の恩返しの機会なのだと反省させられました。2014年に本社の移転、建て替えが決定しました。新社屋は共同事業方式で246世帯の賃貸マンションと1、2階が平山建設の新社屋という規模で計画されました。この新社屋は地震や災害でもふるさと成田に恩返しできるように、平山建設の技術系社員の総力をあげて免震構造を勉強しました。免震構造というのはこちらの図にもございますが、地下にある免震ピットで揺れを吸収する建築構造です。免震に詳しい元鹿島建設の社員さんをお招きして、勉強させていただきました。また、免震構造に詳しい建設の構造設計の先生とも、なんども、綿密な打ち合わせをさせていただきました。

新社屋には、その他にもプロパンガスタンクを備え都市ガスが止まっても冷房が動かせるとか、上水が止まっても使える簡易トイレを備え付けるとか、様々なBCP事業継続の工夫を凝らしてあります。

ちなみに、この免震建築の成功のお陰で、マンション2棟、ホテル1棟と4棟の大型免震建物を建設させていただくことにもつながりました。リカレント教育と言いますが、継続的に個人としても、企業としても学習を重ねることの大切さを実感しています。ピンチをチャンスに変えるのは、一時の大きな決断ではなく、継続的な学習なのです。

新社屋に移ってから、クラウドを使った働き方改革に取り組みました。東日本大震災当時の情報の混乱の反省からです。EDL社の平塚知真子先生に来ていただいて、2018年からクラウド、Google Workspaceの教育プログラムを社内で開始しました。この効果は非常に絶大でした。教育プログラムにより便利さが分かると、あっという間に社内に普及しました。まさにリカレント教育の成果です。

クラウドベースの仕事が特に建設業にとってなぜ必要なのでしょうか?働き方改革がなぜ建設現場で進まないかという理由から考えてみましょう。建設現場では、多くの人が働いています。現場によっては私どもの仕事でも、延べで1万人近くの人が入れ替わりたちかわり働きます。その人たちがそれぞれお互いに連絡を取ろうとするといろいろ情報が間違って伝わったり、必要な情報がタイムリーに共有できないという問題がおこります。そこで、現場には必ず現場監督というリーダーが必要となります。その意志、差配のもとに基づいて現場の人が動かなければ統制が取れません。でも、これでは現場監督はいつまでたっても現場から離れられません。働き方改革も進まないということになってしまいます。

では、デジタル化して、メールで共有すればよいではないかと考えがちです。しかし、これはクラウド以前のITの考え方です。多くの方が、メールでワードのファイルを送りあっているうちにどのファイルが最終的な書類であったのかわからなくなるという経験があるのではないでしょうか?あるいは、撮影した記録用の写真がどこに入ってるのかわからなくなったりしませんか?そこで、平塚先生の教育プログラムのもと、社員と関係者と共にクラウド上の一つのファイルに対してアクセスし、共有し、その情報をベースにみんなが仕事を進める形に移行しました。これを入口デジタル、クラウド共有、DX業務改善生産と呼んでいます。

こうした考え方に基づき、クラウドのリカレント教育を社員一人一人に対して丁寧に行いました。多大な成果がでました。例えば工事部の残業時間が3割減りました。それから関連会社と併せて100人以上の社員のタイムカード集計に3人日程度かかっていたのが、クラウド入力、集計にして30分で終わるようになりました。紙の稟議書に至っては行方がわからなくなることが時々あったのが、完全印鑑レスになり稟議も非常に早く進むようになりました。会議等も、遠隔中継、録画するようになり、情報の共有が進みました。これらはほとんど専用のアプリケーションを導入することなく、Google Workspaceだけで進んできました。

具体的な現場の情報共有の仕組みとして、現場サイトを社員が考案しました。Google Workspaceには「サイト」というホームページ作成機能があります。現場サイトにスプレッドシートなど、さまざまなクラウド上の帳票が載せられます。アプリにログインする必要なく、URLだけで関係者と共有できます。スプレッドシートなどの内容はセキュリティが担保されています。従って、セキュリティを守った上で現場情報の共有できるようになりました。ある現場監督はこの現場サイトにより電話の通話が半分になったと申しておりました。

リカレント教育によるクラウドの活用で災害対策、復興も変わりました。時計の針を戻して2019年、千葉県では大きな台風被害がありました。2回にわたる台風の甚大な被害がありました。発災とともに担当社員が自主的にスプレッドシートによる掲示板を立ち上げました。安否確認はクラウド上で行われました。家族を含めて、短時間で確認が取れました。また、被災された方々からたくさん依頼が来ました。これら、全ての情報を全員で共有し、依頼のひとつひとつに対して、社員の誰がどのように対応しているか、リアルタイムで共有しました。掲示板に加えてチャット等を活用し効率的に対応できました。東日本大震災のときは60件ほどしか対応できませんでしたが、3倍余りの180件あまりの依頼に応えることができました。復興X建設はリカレント教育で進められました。

https://www.nikkenren.com/publication/handbook/chart6-4/index.html

一方、建設業の人手不足は大変な問題となっています。ピークだった1997年には700万人いた建設従事者が昨年2022年には500万人を割りました。この間、建設業のGDPは年によって多少の変動があってもあまり変わっていません。更に団塊の世代が後期高齢者になり、建設従事者は高齢化どころか人手不足が常態化しつつあります。一方、建設業・運送業は一般の会社から5年遅れて働き方改革法の適用業種となります。来年2024年4月からは労働時間が更に短縮されます。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/na/18/00006/040300417/

ネガティブに思えますが、こうした中で大手ゼネコンを先頭に建設業では一気に給与の増額に動いています。大手ゼネコンの初任給は26万円を超えました。弊社も昨年と今年で10%近く給与をベースアップ、昇給させています。

弊社は、建設業の人手不足、働き方改革のピンチをDXで乗り越えようとしています。いままで申し上げてきたDXを通じた働き方改革に取り組み、2020年8月に経産省からDX認定制度のDX認定取得につながりまして、当時まだ470社余りが取得しか取得してない時代でした。千葉県の建設業として初の取得でした。

https://newsrelea.se/GWK2Z1

さらにこうしたクラウド利用を進め、NTT東日本様、ネクストフィールド様と三社で協働して、現場で働く方々にデジタル・クラウドの学習の大切さを理解いただく、現場DXプロジェクトを、現在進めております。現在大平洋機工という習志野の製造業のお会社様の総合事務所を建設しています。

お客様からもご承認、ご支援いただき、大平洋機工様の建設現場をモデル現場と位置づけました。この現場DXのプロジェクトにより、今までデジタル機器を使ったことがない建設従事者の方たちに、これは便利だと思って、使い始めていただくことを目的としています。大変、現場の生産性向上、人手不足対策につながると期待しています。

「次工程はお客様」を現場DXのキーワードとしています。現場で協力業者の皆さんというのはお客様と同じ扱いをすべきなのだと。現場に大きなデジタルサイネージを設置しました。サイネージを使って、お客様に伝える勢いで、動画でDXの便利さ、現場サイトアクセス情報、現場の基本的な進捗に関わる情報を共有するなど、試行しております。さらに、NTT東日本さんのボイスKYを導入し、危険予知活動を音声入力でできるようにしました。危険予知活動、KY活動では、現場で働く方々が紙に書いて、掲示するなど、実は煩雑です。それをスマホで言葉で喋るだけで聞き取ってくれるアプリを使って、クラウド、デジタルサイネージで共有できるようにします。これによって繰り返しますが、現場で働くお一人お一人がリカレント教育クラウドの便利さを理解して使っていただくような形にしたいということを考えております。


以上でございます。震災被害をきっかけに社内のリカレント、リスキリング教育で社屋の免震化・BCP対策ができたこと、そして、働き方改革を推進できたことをお話しさせていただきました。皆様が今後、いろいろリカレント教育に取り組むための何か参考になれば幸いでございます。

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