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【書籍】内なる力と「ひそかなる決意」ー日々の挑戦に打ち勝つ心構えー『続・修身教授録』(森信三)

『続・修身教授録』(森信三、致知出版社、2022年)のp166「第24講 ひそかなる決意」を取り上げたいと思います。

 ここでは、個人が直面する困難に対処する方法として、精神の鍛錬と自己決意の重要性を掘り下げています。森氏は、冬将軍や風邪の神といった比喩を用いて、人生の試練に打ち勝つための心構えと具体的な行動について語ります。風邪を引きやすい状況からの脱却を例に挙げ、物理的な対策(手袋の使用をやめ、外套の外で手を出して歩く)だけでなく、精神的な覚悟(「今年は断じて風邪をひくまい」という決心)をもって挑戦することの効果を強調しています。

 さらに、日常生活の中の行動、特に階段の昇り方を通じて、人の内面的な強さや弱さを示すことができると述べ、静かに廊下を歩き、軽やかに階段を昇ることが理想的な生き方の象徴であると説明します。この比喩は、順境においては得意にならず、逆境においては落胆しない、という人生の姿勢を示唆しています。

 本文の核心は、「ひそかなる決意」という概念にあります。この決意は、人に知られず、かつ一貫して継続されるべき実践的な事柄でなければならないとされ、その具体例として、掃除、節約、雑草の除去などの日々の小さな行動が挙げられます。これらの行動は、外部から見れば些細なものかもしれないが、それを通じて獲得される内面的な強さは計り知れない価値があると森氏は主張します。

ではわたくしがここに 「ひそかなる決意」というのは、一体如何なることをいうのでしょうか。そもそも人間というものは、自分の将来に対してつねに理想を抱いているというだけで、実はまだ足りないと思うのです。即ち単に理想を描くというだけでなく、さらにそれを実現するための基盤となり足場となるものを、すでに今日より培いつつあるでなくては、いかに遠大な理想といえども、結局は一場の幻という他ないでしょう。 そうして、理想が大きければ大きいだけ、その危険も多いわけであります。 随って諸君らは、現在自分の抱いている理想に対して、今日からすでに黙々として、その足場となり土台となるものを、人知れずひそかに築きつつあるようでなくてはならぬと思います。

『続・修身教授録』(森信三、致知出版社、2022年)p166より引用

 森氏は、人生の早期において正しい方向性を定めることの重要性を強調し、理想を抱くだけでなく、それを実現するための基盤と足場を今から築いていくべきだと説いています。教育の役割として、志を立てさせることの大切さを語り、現代の教育がその点で不十分であると批判します。さらに、理想に向けての努力は、若い時期に始めるべきであり、遅れは取り返すことが可能であるものの、時が経つにつれてそのチャンスは減少すると警告します。

 「ひそかなる決意」の継続は、最終的に周囲の人々からの信頼と尊敬を獲得し、その人の行動が広範な影響を及ぼすようになると森氏は述べています。信じる者は行動によって報われ、信じない者は何も得られないという原則を通じて、決意と行動の重要性を強調しています。

 最後に、森氏は理想の実現に向けた「ひそかなる決意」の具体的な実践例を示し、学生時代における掃除や節約、小さな貢献行為を通じて、内面的な力を養うことの大切さを説きます。これらの行動は、表面上は単純でありながら、長期的には人格形成と自己実現に重要な役割を果たすと述べています。

 自己鍛錬と「ひそかなる決意」の力を通じて、困難に打ち勝ち、理想を実現するための道筋を示すものです。内面的な強さとは、日々の小さな行動と決意によって築かれるものであり、それが最終的には大きな成果を生み出すというメッセージを伝えています。

人事の視点から考えること

 森氏の教えを人事としてどう活かせば良いでしょうか。まず、「ひそかなる決意」というコンセプトを深掘りし、それが人事・組織のさまざまな側面にどのように適用されるかを検討してみます。そして、この概念を実際の職場環境にどのように組み込むかについてを検討、最後に、個人と組織の成長におけるその長期的な影響を探ります。

「ひそかなる決意」の深掘り

 「ひそかなる決意」とは、個人が内面で抱く、自己を超えた目標や夢に向かって着実に努力する姿勢を指しているものと理解します。この概念は、自己実現のプロセスにおいて、明確な目標設定、持続可能な自己動機付け、そして挑戦に直面した際の回復力の重要性を強調します。人事管理の観点から、この精神は従業員が自己のポテンシャルを最大限に発揮し、キャリアの各段階で意味のある成長を遂げるために不可欠です。

個人の成長
 個人は、「ひそかなる決意」を通じて、自己のスキルセットの拡大、知識の深化、そして新たな挑戦への適応能力を高めます。このプロセスは、目標設定理論や自己効力感の概念と密接に関連しており、個人が自己の能力を信じ、困難な目標に取り組むことで、より高い成果を達成できることを示しています。

組織の成長
 組織は、従業員が「ひそかなる決意」を持つことを奨励し、支援することで、イノベーション、効率性、そして競争力の向上を図ります。組織文化がこの種の自己駆動型の成長をサポートする環境を提供することで、従業員は自らの職務においてより大きな満足と成就感を得ることができ、組織全体の目標達成に積極的に貢献するようになります。

実践的な戦略

目標設定とフィードバック
 組織は、目標設定プロセスを導入することで、従業員が自己の「ひそかなる決意」を具体化し、追求するのを助けることができます。定期的なフィードバックと進捗のレビューは、従業員が自己の目標に対して責任を持ち、必要に応じて調整を行うことを促します。

メンタリングとコーチング
 
メンタリングプログラムは、従業員がキャリアの目標を設定し、達成する過程で直面するかもしれない障壁を乗り越えるのを支援します。コーチングは、個々の従業員の強みを活かし、潜在能力を引き出すことに焦点を当て、自己成長を促進します。

レジリエンスとウェルビーイング
 組織は、ストレス管理技術、マインドフルネス、そしてレジリエンストレーニングを通じて、従業員の精神的、感情的ウェルビーイングをサポートする必要があります。これにより、従業員は挑戦に直面したときに回復力を発揮し、持続的な努力を続けることができます。

長期的影響

個人のキャリア発展
 
「ひそかなる決意」を持つ従業員は、自己成長の旅を通じて、自己のキャリアにおいてより大きな成就と満足を経験します。これは、プロフェッショナルとしての彼らのスキルセットの向上だけでなく、個人的な達成感と自己実現の感覚にも貢献するでしょう。

組織の持続可能な成功
 
従業員の内面的な動機付けと成長は、組織のイノベーションと適応能力を高めることに寄与します。このような組織は、変化する市場環境に対してより柔軟に対応し、長期的な成功を確保することができます。

まとめ

 森氏のいう、「ひそかなる決意」というコンセプト。個人と組織の両方にとって、内面からの成長と成功を促す強力な原動力です。人事としても、この精神を育むための環境を提供し、従業員が自己のポテンシャルを最大限に発揮するのを支援することで、組織全体の目標達成に貢献する重要な役割を果たします。最終的に、個人の「ひそかなる決意」は、組織の持続可能な成長と成功の基盤となります。

冬の静かな風景を背景に、精神的な鍛錬と自己決意の重要性を象徴的に表現しています。手袋をはずし、冷たい風に果敢に立ち向かう人物の姿は、物理的な対策だけでなく、精神的な覚悟の必要性を示唆しています。遠くに見える温かく灯された小屋へと続く氷の道は、自己改善への道のりと個人的な目標の達成を表しており、雪を突き破る小さな植物は、日々の小さな行動と決断が内面的な強さと個人的成長にどのように貢献するかを象徴しています。この広い画像は、柔らかな画風で描かれ、困難に打ち勝つための精神力と静かな決意の本質を捉えています。




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