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新時代の生存戦略ー齋藤孝氏によるAI進化論の適用から人事戦略を考察する

『プレジデント2024年5/3号)』は、「AI時代の生き方大全」でした。その中でも、「齋藤孝の人生がうまくいく【古典の名言】「AIは人間を超えるのか」という疑問への最終結論」(p84)は大変興味深い内容でした。齋藤氏は、現代社会の急激な変化とAI技術の進歩に対する洞察とダーウィンの進化論を交えた議論に焦点を当てています。特に、生成AIの一例であるChatGPTの登場が示す技術進化の速度とその社会への影響を分析し、これに適応することの重要性を説いています。

 齋藤氏は、AIの急速な進化が従来の職業や社会構造にどのように影響を及ぼすかを問いかけ、この技術革新が人間の働き方や生活にどれほど深く根ざすかを詳細に探求しています。AIが単なるツールではなく、創造的な提案や自然な対話が可能な存在として急速に進化していることを実例として挙げています。これにより、多くの人々が「AIが人間の仕事を奪う」という遠い未来の話ではなく、現実のものとして認識し始めたことを指摘しています。

 この変化の波を乗りこなすために、齋藤氏はダーウィンの「種の起原」を引用し、「自然選択」と「適者生存」の概念を現代社会に適用しています。彼は、ダーウィンが述べたように、環境に適した小さな変異が生物を生存競争で優位に立たせることを強調し、この進化の法則が現代の技術革新においても同様に適用されると説明しています。すなわち、AIの時代においても、変化に柔軟に対応し、継続的に自己をアップデートすることが、個人の生存と成功の鍵であると言えます。

 また、齋藤氏は、技術だけでなくビジネスの世界においても適応の必要性を述べています。音楽業界でのメディアの進化を例に挙げ、かつてはレコードやCDが主流であったが、現在はデジタルストリーミングが主流になっており、これまでのメディアは徐々に姿を消していることを指摘しています。このような変化は、新しい技術やビジネスモデルが既存のものを置き換える自然な過程であり、この流れに適応できない企業や個人は淘汰される可能性が高いと警鐘を鳴らしています。

 最後に、どれだけAIが進化しても完全には人間社会に適応しきれない部分が残ると述べ、そのギャップが人間にとって新たな機会を生み出す可能性があると指摘しています。AIが苦手とする分野を得意とする人々が、そのスキルを活かして価値を生み出すことができるというのです。そのため、未来においても自分の強みを理解し、それを磨き続けることが重要であると締めくくっています。

 ダーウィンの進化論と現代技術の進化を対比させながら、変化の激しい現代社会において個人が生き残るためには、適応し続けることが不可欠であるという齋藤氏の深い洞察を示しています。そして、この適応力が、私たちが直面する未来の不確実性の中で最も価値のあるスキルの一つとなるのかも知れません。

人事領域への応用

 齋藤氏が提起する「AIは人間を超えるのか」という問いは、現代社会の技術進化とそれが私たちの生活や労働に与える影響について深く掘り下げる機会となります。特に私も長年従事している人事領域におけるAIの影響は大ききく、新しい技術の適用が求められる中ではありますが、ダーウィンの進化論を現代の職場に適用する考え方は、極めて有効な洞察を提供します。人事管理の進化とそれに必要な適応戦略について詳細に分析します。

進化論と現代の職場環境

 ダーウィンの進化論は、生物が環境に適応することによって生き残るという概念に基づいています。この理論はビジネス環境にも適用され、技術の急速な進歩が見られる現代において、企業や個人が新しい技術や流行にどれだけ迅速に適応できるかが成功の鍵を握っています。AIのような技術の台頭は、この進化プロセスをさらに加速させ、私たちが新しい効率的かつ効果的な働き方を見つけるために新しい方法を模索する必要があることを示しています。

人事領域でのAIの活用

 人事領域におけるAIの活用は、採用からパフォーマンス管理、従業員エンゲージメントの向上まで多岐にわたります。私は1998年に社会に出ましたが
、人事領域の拡がりはすさまじいものがあると感じています。AIを活用したリクルーティングツールは、候補者のスキルや経歴を迅速に分析し、適切な候補者を見つけ出すのに役立ちます。また、パフォーマンス管理においても、従業員の業務実績や成長潜在力を評価するためのデータを効果的に収集・分析することが可能です。さらに、従業員のモチベーション向上やエンゲージメントの促進にもAIは利用されており、従業員の感情や意見をリアルタイムで捉え、即座にフィードバックを提供するシステムが導入されつつあります。

労働市場の変化と個人の適応

 AIや自動化技術の進展によって、一部の職種は必要性が減少する可能性がありますが、新たな役割や職種が登場することも考えられます。ここで重要なのは、従業員がこれらの変化に対応するために必要なスキルや能力を磨くことでしょう。これには生涯学習の推進やキャリアパスの柔軟性を高める取り組みが含まれます。職場内での継続的な教育とトレーニングが、従業員に新しい技術やプロセスを理解し、適応する能力を身につけさせるための鍵となります。

組織の適応戦略

 企業全体としても、変化への適応戦略が求められます。これは、組織の構造自体を見直し、よりアジャイルで柔軟な運営を目指すことを意味します。また、従業員の能力開発を支援するリソースを提供し、新技術やプロセスへの適応を助ける教育とトレーニングを行うことが必要です。HR部門は、教育プログラムの設計や実施、従業員のキャリアパス設計などを担当することになります。

まとめ

 齋藤孝氏が指摘する通り、私たちは「AIに仕事を奪われる」のではなく、「AIと共に働く」ことを学ぶべきです。これは、単に技術を活用することを超えて、その技術を通じて私たち自身を進化させ、適応する能力を高めることを意味します。組織や個人がこのような環境変化に対して柔軟かつ効果的に対応できるかどうかが、未来の成功を分ける鍵となります。人事部門は、これからも技術の進化を見据えつつ、従業員一人ひとりがその変化に適応できるよう支援することが重要な役割となるでしょう。

現代の学者が自分の書斎でAIと技術の社会への影響について考え込んでいる様子を描いています。環境は静かで知的で、柔らかな自然光が思慮深い雰囲気を強調しています。このビジュアルは、現代の重要な問題に対する深い反省と学問的な取り組みの本質を捉えています。


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