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【書籍】人間の成長を促進する組織ー森信三の教えと現代人事の挑戦

『一生学べる仕事力大全』(致知出版社、2023年)のp770「わが言葉の人間学ー哲学は本来、生きる力になるべき(森信三)」を取り上げたいと思います。

 森信三という哲学者の考え方や言葉について述べたものです。森氏は、人間がどのように生きるべきかを深く追求し、その答えを学問と実践の融合に求めた人物です。彼は、年長者の苦労を理解し、想像力を使って経験の限界を超えることが叡智の表れであるとしています。この叡智は、学問や教育においても非常に重要とされています。私も、森氏の著作を繰り返し読んできました。

 さて、本文中で森氏は、日本の学問が西洋の学者に依存している現状を批判し、自らの体験に基づいた学問が不足していると指摘しています。また、上役に反抗することを楽しむような人間は大成しないとし、真の大成には尊敬する人物やその偉大さを理解する能力が必要だと述べています。

 また、個人が神から特定の使命を与えられているという考えを持ち、「封書」の比喩を用いて、自らの使命を理解し、それに応じて生きることの重要性を説いています。また、言葉の重要性にも言及し、言葉が人の命になり得る力を持つとしています。「読書」が人生体験の意味を理解する上で不可欠だとも語っています(上記当方の過去記事も参考)。

 森氏の哲学は「全一学」と呼ばれ、西洋哲学と東洋哲学の融合を目指し、真理が現実の中に存在するという考えに基づいています。彼は、人生の苦学や逆境を乗り越えることで、人間が真の知恵や叡智を身につけることができると考えています。

まぁ、私が生涯を通して求めてきたものは、「人間はいかに生きるべきか」という人生の根本問題です。 だから、それが哲学にせよ、宗教にせよ、このいかに生くべきかという人生の根本問題に対して無関係な学問はまったく無縁のものだということです。で、哲学という言葉の代わりに、もっとしっくりとくる言葉はないかと思いましてね、「全一学」と名付けた。

『一生学べる仕事力大全』(致知出版社、2023年)p771

 また、森氏自身が「隠者」を自認し、世に出ることを避けながらも、人生の真理と実践について深く掘り下げた思想を持つ人物として描かれています。彼の学問は、単に知識を蓄えることではなく、実生活の中で真理を追求し、人生を豊かにするためのものであるといえます。

ー真理は現実の唯中にあり、ですか。
そうです。いいかえれば、真理は現実を変革する威力をもつものでなければならぬ、ということです。そしてこの二つが、私の学問論の根本になっているわけです。

『一生学べる仕事力大全』(致知出版社、2023年)p772

<人事の立場から考えられること>
 
森氏の考え方や言葉には、人生の本質を見つめ、深い理解と洞察に基づいて行動するという姿勢が表れています。これは、ビジネスの世界、特に人事管理の分野においても多くの示唆を与え、応用することが可能です。人事管理は、単に人員を管理し、業務を遂行させること以上の意味があります。社員の可能性を最大限に引き出し、個人の成長と組織の発展を促進する役割を担うことです。以下に、森氏の考え方を人事管理の各領域にどのように適用できるかを具体的に述べてみます。

1. 採用とオンボーディング

  • 採用時の人物像の重視
    森氏の「人間としての成長、個人としての熟達」に重点を置く考え方は、採用プロセスにおいても適用できます。単に技術的なスキルや経験だけでなく、候補者の価値観、学習意欲、問題解決能力など、個人の成長ポテンシャルに重点を置くことが重要です。

  • オンボーディングの質の向上
    新入社員が組織の一員として迅速に適応し、自己実現を促進できるように、オンボーディングプロセスを充実させることが肝要です。森氏の「実践と経験の重視」を反映させ、実務に即したトレーニングやメンターシッププログラムを整備することが重要です。昨今は早期の離職が問題になることが多くなっています。オンボーディングが今後ますます重要なプロセスになってきます。

2. 継続教育とキャリア開発

  • 継続教育プログラムの充実
    社員が常に学び、成長を続けられるように、継続的な教育とトレーニングの機会を提供することが重要です。森氏の「実践と経験の重視」の考え方を生かし、実務と密接に関連する内容のプログラムを設計することが望ましいです。

  • キャリアパスの多様化
     
    個人の多様なキャリアの志向に対応し、様々なキャリアパスを提供することで、社員が自己実現を図れるように支援します。これには、森氏の「個人の成長と自己実現」の考え方が反映されています。

3. パフォーマンス管理と評価

  • 目標設定のプロセスの改善
    個人の目標が組織の目標と調和し、かつ社員自身の成長に寄与する
    ように、SMART(具体的、測定可能、達成可能、関連性があり、時間的に限定されている)原則に基づいた目標設定を行うことが大切です。

  • フィードバックとコーチングの重視
    定期的なフィードバックとコーチングを通じて、社員が自己認識を高め、継続的に成長できる環境を整えることが重要です。森氏の言葉からは、コミュニケーションの質と深さが人間関係や個人の成長に大きな影響を与えることが理解できます。

4. 組織文化とリーダーシップ

  • 組織文化の育成
    正直性、信頼、協力といった価値を組織文化
    に根付かせ、社員がそれを体現できるような環境を作ることが大切です。森氏の言葉には、言葉や行動が人々の心に与える影響の大きさが示されており、これは組織文化の育成にも非常に関連が深いです。

  • リーダーシップの資質の強化
    リーダーは、部下の成長をサポートし、チームの目標達成をリードする役割を担います。森氏の言葉からは、深い人間理解と共感、そして他者への正しい導きがリーダーシップの重要な要素であることが理解できます。

5. 福利厚生とワークライフバランス

  • 社員の幸福感の向上
    社員が仕事だけでなく、私生活でも充実感を感じられるように、柔軟な勤務体制、健康支援プログラム、家族支援策など、総合的な福利厚生の充実を図ることが重要です。

  • ワークライフバランスの促進
    社員が仕事と私生活のバランスを取りやすい環境を提供する
    ことで、ストレスの軽減と生産性の向上を図ります。森氏の言葉からは、人間としての全面的な成長と幸福が大切であることが感じられます。

 森氏の言葉や考え方は、単に個人の成長や組織の運営に関する知識を超えた、人生を豊かに生きるための深い洞察を提供しています。人事管理において彼の考え方を取り入れることで、単に効率的な組織運営を実現するだけでなく、社員一人ひとりが自己実現を果たし、その結果として組織全体がより高い成果を達成できるような環境を築くことができるでしょう。森信三氏の言葉は、人間の尊厳と成長の重要性を再認識させ、それを実生活やビジネスの世界に応用するための貴重な指針を提供しています。私も、森氏からは多くの学びを得ましたが、改めて、その濃厚さに感銘を受けたところです。


 792頁にのぼる大作です。まさに仕事のバイブルとなります。名経営者のインタビューや伝説の名講演、一度きりの師弟対談、創業者同士の対談などが、54話を収録されています。


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