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書評:RANGE-知識の幅が最強の武器

【一言サマリ】

複雑・不確実で答えがない時代には、知識・経験の幅(Range)が問題解決の要点となりうる

【要約】

プロフェッショナルたちが陥る「認知的固着」(Cognitive Entrenchment)という落とし穴

チェス・ゴルフ・外科医・会計士・ブリッジ・ポーカーなど「繰り返し経験を積むことで直感が正確になる」領域を「親切な」学習環境と著者は定義し、いわゆる「1万時間」の法則などが有効であるとしている。但し、この「直感」または「経験」に基づく判断は適用範囲が限られており、例えば経験豊富な会計士は控除額に「新しい」税制を適用するように言われると、新人よりもうまくできないケースも見られる。これを認知的固着といい、「意地悪な」学習環境ではこの認知的固着、つまり1万時間かけて身につけたプロスキルは重荷になってしまう可能性がある。(変化が多い環境では、身につけた処理能力の適用範囲は狭まり、苦労して修得したスキルと習得に要した時間が適用範囲が狭く時間の浪費になってしまうかもしれない)

趣味や複業を持っている人たちはエネルギーを分散させ、時間を浪費している?

組織行動学を研究するエリック・デーンによると、「認知的固着」を緩和する方法の1つは1つの領域内で取り組む課題を大幅に多様化することだ。これは、解放をすでに知っているのに、別の方法でやってみるのは「効率」だけを考えると無駄だと感じるが正しいのだろうか?

また、テストで良い点数を取らせてくれる、良い成績につながる教師は良い先生だろうか?イタリアのボッコーニ大学でも実施の1200人の新入生に対して実施された例を見ると、経営学、経済学、法律学の入門クラスでランダムに振り分け9年間かけてその後の規定の過程を学んだ結果を分析したところ、「学生を出来すぎと言えるレベルにまで導いた教師」は「高い評価を受けた」が「学生の長期的な成果は損なわれた」。これは「効率よく」テストで良い点を取れるように指導は、良い成績を取らせることができるが、本当の意味で(長期的には)生徒のためにならない。この観点でみると、時間をかけて試行錯誤しながら学ぶというプロセスを受験というプロセスの中で実現することは可能だろうか?またじっくり考えて成績が悪くなってしまうことは無駄なのだろうか?

結果に目を向けてみると、最高レベルの科学者たち、ノーベル賞を受賞した人たちでは、アマチュアの俳優、ダンサー、マジシャンなどのパフォーマーである(そういった趣味や複業を持っている)確率は22倍高い。片足を別の世界においたり、関係のないことをする、つまり幅をもたせることは、時間の浪費なのだろうか?有益なのだろうか?本書は、訓練の幅の広さは応用の幅の広さにつながる。言い換えると、多くの文脈で学べば学ぶほど学習者は抽象的なモデルをより多く構築する

「意地悪な」学習環境でうまくやるために必要なことは?

ケプラーは「私はアナロジーを特別に好んでいる、アナロジーを私の最も信頼できる師、自然の秘密を全て知っている。アナロジーを大いに活用すべきだ」と言った。ある知識を他のコンテキストに適用できる思考力を身に着けたい

技術的な観点から言うと1989年の水準で考えてもゲームボーイは笑われてしまうようなレベルだった横井のチームはあるとあらゆるものを省いた。水平展開する思考力、必要なものの閾値を見出す思考力

知識を柔軟にするには、様々な状況で学習しなければならない。同じプロセスを用いて繰り返し練習するブロック練習(Blocked Practice)ではなく、多様性練習(Varied Practice)インターリービングが大切

シリアルイノベーターの特徴は「不確実性への耐性」「システム思考」「隣接する分野についての技術的な知識」「今入手できるものの使い道を変えて使う」「類似の領域をうまく活用してイノベーションプロセスの材料となるものを見つける」「バラバラの情報を新たなやり方で結びつける」「様々な情報源からの情報をまとめる」


自分が人生をかけて取り組むことをどう見つけるか?

そもそも、「そもそもあなたは何に取り組むべきなのか」「何があなたに合っているのか」という重要な知識はゆっくりと身につける必要がある。人生がゴルフやチェスのように「親切な」学習環境または一定度の範囲で予測可能だとするのであれば、「1万時間」の法則に従い専門性を高めていくのが良い。もしも、世の中はより複雑で「意地悪な」学習環境になっていると考えるならばこの本は一読の価値がある

【おすすめ度】★★★★☆
【他書評など書籍情報】RANGE-知識の「幅」が最強の武器になる

(補足) Kahn Academyでの個別学習進捗に関するデータ

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上記のスクリーンショットは、Let's use video to reinvent education (Sal Kahn)のTEDです(上記図は13:48頃)。上の図の青い線はある人の学習進捗を表していますが、他の線も一人ひとりの学習者です。30日をすぎる頃までは、この方は全体の真ん中あたり必ずしも全体の中で良い進捗ではありません。しかし最終的にはその後コツを掴んだのか一気にトップまで上り詰めていきます。このようにスキルを習得するときに、今の学校のように同じ時期に同じ内容を学ぶスタイルでは、本当は才能があることの芽を摘んでしまうリスクがあるということになります。

本書(Range)の中でも、"イタリアのボッコーニ大学でも実施の1200人の新入生に対して実施された、経営学、経済学、法律学の入門クラスでランダムに振り分けられ9年間かけてその後の規定の過程を学んだところ学生を出来すぎと言えるレベルにまで導いた教師は高い評価を受けたが学生の長期的な成果は損なわれた"とあります。

これは、自分のペースで、試行錯誤しながら学ぶことの大切さ、そのために、今はみんなが同じ時間に同じ内容の授業を受けるというスタイルを変えていく必要性(今までは全体最適を考えるとこうするしか手がなかった)を示唆していると言えます。


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