ミードからジェンドリンに至るまでの「対象」理論:その類似点と相違点
ジェンドリンの「身体と環境の相互作用」の系譜として、ジョン・デューイの「有機体と環境の相互作用」がしばしば議論されてきました (Schoeller & Dunaetz, 2018)。デューイと同様に、彼の同僚であったジョージ・ハーバート・ミードもまた、相互作用について論じています。相互作用に関する議論の中でも、ジェンドリンがミードを「対象」という観点からどのように継承し、発展させたかに私は関心があります。
1. 相互作用あるいは相互関係
G・H・ミードは有機体 (生命体) と環境との相互関係を論じています。
注目すべきは、相互関係というときにミードは、皮膚の下にも環境は存在すると主張していることです。
こうしたミードの発想は、ジェンドリンの『プロセスモデル』にも確実に引き継がれています。
2. 牛がいるときだけ、草は食物となる
より具体的には、ミードは動物の食物—「対象」—をジェンドリンの議論と同じようなかたちで論じています。
上記の具体的な考察を参考にすると、以下のジェンドリンの言葉も理解しやすいと思います。
3. 推進
さて、問題は、ここから先です。
上記の引用文と似たようなことを、ミードも次のように論じています。
しかしミードには、「対象が戻ってくると、停止していたプロセスが再開され、動き出す...そのとき、対象はもはやインプライされない」(Gendlin, 2018, p.17; cf. ジェンドリン, 2023, p. 27; 岡村, 2022)という発想はありません。ミードは、種一般と環境との相互作用の解明により関心があったのだと思われます。一方、ジェンドリンは、個々の生きている身体における「空腹、食物探索、摂食、飽食、排便、そしてしばらくして空腹」(Gendlin, 1984, p. 100) というダイナミックなサイクルにより関心があったのだと思われます。結局、「プロセスは推進することによって時間を作り出す」(Gendlin, 1984, p.100)という考え方は、ミードが生きていた時代には見られなかったのではないかと思います。
参考文献:
Gendlin, E.T. (1984). The client's client: the edge of awareness. In R.L. Levant & J.M. Shlien (Eds.), Client-centered therapy and the person-centered approach: new directions in theory, research, and practice, pp. 76-107. Praeger. ユージン・T・ジェンドリン [著] ; 久羽康・吉良安之 [訳] (2015). クライアントのクライアント:意識の辺縁.
Gendlin, E. T. (2018). A process model. Northwestern University Press. ユージン・T・ジェンドリン [著] ; 村里忠之・末武康弘・得丸智子 [訳] (2023). プロセスモデル : 暗在性の哲学 みすず書房.
Gendlin, E.T., Grindler, D. & McGuire, M. (1984). Imagery, body, and space in focusing. In A.A. Sheikh (Ed.), Imagination and healing, pp. 259-286. Baywood.
Mead, G. H. (1934). Mind, self, and society: from the standpoint of a social behaviorist. (edited by C.W. Morris). University of Chicago Press. ジョージ・ハーバート・ミード [著] ; 山本雄二 [訳] (2021). 精神・自我・社会 みすず書房.
Mead, G. H. (1982). 1927 class lectures in social psychology. In The individual and the social self: unpublished work of George Herbert Mead (edited by D. L. Miller) (pp. 106-75). University of Chicago Press. ジョージ・ハーバート・ミード [著] ; 小川英司・近藤敏夫 [訳] (1990). 個人と社会的自我 : 社会心理学講義 いなほ書房.
ジョージ・ハーバート・ミード [著] ; 植木豊 [訳] (2018). G・H・ミード著作集成:プラグマティズム・社会・歴史 作品社.
岡村心平 (2022). 予感する身体 : 治療文化論的考察 関西大学東西学術研究所紀要, 55, 147-85.
Schoeller, D. & Dunaetz, N. (2018). Thinking emergence as interaffecting: approaching and contextualizing Eugene Gendlin’s Process Model. Continental Philosophy Review, 51, 123–140.
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