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「ジェミニマン」の感想

ウィルスミスvsウィルスミスvsダークライ

政府のもとで数々の暗殺に手を染めてきた伝説のスナイパー。引退を決意した彼の前に謎の刺客が現われる。なぜか自分のあらゆる動きが予測されてしまい、苦戦を強いられる。やがて彼は、アメリカ国防情報局の潜入捜査官の力を借り、謎の刺客の正体が、秘密裏に創られた自分自身の若いクローンだという事実にたどり着く。
(Googleトップのあらすじ)

なによりまずバイク格闘技がカッコよかった。バイクビンタにバイク回し蹴り、バイク飛ばし等。
結論から言ってしまえばこの映画は微妙だったんだけど、こんなアクションは他では見たことがなく、それだけでも見る価値はあった。そのシーンのクリップを貼っておく。(20秒〜)

見た?最後の自走式バイク砲めちゃめちゃカッコいいよね。

しかし、この映画を見る価値がこのシーンに集約されているならば、もうこのクリップを見るだけで充分なのでは?という気もしてくる。

……それはそれとして、早速話の感想に入っていこう。

マッチョな奴らは大体友達

次々出て来ては、次々と殺されて退場していく主人公の協力者は、みーんなマッチョな価値観の持ち主。
不倫旅行中の元同僚が、ウィルスミスと男同士の友情を確かめ合ってみたり。飛行機の機体を撫でながら「俺の可愛いベイビー」みたいなことを言ってみたり。そんなマチズモ描写がちょっと面白かった。

しかし、この時代錯誤な男性性の描写が、のちにそれを棄却するために意図的に盛り込まれているのはほぼ間違いない。
要はこれは主人公が勝ち逃げしたパターンの「アメリカンスナイパー」だ。(丁度ウィルスミスも冒頭で超長距離狙撃をかますしね。)

(最高の映画の最高な予告)(以下アメリカンスナイパーのネタバレあり)

マッチョな世界からの卒業

映画「アメリカンスナイパー」では、主人公はマッチョな父親から「決して銃を手放すな」と教えられ、その教え通りずっと戦士として振る舞ってきた。
しかし主人公は終わりの見えない戦争の中で疲弊していき、終盤でついに限界を迎え、その銃を手放して逃げ出す(=マッチョな世界から降りる)ことになる。まあ最終的に主人公は殺し合いの螺旋から逃げ切ることが出来ないわけだけど。

ジェミニマンにおいても、主人公は父親や教官から虐待じみた方法で戦士としての生き方を叩き込まれ、ずっと戦士として振る舞ってきた。そして物語の開始時点で、疲弊した主人公は殺し屋の仕事を辞めようと決意する。
ここまではアメリカンスナイパーの流れと同じだ。
しかし、そこで彼の引退を邪魔する悪役が現れる。
アメリカンスナイパーとは違い、ジェミニマンには全ての問題の元凶である悪役が、この煉獄の明確な出口(こいつを殺せばオールオッケー)として存在している。
主人公はその悪役を倒すことで、過去を清算(補足1)して静かな余生を得る事に成功する。

補足1
これがマッチョな世界から降りる話だと分かった上で、先ほど触れたマッチョな協力者達に目を向けると、彼らが次々と退場していったのは主人公にかけられたマチズモの呪いを解くための身辺整理だったともとれる。
主人公の戦士としての日々を象徴する彼ら元同僚が退場しない事には、主人公の清算は完了しない。

これについて、主人公の救済をそんなアチーブメント的にしてしまって良いのかと若干モヤモヤするけど、エンタメ作品って大抵こんなだよなとも思う。
しかしこの映画は、そんなアチーブメント的すぎる救済を少しでも人間的なものにするために、主人公が救済されるロジックをもう一つ用意している。それが彼のクローンだ。

この映画において主人公のクローンは、在りし日の自分、まだ殺し合いの螺旋に取り込まれる前の自分として描かれている。
そんなクローン(=かつての自分)を悪役の支配下(=戦士の運命)から救うことで、自分自身も救い、主人公は鏡で自分の姿を見ることができるようになる。なるほど良い話だ。



まとめ、クローンの扱い

……いや、やっぱ普通に微妙な映画だった。

きっと、発想の順番としては、ウィルスミスvs若ウィルスミスって絵面を作りたいがためにクローンという設定を使い、その設定に意味を持たせるために「在りし日の自分」的な描き方をしたのだろう。
しかし、在りし日の自分の救済という話をするのであれば、救う相手はクローンである必要はなく、別に似たような境遇の少年兵とかでも良いわけで。

わざわざクローンというSF的設定を出したからには、こちらは「クローン側のアイデンティティー」みたいな、SF的な問いかけを見たくなる。しかしそういう部分への踏み込みはほとんどなかった。
終盤に、クローンを兵器として使うことの是非が言い訳程度に問われていたけど、それに対する回答もなあなあで終わってしまっていて、すごく残念だった。

しかし繰り返しになるが、アクション、特に中盤のバイクアクションは掛け値無しにかっこよかったので、それなりに満足できた。

その他面白かった部分

・クローンがウィルスミスに蜂の毒を撃ち込んでアナフィラキシーショックを誘発したこと対して、ヒロインが「なんで蜂の毒を撃ち込んだの?酷いじゃない!」って詰め寄るシーンがめっちゃ面白かった。もっと手前に看過できない倫理的問題があるだろ。ここに来るまでに何人死んでるんだよ。

・移動の役にしか立ってなかったアジア人が、最終決戦の舞台にたどり着いて、移動の必要がなくなった途端に退場させられていたのも面白かった。

追記
同監督のブロークバックマウンテンはめちゃめちゃ良い映画だった。

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