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「パパが遺した物語」の(くだらない)感想。

とてもくだらないし、くだらなさを正面から描くことから逃げているという点で二重にくだらない映画だった。物語の核になる部分を隠したまま終わっていくのが(それによって批判から逃げようとしているのが)とてもくだらないしキモいしダサい。

主人公のくだらない克服。

この映画の結論には納得がいかない。話を強引にすり替えられた感がある。大切な人が居なくなる恐怖で、人を好きになるのが怖いって話をしていたのに。「それはそうと、女は愛がないと生きていけないわよ」って言われてなんか解決した感じになってた。
「大切な人が突然いなくなった経験から、人と繋がりを持つことに怯え、ゆきずりの男と寝ることで自己破壊衝動を発散している」と、ここまで自分の問題を客観視できている主人公は、だからこそ問題を解決するのが難しかったはずだ。
数多ある物語の主人公達が、自分の問題に気付いて成長を遂げる中、最初から自分の問題の核に気付いていて、その上でどうしようもない状態というのは好転のしようがない。ここからこの主人公がどう救われるのかを楽しみにしていたのに、本当に興醒めした。

くだらない父親。

父親が自分の死期を察しているような表情を見せるのも糞しょうもないなと思った。
娘と一緒に暮らすために書いた小説が書きあがったのになんか浮かない表情のラッセルクロウ。は?喜べよ。
死期を悟った親が子供のためにメッセージを残すってこと自体をしょうもないとは思わないけど、この映画はそう言う映画じゃないだろ。

この映画は急な事故で母親が死んでしまうところから始まる。
つまりこれは、家族を喪う人も死ぬ当人も、まさか別れが訪れるなんて思ってない、その唐突さにどう向き合うのかって話のはずだ。それなのに父親だけそのルールを無視してるのが気に食わない。
この調子だと彼の書いた小説も、自分が死んだ後に読まれることを前提とした作りになっていそうだな、もしそうだったらしょうもないな、と思うが、小説の内容が明かされることはない。(これが1番の問題だ)

この辺りの展開の中で唯一良かったのは、訴えてきた相手が不倫していたことで裁判に勝てた!ってときの父親の微妙な顔。
「お前も不倫してたもんな〜(^^)不倫してたやつに子供を育てる資格はないという裁判所の判断は、そのままお前にも刺さるよな〜(^^)」って思えた。

しかしこの罪や、今の自分では娘を育てることは難しいという現実的な問題に関して、父親がそれ以上悩まされることはない。彼は死ぬことでこれらの問題から逃げることに成功する。
そして、この映画は彼の死後も、彼の書いた小説を我々の目から隠すことで、彼の罪について考えようとする我々の視線から逃げ出す。

全てがくだらない。

そう、この映画のくだらなさの答えが、父親の書いた小説、つまり邦題にもなっている「パパが遺した物語」の中に書かれているはずなのに、この映画はそれを決して見せようとしない。

現在の主人公が、父親の書いた小説の話を彼氏とするあたりでは、フィクションとして書かれた父と娘の物語と、その元になった自分と父の物語の差異を描く物語になるのかなと思っていたけど、別にそんなことはなかった。
父親がどんな話を書いてたのか、つまり、「育児能力がないのにも関わらず、自己満足のために娘を手元に置いていたことをどう正当化していたのか」は結局描かれずじまいだ。

なので実際にはこの映画には「任意の職業xに就いてる父親と、その父親を亡くした女の子の話」程度の解像度しかない。

父と娘の感動物語を描く上で、都合のいい部分だけ見せて都合の悪い部分は隠す。別にそれでもいいんだけど、じゃあ父の書いた物語とかいう重要なモチーフを出してくるんじゃねーよ。それについて描き切る覚悟もないのに中途半端に手を出すその姿勢は卑怯だし気持ち悪い。
覚悟のないクソしょうもない人間がなんとなく作ったんだろうなというのが伝わってきた。

その他のくだらない感想。

・精神病院の演出は良かった。父親が精神病院の部屋に入ったときと、出ていくときで全く部屋に変化がない。強いて言えばベッドに少し皺ができた程度。父親がここに落ち着くことはなくて、ただ娘に会いたいというだけの一年だったんだろうな、と。
しかしこれは彼が全く何も治癒していない、病院にいた意味なんてまるでなかったという描写だったということが後でわかって、なんか微妙な気持ちになってしまった。

・自分を破壊するために一夜限りの関係を持ちまくる主人公は魅力的だった。(それにしても、自分のしでかしたことに後悔するのが早すぎるし、後悔したときに声がデカくなるのがうぜーなとは思う。)

・んで主人公がカウンセリングしていた子供は何だったん?

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