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支配者は誰だ?「ジュラシック・ワールド/ドミニオン」の感想

理由は後述するが、「新たなる支配者」という邦題は的外れも良いところなので、今回は原題に準じたドミニオンという呼び方をさせてもらう。

つまらないならまだ良い。まさか最終作で、これまでのシリーズの全てを台無しにされるなんて。
さっそく、この映画がどんな欺瞞を使い、何を裏切り、何をぶち壊したのかを見ていこう。

メイジーの裏切り

メイジーの本当の正体を知ったところでブチ切れた。
は?起源の正当性って話を今始めるの?
あなたはクローンではなく、母親の胎から生まれた(だから祝福されるべき存在だ)。存在を肯定する根拠を、その起源に求め出したら、このシリーズの根幹のテーマと矛盾するんだけど。
ジュラシックパーク、ジュラシックワールドはずっと、歪な方法で生まれた命でも確かに生きているということを主張していたんじゃないの?
一作目で苦しむトリケラトプスに触れたグラント博士はそう感じたんじゃないの?子供達がブラキオザウルスに触れて感じたのはそういうことじゃないの?
その集大成が、前作のラストでの本物/偽物の境界の破壊だったんじゃないの?

ちょっとショックすぎる。

メイジーは恐竜達と同じ存在だったからこそ恐竜達を肯定し、人類を脅かす決断をする動機と資格があったわけで、メイジーと恐竜達とのリンクが切られるのなら、前作のラストは馬鹿なガキが情にほだされて人類を危険に追いやっただけということになるんですけど。

根本の問題:家畜化された恐竜達

いろんな恐竜がバイキング形式でちょっとずつ襲ってくるのもすげー嫌だった。
んで、何だよこの3匹の恐竜のプライドバトル。マジで知ったことじゃねーんだけど。

考えているうちにこの映画に潜んでいた欺瞞に行き着いたので、今からそれを書く。

恐竜のキャラクター化が進んだせいで、彼らの持つ理不尽性が無くなってしまった。理不尽に人を食べることはなく「食べられてもしょうがないよね。」って人しか食べられない。(この問題は実はワールド2の頃から密かに存在していた。あの映画でも、恐竜は悪役だけを選んで食べている。)これによって「安心して愛せる恐竜」像が作り出されている。
これは人と恐竜との共存という結論に説得力を持たすための方策でもあるんだろう。
支配ではなく共存というお題目をぶち上げたところで、理不尽に人を殺すような存在との共存に説得力をもたせるのは難しい。なので、恐竜に密かに人間の価値観を守らせている。
でもそれって全恐竜の家畜化と何が違うわけ?人間の論理に従って動く恐竜なんてのは接しやすく「調整」された偽物でしかないだろ。
恐竜の制御不能性から始まったシリーズの最後で、こんな貶め方をされてしまったらそりゃカチンとはくるよ。

イナゴについて

人間と恐竜の共存が既に物語冒頭で果たされてしまっているので、蝗害と火災によって、人類と恐竜どちらにも害をなす存在を作り出したかったんだろう。しかしこの巨大イナゴ達との決着は、メイジーの正体同様、このシリーズが長年かけて説いてきたテーマに完全に逆行している。

恐竜も巨大イナゴも人間のエゴの産物で、であればどうして恐竜は生かされイナゴは殺されたのか。
まず彼らを分けうるのはどういう意図で生み出されたのかという点だ。恐竜は子供達をワクワクさせるため。一方でイナゴは企業の利益のため。
しかしそれを言うならインドミナスレックスも子供達をワクワクさせるために作られたわけで、彼が排除されるのはおかしかったことになる。
生態系に影響を与えるかどうかと言う点で分けることも不可能だろう。だってワールド2で恐竜が組み込まれた新しい生態系を肯定しちゃってるし。
つまりこのジュラシックワールドという物語はイナゴを駆除する行為に正当性を持たせることができない。

イナゴも宇宙船地球号の仲間に入れてやれよ!前作のメイジーみたいにイナゴ人間が出てきて「イナゴも私と同じように生きてる!」って言ってウー博士を殴り殺せよ!おい!!!

支配者は誰だ?

しかし前に挙げた恐竜の家畜化という密かに行われていた調整を前提とすればこのイナゴの大量殺戮にも説明が付く。
つまり恐竜は人間に都合のいい存在だから生かしてあげるけど、イナゴは人間に都合よくないし、キモいから死ね!ということだ。

「新たなる支配者」とかいう訳のわからねー邦題がついているけど、実のところ支配者の王冠は人間の元から1度たりとも動いていない。恐竜?イナゴ?笑わせんな。お前等の生き死には人間様の胸三寸で決まるんじゃ。

飛蝗に処女懐胎、あからさまにキリスト教的なモチーフを中心に置くこの映画で、結局共存などではなく人間が全てを支配するという結論に行き着くのは出来すぎていて笑えもしない。
「地のすべての獣、空のすべての鳥、地に這うすべてのもの、海のすべての魚は恐れおののいて、あなたがたの支配に服し、すべて生きて動くものはあなたがたの食物となるであろう。」
──創世記

最終的な感想

マジで最高の映画だった。ありがとうコリントレボロウ。
グラント博士やサトラー博士を出してくれて本当にありがとう。人間のエゴで作り出した生命を人間のエゴで絶滅させることを是とする、ジュラシックパークシリーズ全体に唾を吐きかけるような物語でシリーズを締めてくれて本当にありがとう!!!

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