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聞いてみたいフルトヴェングラーのLP(1)

昔からフルトヴェングラーはLP(レコード)の方がCDより音が良いと言われていました。おそらくそうだろうと思いつつも、LPを実際に聞くのはなかなか難しいため、LPの板起こしCDも含めCDで主に聞いていました。

ところがマニアな方々のお話をネットで聞いたり読んだりしているとやはりLPの方が音が良いらしいです。テープ音源というのはどんどん劣化していくので、劣化の少ないLPの方が鮮度が高いのでしょう。また、変にリマスタリングで音をいじることで、録音された音からほど遠い音になったCDよりは、作成時にあまり音をいじっていないLP(もちろんLP作成時に音を加工していればそうとは言えませんが)の方が音が自然なんだと思います。

というわけで、いまから買って聞いてみたいフルトヴェングラーのLPをいくつか挙げていきたいです。わたしはそこまで熱狂的なフルトヴェングラーの信奉者ではなく、状態が悪い録音(音割れがひどい、音が混濁しているなどなど)はあまり好きではないです。というわけで、最高の名演奏というよりは、音の状態が比較的マシなものを主に選んでみました。

なお、フルトヴェングラーのLPファンの中には初期盤信奉者という方が結構いらっしゃいます。最初期のLPが一番テープが劣化していないから音の状態が良いだろうというのが、一応の理屈です。LPの音は製盤技術なども影響しますので、一概に初期盤の音が最高というわけではないらしいですが、たとえば有名なバイロイトの第九のようなレコードはやはり、1955年の初期盤の音が一番良いそうです。(板おこしでしか聞いたことがないのであくまで、伝聞の受け売り)

フルトヴェングラーの録音については、shin-pさんのフルトヴェングラー資料室に詳しくまとまっています。初期盤についての情報やどのレコードが一番音が良いかなどの情報もありますので、参考にさせていただきます。

shin-pさんのフルトヴェングラー資料室HP

今回は以下6つのLPについて書いています。

1.ワーグナー トリスタンとイゾルデ(1952年、フィルハーモニア)
有名な、1952年のスタジオ録音です。
初期盤は英HMVのALP1030-5(53/02)です。

フルトヴェングラーは最晩年に自分が録音したトリスタンとイゾルデのレコードの音に満足し、第1幕の最後を二度聞いたようです。音質に満足して、これからはレコードをどんどん作りましょうと言っていたそうです。その時のレコードが英HMVの初期盤だったかは分かりませんが、多分そうだったのだと思います。(ただし、フルトヴェングラーは録音時にテープ本体のプレイバックも聞いていたはずで、その時にすでに高音質で再生音は聞けていたはずですが。。。)
個人的にはCDでも十分音が良いと思いますが、初期盤LPの音はどうだったのか興味がありますので、ALP1030-5は入手して聞いてみたいと思います。(なお当初は6枚組だったトリスタンですが、そのあとはLP5枚組になったようです。)
なお、このトリスタン、最高という人もいれば、盛り上がりに欠けて退屈という意見もあり、人それぞれだとは思いますが、個人的には第1幕への前奏曲のオーケストラの音色と、フラグスタートの声に大変感銘を受けました。


2.ベートーヴェン 交響曲第9番’合唱’(1951年、バイロイト祝祭管弦楽団、ライブ)
これはバイロイトの第九として有名な、バイロイトで1951年に演奏したベートーヴェンの交響曲第9番の演奏です。これは初期盤の音が一番良いのと、終楽章の最後の演奏が崩壊していないということでそのあとのLPと違うところがあるようです。
個人的には、ややこもり気味ながら、この当時のライブ(実はリハーサル、ゲネプロなどの音源も含まれています)としては柔らかい音で録音されていて、まずまずの音質だと思っています。音が硬くならないところが良いですね。聞きどころは第1楽章、第3楽章、第4楽章の歓喜の主題を提示する箇所などです。でも第1楽章の展開部あたりは、1953年5月にウィーンでやった演奏の方が個人的には好きです。

初期盤
イギリス ALP1286-7(55/11)

フランス FALP381-2(55/12)

ドイツ  WALP(G)1286-7('55)

詳しいことは知りませんが、1955年にイギリス、フランス、ドイツ、1956年の日本、いずれも同じメタルから作られているようで基本的には同じらしいです。でもイギリスHMV盤とフランスパテ盤だと、やはり微妙に音が違うようです。
これは人気アイテムで、状態の良いものはかなり高額になるようです。わたしはそこまでLPにお金を使いたくないので、安い(そして少し再生されてしまっている)ものがあれば手に入れたいと思います。


3.ベートーヴェン 交響曲第5番(1954年、ウィーン・フィル)
初期盤 英HMV ALP1195(55/02)

これは、1954年録音のベートーヴェンの第五で、フルトヴェングラーの第五の中では一番有名なものです。テンポが遅く、テンポの変動も少ないため、間延びしているとか、整いすぎていてつまらないという批判的な声も耳にします。逆に志鳥栄八郎氏のように、荒れ狂った1947年の第五よりも、ドイツ風のうまみをだした演奏として評価する声もあります。
個人的には、第五という曲はメトロノームのようになるべく正確に拍を刻んだ方がよいのではと考えていますので、この演奏はまあまあ好きです。聞きながら頭の中でメトロノームがカチカチなるような演奏です。もちろん、もっと若い時の推進力のある演奏にも魅力はありますが。
音としては、ウィーンのムジークフェラインで録音している割には、残響が少なめです。ホールトーンも入っていることは入っていますが、1952年に録音したエロイカ、第1、田園、第4なんかよりは残響は控えめです。
個人的にはトリスタンほど高音質だとは思っていませんが、第4楽章の展開部最後のクレッシェンドあたりは、フルトヴェングラーの第五の中では一番、生々しく録音できていると思います。


4.ベートーヴェン 交響曲第3番'エロイカ'(1952年、ウィーン・フィル)
初期盤 英HMV ALP1060(53/09)

これは1952年11月のHMVへのスタジオ録音です。晩年の演奏のため、1944年の有名なウラニアのエロイカなんかに比べると、テンポはやや遅め、表現も控えめになっています。
これはyoutubeでLPの板起こしを聞いて、残響を伴ったオーケストラの音が実に柔らかく録音されていることに感銘をうけ、ぜひ、LPで聞いてみたいと思った演奏です。フルトヴェングラーのエロイカの中で最高の演奏かどうかは知りませんが、一連のライブを聞いた後でも、まったく引けを取らないスタジオ録音だと思っています。

5.ワーグナー ニーベルングの指環(1950年、スカラ座、ライブ)
イタリアCetra FE 37-40(1983)

ラインの黄金とワルキューレ
ジークフリート
神々の黄昏

これは1950年の3月から4月にミラノのスカラ座で上演されたニーベルングの指環のライブ録音です。チェトラの音源は、テープ音源から復刻されたものです。ギド・M・ガッティの著書にはフルトヴェングラーが「公演の合間に何度も録音を聴き返し、その成果に満足の意を述べた」と書かれているようです。(実際に調べたわけではないです。)
たしかにテープ音源で聞くと、1953年のローマ盤に比べて音の歪みが少ない、その点は聞きやすいです。音はあまり残響豊かではないですが、それは歌劇場だからでしょう。ダイナミックレンジも中程度で、音の豊かさも今一歩というところです。
わたしがはじめて聞いたニーベルングの指環の演奏がこれで、一部の音が悪くなってい箇所(ワルキューレの第1幕の一部で音揺れがひどいところ)などは決して良いと思いませんでしたが、なんだかんだで、神々の黄昏は最後まで聞いたと思います。その後も、数回は全曲通した聞いたと思います。
歌手ではやはりフラグスタートのブリュンヒルデがすばらしいです。また、セット・スヴァンホルムのジークフリート、フェルディナント・フランツのヴォータンにも感銘を受けました。マックス・ローレンツの神々の黄昏のジークフリートは歌い崩しはいまいちですが、最近はなかなか良いと思えるようになってきました。
ニーベルングの指環の最高の録音かと言われれば違うと思いますし、いくつか大きなカットもありますが、フラグスタートのブリュンヒルデがきけ、比較的早めのテンポで劇的に演奏するフルトヴェングラーの迫力が楽しめる演奏ですので、ぜひLPで聞いてみたいと思います。LPではやはりテープから初めてLP化したチェトラFE 37-40(1983)が最も音が良いようです。


6.ベートーヴェン 交響曲第5番(1950年9月25日、ウィーン・フィル、ライブ)
Recital Records RR 507

これは、1950年9月25日のストックホルムでのウィーン・フィルとのライブです。このRecital Records RR 507には、ベートーヴェンの第5以外に、同日に演奏されたシベリウスのエン・サガも含まれています。
フルトヴェングラーの第五は、ライブでも9種類存在し、ベルリン・フィルとも1943年(放送録音)、1947年2種、1954年2種など、多くの録音が残っています。これらもすばらしいですが、ウィーン・フィルを振った、やや徹底しないところもあるこの第五を聞いてみたいと思いました。
録音ですが、スウェーデンにはまだテープ収録はされていなかったため、ディスク録音の状態で残っています。音質はまずまずで、ティンパニなんかは良く録音されています。
テンポは比較的早めで、停滞感がなく聞いていて爽快になります。1954年のスタジオ録音とは大分違う演奏です。ウィーン・フィルとの貴重なライブということで、ぜひLPで聞いてみたいです。なかでも、Recital Records(discocorp系列)のLPが一番鮮明だそうなので、このLPを入手したいと思います。

もちろん、フルトヴェングラーにはこれ以外にも良い演奏はたくさんあり、ほかにもLPで聞いてみたい演奏はたくさんありますが、それは次回以降にします。

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