見出し画像

ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力【要約/本田哲也】

まいど!ひでやです!

今回は「世界でもっとも影響力のあるPR プロフェッショナル 300 人」に選出されたPR 専門家の本田哲也さんが書いた『ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力』をご紹介いたします。

最近、ビジネスシーンで「ナラティブ」という言葉をよく耳にしませんか?
辞書によれば、意味は“物語”
では、従来からよく使われている「ストーリー」とは何が違うのでしょうか? 

また、なぜ今、ナラティブは注目されるのでしょうか?
本書は、戦略PRの第一人者が、味の素、サンリオなど様々な事例を交えながら、企業を変革する“物語”のつくり方を解説しています。
ビジネスパーソンであれば、必ず知っておきたい新時代の力、「ナラティブ」について深く学ぶことができます。

世の中は新型コロナによって、ニューノーマルな時代へと強制的に移り変わりました。

そのような時代に私たちは、一体どんな考えでビジネスシーンを渡り歩いていけばいいのでしょうか?

その答えとなるキーワードが「ナラティブ」です。
それでは早速参りましょう!


ナラティブとは?

そもそも、ナラティブとは一体、どんな意味なのでしょうか?
一般的にナラティブとは、「物語。朗読による物語文学」のことを指します。

しかし、本田さんの定義するナラティブとは、「物語的な共創構造」を指します。
これは物語的な構造に、企業の従業員、取引先、消費者までもが、「当事者」として巻き込まれていく企業活動のことです。

では、ナラティブカンパニーとは、どんな企業を指すのでしょうか?

それは、「ナラティブ(物語的な構造)を生み出し、その構造の中でマーケティングや広告・PR活動を行うことで業績や企業価値の向上を果たしている企業のこと」を指します。
決して企業が主体となった物語ではなく、一人ひとりの生活者(消費者)の目線での物語であることが重要です。(本田さん自身は「物語の主体変更」という言葉を使って解説しています)

また、ビジネスに関わる分野では「ナラティブ」というキーワードそのものではなくとも、「物語」の魅力や「物語」への共感が注目されます。

例えば製品やサービスのスペックそのものだけでなく、それらを制作・開発する過程自体を共感・応援の対象とするプロセスエコノミーなど、関連・類似したキーワードも増えてきています

味の素冷凍食品が仕掛けた「冷凍餃子#手間抜き論争」

本書ではナラティブカンパニーの好例として、味の素冷凍食品が仕掛けた「冷凍餃子#手間抜き論争」が紹介されています。

事の発端は、夕食を作るのが辛く冷凍餃子を食卓に出したところ、夫に「手抜きだ」といわれた主婦のツイートが投稿されたこと。
これに、味の素冷凍食品の公式Twitterが反応。
冷凍餃子を使うことは手抜きではなく手“間”抜きである」という同社の一連のツイートは約13.5万回リツイートされ、最終的に44万のいいね!がつくなど大きな反響を呼びました。

そして餃子のお面を付けた味の素冷凍食品のTwitter“中の人”が登壇。
味の素冷凍食品が抱えていた課題や、公式Twitter、「#手間抜き論争」後のキャンペーンについて説明した動画再生数は90万回にのぼり、昨年のPRアワードでシルバーを受賞しました。

「#手間抜き論争」が起こる以前から、冷凍食品業界全体で、「冷凍食品は手抜き食品だ」というパーセプション(認識)をどう変えるか、という課題に取り組んでいました。

2017年に味の素冷凍食品では、冷凍食品は「最もフレッシュな瞬間と最もおいしい瞬間を閉じ込められる優れた食品」と再定義し、ロゴマークを新しくしています。

この「#手間抜き論争」は、テレビなどメディアでも報道され、予想を上回る反響を呼びます。
そしてこの論争の盛り上がりをうけ、味の素はTwitter“中の人”としての対応にとどめず「企業としての表明」という形でPR活動を行ったのです。

具体的には、「手抜きをしてはいけない」という偏見の解消と「料理は愛情こめて手間をかけるもの」という固定観念の払拭を図るべく、冷凍餃子が144もの工程によって丁寧に手間暇かけて作られていることを可視化した動画を制作。
プレスリリースを通じて企業姿勢を表明しました。

さらに、餃子にまつわる豆知識をインフォグラフィックとして制作し、SNS上で餃子に関する話題量を増やしました。

※インフォグラフィック(Infographic)
わかりづらいデータや情報を、図やイラストでわかりやすく表現すること。

また、ジェンダー論の専門家の方に「手間抜きは合理的」といったご意見をもらうなど、影響力のあるオピニオンリーダーに活動の支持を呼びかけました。

メディアへのアプローチでは、キー局を中心に270件のメディア露出を獲得。
「料理は手間をかけるべき」というステレオタイプを見直す議論を創出したのです。
その結果、冷凍餃子の使用を肯定するポジティブなツイートは約3倍に増加。

こうしたTwitterに流れるポジティブな意見は、それまで購買につながりにくかった20代、30代の層に届き、「初めて買った」という声もあがるように。
結果として、冷凍餃子市場で前年比118%と大幅に伸長し、売上にも貢献したのです。

「冷凍餃子#手間抜き論争」で見る、ストーリーとナラティブの違い

ナラティブは物語的な構造を意味しますが、これと似た言葉で「ストーリー」があります。
ストーリーも同じく「物語」ですが、両者の違いは一体、どこにあるのでしょうか?

その違いは、「演者」「時間」「舞台」です。

「演者」
演者とは物語の主人公のこと。
「ストーリー」の演者とは「企業やブランド」を指します。
生活者は、演者ではなく「聴衆」といった認識です。
一方で「ナラティブ」の演者とは、「生活者」です。
企業やブランドはあくまで「演者の一員」に過ぎません。

「時間」
ストーリーの「時間」には、必ず「始まり」と「終わり」があります。
企業ストーリーは主に過去形もしくは現在完了形です。
一方でナラティブの「時間」とは、「終わり」がありません。
常に現在進行形であり、これから起こる「未来」も含みます。

「舞台」
ストーリーの「舞台」とは、その企業が属する業界や競合環境のことを指します。
会社起点、企業からの一方通行な物語です。
ストーリーは企業の思いを体現します。
一方、ナラティブの「舞台」は、「社会全体」で、社会起点の社会で共有される物語のことです。社会の集合的な考えや価値を体現します。

今回のキャンペーンがナラティブだったのは、“中の人”・企業の想いだけの一方通行ではなく、主婦や料理を作る人のモヤモヤを言語化することで、そうした人々の共感を呼んでSNSを中心に大きな「物語」が展開された点にあります。

さらに、ナラティブを理解する上で、1つヒントになったのが『余白を残す』こと。
アンサー動画の最後には「最後の仕上げは、あなたのフライパンで」というメッセージが流れます。
動画の中で冷凍餃子の製造にかかる144の工程は見せるけど、食卓にのぼる最後の工程を、「完成品を食べてください」ではなく「生活者に委ねる」終わり方にしたのです。

こうした、すべてを言い切らず、余白を残す構成によって、動画は90万回再生され「この部分に感動した」「家で、味の素と一緒に餃子を作っている感じがした」という声も多数寄せられました。

なぜ今、ナラティブが重要なのか?

では、なぜこれからの時代、このナラティブが重要になってくるのでしょうか?
それは以下の時代の3つの変化にまとめられます。

変化① “共体験”価値の高まり
「共体験」とは、集団やグループ内で同じ体験価値を共有すること。
共体験は「価値を共有すること」が前提。
「あの人の言っていることは共感できる」といった一過性のものではなく、深くて持続的な結びつきにつながる体験を指します。
味の素は、冷凍食品でも手抜きではない、という「共体験」を生み出し、企業価値を高めました。

変化② “社会的距離”の見極め
社会的距離とは、ファンとのコミュニケーション距離のこと。
近年は、マスメディアではなく、SNSによって顧客とのダイレクトなやり取りができるようになりました。
それによって、生活者と企業との関係性が密接になり、この距離を測ることが重要となるのです。
SNSは、「リアルの価値」も高めてくれることから、リアルとデジタルの両方を見極めることが、社会的距離を見極める上で必須となっています。

変化③ “自分らしさ”が問われる
企業の自分らしさは「オーセンティシティ」と呼ばれます。
「オーセンティシティ」とは、「信頼のおけること、確実性、信憑性、真正性」という意味で、企業は自分たちが信じていることと、行動が一致しているかを見定めます。
企業の広告やスローガンが「環境保護」を謳っているのに、リサイクルを考えない企業はオーセンティシティとは呼びません。
したがって、「信念と行動の一貫性」を持ち、オーセンティシティを示すことで価値を高めることができるのです。

企業は存続することが目的です。
存続することが目的だと、どうしても「利益追従型」になり、「それ以外」は見えなくなってしまいます。
しかし、イノベーションが必要とされる現代は、「それ以外」つまり、取引先や生活者を包括した目線で活動しなければ、生き残ることはできないでしょう。

まとめ

本書はあくまでナラティブについて考える書籍なので、ストーリーについては多くは触れられません。

しかし「ストーリーは重要ではない」ということではありません

生活者目線での発言や思考の余地・余白をつくっていくことが重要であることは間違いないですが、企業を主体としたストーリーにもその強みや活用すべき場面はあります。
企業の創業ストーリーや製品開発ストーリーは、企業が主役として語られるからこそパワーを持つ場面もあり、その重要さが減ったということではありません。

大切なのは二つの物語の違いを理解して、使い分けを行っていくということです。

今後、この本を読んだ企業においては、「それはただの「ストーリー」じゃなくて、生活者にとっての「ナラティブ」になってるのか?」と問われることが増えるのではないかなと言う気がしますし、そう問い続けることが違いを生むポイントになるのではないかなと言う気がします。

マーケティングやPR業界の方はもちろん、経営者や経営者を目指している方々には必読と言える本だと思います!

読んでいただき、ありがとうございます! 下のシェアボタンから感想をシェアして頂くとすごく嬉しいです!^^ 嬉しい感想はRTさせていただきます!