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【MMPI研究6.1】MMPI-2の内容尺度、補助尺度、PSY-5尺度~➀内容尺度

 「MMPIでMMPI-2を使う」ことを目指して学んでいます。「MMPI2(by1)」計画と呼んでます。その学びの一端をシェアしたいと思います。本ノートはMMPIヘビーユーザー向けです。

  MMPI-2トレーニングスライドの「内容尺度、補助尺度、PSY-5」です。       
 このセクションはMMPIでいうところの「追加尺度」。これが整理されて、「内容尺度」「補助尺度」「PSY-5」になったわけです。今回は内容尺度。

内容尺度の歴史
・表面的妥当な項目内容という課題
 ―歪み
 ―主観的解釈が異なる
・ウィ ギンス(1966)内容尺度
 ―個人の自己表現には意味がある
 ―13 のMMPIの内容尺度が開発された
 ―MMPI-2で使うには、時代遅れで不適切で不完全。
MMPI-2内容尺度の開発
 1. 内容領域の論理的な特定
 2. 項目―尺度間の統計的検証
 3. 最終的な論理的レビュー
 4. 最終的な 統計的な改良
 5. 尺度のための論理的記述
内容尺度の適用
1. 臨床尺度解釈の明確化
 ―臨床尺度で選ばれたどんな内容領域に焦点を当てるべきか?
2. 臨床尺度で直接カバーされていない情報を提供する
 ―例えば、恐怖、自尊心の低さ、怒り、就労障害、治療への関心
3、内容尺度はT値64以上で解釈される。
不安 Anxiety (ANX) 23項目
・緊張を含む全般的な不安症状、身体的問題、睡眠の困難、心配、集中困難を報告する
・彼らは気がふれることを恐れ、人生を重圧とし、意思決定が難しい。
・外来患者はうつ病や気分変調症と診断される
・不安と強迫傾向を報告する
・治療者は、不安で、抑うつ的で、悲観的で、自死念慮を経験し、心配症で、人生を重圧と感じている、と記述する。 あたかも失敗者であるように感じている。
恐怖 Fears (FRS) 23項目
・多くの特定の恐怖を報告する。血、高所、お金、ヘビ・ネズミ・クモなどの動物、家を離れる、家事、嵐、自然災害、水、暗闇、閉所(※1)、排泄物
・外来患者の報告
 ―恐怖症的恐怖
 ―男性は統合失調症の診断を受け、幻覚や強迫観念がある。
 ―女性が業績や職業志向性が欠けており、競争心がなく、ストレスに対処できる 可能性が低い
強迫 Obssesiveness (OBS) 16項目
・決定を下すのが非常に困難であり、課題や問題について過度に反芻する可能性が高い。
・変化に苦悩させられ、数えることや重要でないものを保存することなどの強迫的な行動を報告することがある。 自分自身の考えに圧倒されてしまう過度な心配症である。
・外来患者は 抑うつ的とみられ、強迫傾向や不安および いくつかの精神病症状がある可能性がたかい
・女性は性的虐待の経歴を持ち、友達がほとんどいないか全くいない可能性が高い
・治療者は、男性を抑うつ的、不安な神経質、絶望感を感じている、睡眠の乱れの訴えがある、と記述する。
抑うつDepression (DEP) 33項目
・抑うつ的思考と認知を報告する。憂鬱に感じ、 将来を不確かに感じ、自分の人生に無関心である、と報告する。
・彼らは他人に支えられていないと感じている。 彼らは不幸で、くよくよと考え、涙もろく、絶望的で空虚に感じる。自殺の考えや死にたいという願望を報告するかもしれない。
・外来患者はうつ病もしくは気分変調症の診断をされる可能性が高く、自殺企図の経歴があり、 友人がほとんどいないかまたは全くいない。
・入院歴がある可能性が高く、現在抑うつ症状を呈し、初回面接時に悲嘆、抑うつ、不幸と記述される。
・絶望感を感じ、悲しみ、睡眠の乱れを報告し、自死念慮や、悲観的、低いエネルギーもみられる。人生を重圧と感じている。
健康関心 Health Concerns(HEA) 36項目
・自分の健康を心配し、次のような身体的症状を報告する:
・胃腸の症状:便秘、吐き気、嘔吐
・心血管症状:心臓や胸の痛み。
・神経症状:痙攣、めまいと失神、麻痺
・感覚的な問題:視力、聞こえの不良
・皮膚の問題
・呼吸器系の問題
・痛み:頭の痛みと首の痛み
・外来患者は、複合的な身体的訴えを表す健康上の問題に気を取られ、ストレスに反応して身体症状を表し、心気症的で身体化傾向である、と記述される。
・抑うつ的、不安、悲観的、低いエネルギーと疲労、興奮、怒りや苛立ち、芝居じみている、と記述される。
奇異思索 Bizarre Mention(BIZ) 24項目
・視聴覚または嗅覚の幻覚を含む精神病的思考プロセスを報告する。 妄想的な思考を報告し、特別な力や能力を持っていると感じるかもしれない。
・外来患者は、精神病症状や妄想、不安を表す可能性が高い。
・男性は抑うつと身体的虐待の経歴、同様にコカイン乱用の経歴を報告する。 男性は連合弛緩をもち、怒りの気分がある、と記述される。
・女性は性的虐待の経歴、自殺企図、入院、幻覚、精神病症状を持ち、ストレス耐性が低い。
怒り Anger (ANG)  16項目
・怒りのコントロールの問題を示唆している。
・興奮しやすく、我慢できず短気で、イライラし、頑固と報告される。また自己コントロールを失い、他者やものに暴力的である。
・外来患者は身体に虐待を受けた可能性が高く、物質乱用の割合が高い。
・治療者には敵意があると評価され、癇癪を起す。
・男性は、暴力的、家庭内暴力
・女性は、不機嫌な、 性的虐待や自殺企図の経歴がある、と記述される。
皮肉 Cynicism (CYN) 23項目
・人間嫌いの信念を示し、他人に対して否定的な態度を持ち続ける。
・彼らは、他者の行為の背後に隠された否定的な動機を期待する。多くの人々が誠実なのは、捕まることを恐れているからだと信じている。 ほとんどの人が他人を利用し利己的な理由のためだけに友好的であると信じているので、他者は信頼すべきではない。
・外来患者は、妄想的思考と敵意がある。
・悲しみ落ち込んでいると記述され、睡眠の乱れを訴える。
・女性は、好感が持てて信頼できるとみなされる可能性が低く、洞察力が低く、心理的に未熟で、動機付けるのが難しい。
反社会的行動 Antisocial Practices (ASP) 22項目
・若者における行動と、反社会的行動の問題を報告する
 ―法律上のトラブル、窃盗、万引き
 ―法律をうまく逃れるとは容認されると信じている
・外来患者は逮捕の経歴を持ち、敵意があると記述される。
・男性は家庭内暴力と暴力と反社会的人格障害と薬物乱用の経歴がある
・女性は軽犯罪の有罪判決、コカイン 乱用の経歴があり、社会病質、権威ともめる、表面的、退屈しやすいと記述される。
タイプ A行動 Type A Behaivor (TPA) 19項目
・やる気に満ち溢れ、動きが早く、仕事指向。
・我慢できず短気でイライラすることが多い。
・対人間で指図し、威圧的な関係になる可能性がある
・時間を意識し、急ぐ。
・外来患者は、対人間に敵意を表す可能性が高い。
・治療者から見ると、男性は興奮しやすくストレスに反応して身体症状を発症する。
低自己評価 Low Self-Esteem(LSE) 24項目
・自分自身への低い評価、自分が好かれている、または重視されていると感じていない。魅力がなく、不器用、 役に立たず、 お荷物と感じている。
・自信を欠き、褒められるのを受け入れることが難しいと感じる
・外来患者は抑うつと対人間の過敏性の症状を呈する。
・落ち込み、不安で、悲しんでいると見られる。不安定で、受動的で従順で、自己卑下し、自己不信で、悲観的で、内向的であると記述される。
・女性は受動な関係性になる傾向がある。
社会的不快 Social Discomfort (SOD) 24項目
・他人に不安を感じ、一人でいることを好む。
・社会的状況で孤立する傾向があり、自分のことを、恥ずかしがりやで社会的・集団の場面を避ける、とみる傾向がある。
・外来患者は治療者から 内向的で、恥ずかしがり屋で、社会的に厄介なもの、として記述される。
・男性は不安定で、 異性といると不快で、悲観的で、不安で、疑り深く、怒ってイライラし、感情を統制している。
家族問題 Family Problems (FAM) 25項目
・高いレベルの家族の不和を報告し、自分の家族を、愛情に欠け楽しくないと記述する。
・結婚は不幸で愛情に欠けている、と記述する。
・外来患者は、家族の問題を抱えていて、愛情が欠けており、不和が特徴で、家族のメンバーにいらだち、自分の困難は家族のせいだと非難する、と説明される。
就労障害 Work Interference (WRK) 33項目
・態度が悪く、 仕事の作業に支障をきたしそうな行動を表す。
―自信が低く、集中力に乏しく、強迫的で、緊張し、優柔不断であり、仕事に対しての家族のサポートがなく、職業選択に疑問を持ち、同僚に否定的な態度を示す。
・患者は、悲しみ、落ち込み、怒りがある、と記述される
・ 少ないもの
―達成志向性、エネルギッシュさ、 外向性、自立心、 ストレス耐性
・批判に敏感
治療抵抗 Negative Treatment Indicators (TRT) 26 項目
・医師やメンタルヘルスの治療に対して否定的な態度を持っている。
 ―誰も自分を理解できないと感じており、 問題について話すのが不快で、変化したくない、または変化は不可能であると感じている。 苦難に直面してあきらめている。
・外来患者は、初診時に 悲しみ、落ち込んでいると見られている。男性は怒っていると見られている。
・圧倒されて、失敗しているように感じている
・男性は怒っていて、イライラし、強迫的である。
・女性は達成志向や強い野心や多くの興味関心があること、が少ない可能性がある。

内容構成要素尺度
・開発
―因子分析的/論理的方略
―均質な項目の下位グループ
 ―例:
・BIZ1 – 精神病症状
・BIZ2 – 統合失調症型性格(シゾイドタイプ)
・ガイドライン
―上位の内容尺度が ≧60の場合にのみ解釈する
―構成尺度間で、T値が10の差
―より高い尺度との相関関係が強調される
15 の内容尺度のうち 12で内容構成尺度が作られる
・恐怖下位尺度
 ・全般的恐怖(FRS1)12項目
 ・多面的恐怖 (FRS2) 10項目
・抑うつ下位尺度
 ・意欲欠如 (DEP1) 12項目
 ・精神的不快・気分変調(DEP2) 6項目
 ・自己軽蔑 (DEP3) 7項目
 ・自殺念慮(DEP4) 5項目

健康関心下位尺度
 ・胃腸症状(HEA1)5項目
 ・神経症状(HEA2)12項目
 ・一般的健康懸念(HEA3)6項目
・奇異思索下位尺度
 ・精神病的症状(BIZ1)11項目
 ・分裂病的兆候(BIZ2)9項目
・怒り下位尺度
 ・爆発的行動(ANG1) 7項目
 ・いらだち(ANG2) 7項目
・皮肉下位尺度
 ・厭世的信念 (CYN1) 15項目
 ・対人疑念(CYN2) 8項目
・反社会的行動下位尺度
 ・反社会的態度 (ASP1)16項目
 ・反社会的行動(ASP2)5項目
・タイプA行動下位尺度
 ・短気 (TPA1) 6項目
 ・競争的欲動 (TPA2) 9項目
・低自己評価下位尺度
 ・自己不信(LSE1) 11項目
 ・服従性(LSE2) 6項目
・社会的不快下位尺度
 ・内向性 (SOD1) 12項目
 ・シャイネス(SOD2) 7項目
・家族問題下位尺度
 ・家族不和(FAM1)12項目
 ・家族内疎外(FAM2)5項目
・治療抵抗下位尺度
 ・動機不足(TRT1) 11項目
 ・自己開示能力不足(TRT2) 5項目

https://www.upress.umn.edu/test-division/mtdda/webdocs/mmpi-2-training-slides/interpretation-of-mmpi-2-content-supplementary-and-psy-5-scales
P1~14


 MMPIユーザーからするとおなじみのWiggins Content Scaleの新バージョンと考えていいと思います。あたらしい尺度(就労障害とかタイプAとか治療抵抗とか)も加わっています。
 内容構成尺度は内容尺度の下位尺度ととらえていいと思います。内容構成尺度の解釈文descriptorはみあたらないです。でもまあ内容尺度。そのタイトルはまさに内容を示す、のでしょう。内容構成尺度のそれぞれの尺度名と内容的に変わらない尺度が並ぶものと思われます。

 一連の内容尺度がMMPI-3に引き継がれているのか、はわかりません。MMPIー2以降は、MMPI時代の追加尺度の乱立が統一されて、公式の追加尺度が並ぶようになっています(次のノート参照)。あたらしい追加尺度の乱世は平定されて、お上が治める秩序だった世界になったのがMMPIー2。江戸時代のごとしです。MMPI-3の公式追加尺度群は、ざっくりみるかぎり見覚えのない奴らばっかりにみえます。MMPIー3に内容尺度はないのかしら?

 そもそもが、内容尺度は上記のように、表面的妥当性と合致した、被験者の「主観的」な評定によるもの。より意識的陳述に近い、反応を示します。どうしてそれが意味を持つかというと、臨床尺度が不均質な尺度で、隠ぺい尺度のように一見してその尺度内容と関連しないような尺度も含まれるような「雑多な」尺度だったこと、でしょう。
 
 ちなみに、ぼくはいまでも、wiggins content scaleと対応する臨床尺度の差には少し注目します。意識の背後で「怒り」がうごめくか、意識しない「よくうつ」があるのか、といった視点は意外と良い切り口で、つかえるものとおもってました。

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