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ラ クレリエールの料理集 vol.10

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
2020年10月にスタートした連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」では、柴田の料理人人生を振り返りつつ、なぜ今ミシュラン三つ星に挑戦するのかを綴りました。そして今度は「クレリエールの料理」を切り口に料理人として、シェフあるいは経営者として、考えていることや思っていることをお伝えしたいと思っています。

今までの連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

「料理集」のバックナンバーです。
 → 「ラ クレリエールの料理集1(第一皿~第五皿)」

第6皿(résumé) パロンブのロースト

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この料理のポイント

*ローストは、必ず頭も含めて一羽丸々で
*捌いた時に出た骨や皮も一緒にロースト
*お料理は基本的に変えないが、工夫は常に

成り立ち

パロンブは、フランスのピレネー地方に生息しているモリバトです。非常に希少なため、ジビエ好きな方でも召し上がる機会は滅多にないかと思います。僕が以前聞いたお話では、日本に入ってくるのは100羽くらいで、その内の60羽ほどが東京のレストランに割り当てられるということでした。全てのフレンチレストランがジビエをお出ししている訳ではありませんが、東京のフレンチレストランの数を考えたら、巡り合えることがどれほど貴重か、お分かりになるのではないでしょうか。僕も、レストランモナリザ時代には出会う機会がなく、フランス修業時代のル・グラン・ヴェフールで初めて知った食材でした。そして、その素晴らしさに衝撃を受け、今も僕の中のトップ・オブ・ジビエに君臨しています。日本で料理している人が非常に少なかったこともあって、「自分の店でパロンブのお料理を出す」ことも独立後の目標の一つになりました。そうして本当に幸運なことに出会いやご縁に恵まれ、レストラン ラ クレリエールをオープンした年からそれを実現することができ、今に至っています。

メイン食材「パロンブ」

なぜそんなに希少なのかと言うと、生息地が限られている上に、鳥の数自体も少なく、さらには獲る人間も少ないからだそうです。パロンブは10月から11月にかけてヨーロッパ北部から南下してくるところを“カスミ網猟”という伝統的な方法で捕えます。“カスミ網猟”は、木の間に垂直に張った網で鳥を傷つけないように捕獲する世界唯一の狩猟法。行えるハンターも猟場も限られているのです。
ピジョン・ラミエと品種は同じで、見た目も殆ど変わりません。ただ、野や街に生息し、木の実のほか虫なども食べる雑食のピジョン・ラミエに対し、パロンブが生息しているのはピレネーの山の中。果物や木の実だけを食べて成長します。ピジョン・ラミエより筋肉質ですが鉄分の臭みがなく、クリアな味わいが楽しめます。しかし、火入れには要注意。加熱し過ぎると固くなってしまうため、細心の注意でしっとりした火入れを目指します。

一羽丸々で焼いて4皿構成

必ず一羽丸々でローストします。脳みそも召し上がっていただけるよう頭もつけたままです。捌いた時に出た骨や皮も、一緒に焼きます。焼きあがったらダイニングに運んでお客様に一度お見せし、それから厨房に戻して切り分けます。

お料理は4皿構成にしています。スタートは「コンソメ」です。鴨のコンソメをベースに、そこに焼いたパロンブの骨の香りを移し、パロンブのササミを入れて柚子の風味で仕上げています。次は「胸肉のロースト」ですが、お一人で一羽を召し上がる場合は二皿目を赤ワインかジュのソースで召し上がっていただき、三皿目をジビエ料理の王道のサルミソースで仕上げてお出しします。お二人で一羽を召し上がる場合は二皿目と三皿目を一皿にまとめ、赤ワイン、ジュ、サルミいずれのソースかをお客様にお選びいただいています。セロリラブのピュレを付け合わせにします。最後は「グリエ」です。モモ肉や手羽先、手羽元、そして頭をサラダと盛り付け、サーヴします。

実は、昨年まで最後にお出ししていた「コンソメ」を、今年は最初に移しました。その方が、コンソメが一番美味しい状態で味わっていただけると思ったからです。パロンブのお料理については、僕の中である程度出来上がっているので、料理法や仕立ては基本的に変えませんが、お客様により美味しく召し上がっていただくための工夫は常にしています。

「パロンブならクレリエール」に!

入荷の期間も数もごく僅かなため、パロンブのお料理をお出しできるのは例年11月最終週~12月1週目のみ。今年のご提供も、既に終わってしまいました。毎年必ずご用意できるとは限らない食材なのに今回のテーマに選んだのは、僕にとっての「一番のジビエ」をぜひ皆さんにご紹介したいと思ったからです。
来年も、希少なパロンブを託していただけるように、そしてそれを「最高の料理」にしてお客様にお届けできるように全力で努めていきます。そうしていずれは「パロンブを食べるならクレリエール」と言っていただけるようになりたいと思っています。
このnoteを読んで、来年のクレリエールのパロンブ料理が楽しみだと感じていただけたら、とても嬉しいです。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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