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ラ クレリエールの料理集 vol.8

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
2020年10月にスタートした連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」では、柴田の料理人人生を振り返りつつ、なぜ今ミシュラン三つ星に挑戦するのかを綴りました。そして今度は「クレリエールの料理」を切り口に料理人として、シェフあるいは経営者として、考えていることや思っていることをお伝えしたいと思っています。

今までの連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

「料理集」のバックナンバーです。
 → vol.1 第一皿(résumé) キスとジャガイモのクレープ トリュフとバニラのソース
 → vol.2 第一皿(recette) キスとジャガイモのクレープ トリュフとバニラのソース
 → vol.3 第二皿(résumé) 桃のガスパチョ
 → vol.4 第二皿(recette) 桃のガスパチョ
 → vol.5 第三皿(résumé) 鹿モモ肉のロースト ソースポワブラード パリパリアーモンド
 → vol.6 第三皿(recette) 鹿モモ肉のロースト ソースポワブラード パリパリアーモンド
 → vol.7 第四皿(résumé) 雷鳥のロースト

第5皿(résumé) 青首鴨のロースト

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この料理のポイント

*燕三条の青首鴨
*エレガントなサルミソース
*4皿仕立て

成り立ち

このお料理は、「燕三条の青首鴨」との出会いなくしては生まれませんでした。青首鴨自体はジビエを代表するメジャーな素材ですし、レストランモナリザやフランスのル・グラン・ヴェフールでもたくさん料理してきました。その時に素材に対して特に不満を感じたことはあった訳ではありません。ただ、燕三条の青首鴨は、他とは全く違いました。そして、このお肉は一つの調理法で食べ尽くせないと感じたのです。使い始めて1か月後には、4皿仕立ての今の形にたどり着いていました。その後、他の形を試したり構成を変えたりしたけれど最終的に今の形に戻った、僕の中では「完成している」お料理です。

メイン食材「燕三条の青首鴨」

僕が感じる燕三条の青首鴨の最大の特長は、「お肉のクリアな味わい」と「内臓」です。実は、この青首鴨に出会った後も、北は北海道から南は鹿児島まで手に入る青首鴨は全て試しました。というのも、燕三条の青首鴨はとても高価で、他の青首鴨の2~2.5倍するのです。いくらジビエ料理とはいえ、レストラン ラ クレリエールの価格帯とのバランスが取れません。事実、オープン1年目だった当時、コース代金12,000円に対し、メインを青首鴨にした場合の追加料金も12,000円。一皿でコース全体と同じ価格にしないと成り立たない。そこで他の産地も探してみたのですが、結論は「燕三条のこの鴨しかない」でした。そしてお客様も、その価格でも喜んで召し上がってくださった。以来、ブレることなく、ずっと同じ一人の猟師さんから仕入れています。
毎年11月15日が本州の猟の解禁日。青首鴨は10月半ばくらいから飛んできます。新潟には田んぼにお米を撒いて鴨を呼び寄せ無双網で獲るという伝統的な猟法があって、クレリエールの猟師さんは毎日一俵ものお米を撒くそうです。10~11月は、鴨にとって12月からの越冬に向け力を蓄える時期。田んぼに撒かれたお米を食べて長い旅の疲れを癒し、体力を回復していきます。そうして解禁日を迎えるのです。

先ず素晴らしいのは、鴨が飛んで来たての疲れた状態ではないこと。鴨たちは解禁日まで数週間を田んぼで過ごし、しっかり食べて血肉を充実させ、体にパワーが宿っています。さらに、餌の心配がないので余計なストレスもかかっていません。だから味わいがしっかりしていて濁りがないのです。
僕にとってさらに重要なのが、仕入れた時にはお米しか食べていない状態であることです。鴨は、水辺では魚を食べる可能性があります。食べた鴨の内臓には魚の匂いがつく。青首鴨のローストには内臓を使ったサルミソースをよく合わせますが、そこに僅かでも魚臭さがあるとせっかくの味わいや香りが損なわれると僕は考えています。普通に狩った鴨は、仮にその場が水辺でなくても、それまでどこで何を食べていたかは分かりません。全国の鴨を試した時、肉質は申し分ないが、いざソースを作ろうと内臓を開けたら魚臭いという鴨が10羽中1羽はいました。
野生の生き物を使うジビエ料理において、獲った土地や獲られた時の状態、そしてどのようにレストランまで届けられるかまで全て見えていることは大きなアドバンテージです。そのためクレリエールでは、フランスのソローニュ地方の青首鴨を使うこともありますが、日本国内は今のところ燕三条だけに決めています。

サルミソース

一言でサルミソースと言っても、合わせるお肉によって様々です。この青首鴨には、フワッとした口当たりのフレッシュでエレガントなサルミソースを合わせています。レストランモナリザやル・グラン・ヴェフールで習ったのは、重厚で濃度のあるクラシカルなサルミでした。しかしこの青首鴨には合わないと考え、新たに一から作ることにしました。作り置きせず、お肉の焼き上がりにタイミングを合わせて内臓をつぶすところから始めます。火入れが特にデリケートなソースなので、仕上げは必ず僕がします。技術的にはスーシェフなど他のスタッフでも出来るのですが、お肉の火入れから何もかも集約した頂点で仕上げなくてはならないため、万一の時にやり直しがききません。その責任を負えるのはオーナーシェフである僕だけなので、僕が仕上げることにしています。

4皿仕立て

一皿目は、むね肉のローストを日本の味わいでお楽しみいただきます。ちょうど新蕎麦が出てくる時期ということもあって、テーマは「鴨南蛮」。むね肉の半分をローストし、出た油でネギを焼き、鴨の出汁を加えて蕎麦の実を入れて仕上げます。
二皿目は、むね肉のもう一方の半分をスライスしてローストし、サルミソースを添えます。一皿目と同じ「むね肉のロースト」ですが、ガラリと趣向を変え、フランスの伝統的な味わいで青首鴨の魅力を堪能いただきます。
三皿目は、手羽元、モモ、ソリレス、内臓を藁焼きにしたグリエです。四皿の中で鴨肉の味わいを一番強く感じていただける一皿で、赤ワインのソースやソースポワブラード、ジュのソースなどから、その時にお客様が召し上がっているお飲み物に合わせたソースを選んで添えます。
最後を飾る四皿目は、スープです。骨を焼き上げて鴨のコンソメの中に入れてアンフュゼし、ササミと柚子を入れてお出しします。

次回は、この4皿仕立てのレシピと具体的な工夫などをお話します。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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