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眠れない日の明け方のチュンチュン


 眠れない。寝付けない。
 そんな夜もあるけれど大抵の場合は、寝る前の3時間前に珈琲を飲んでいた、とか単純明快な理由が多く、0時からゴロゴロして遅くとも1時くらいには浅い眠りにつける。
 それが、どうだろう。一切眠りにつくことがなく、明け方4時にひとり静かに目を覚ましている私がいる。
 この日、(株)ハヒフヘ舗の全スタッフで近所に新しくオープンした一棟貸しの宿へ泊まっていた。元倉を改装した客室には、プライベートサウナに風呂(もちろん水風呂も完備)、冷蔵庫には無料のクラフトビール、アメニティは家のヘアブラシよりも立派なものが置かれている、まさに豪華宿である。
 夕飯は徒歩数分のところにあるフレンチ・レストラン。日頃、5分で完食する日々が遠のく、2時間のフルコース。
 腹もいっぱい、お酒も飲んだ、風呂とサウナにも入って、熟睡以外の選択肢はない状況、で眠れない。断っておくと、宿は一切悪くない。悪いのは庶民すぎる己なのだ。
 まず、ベッドがふかふかだ。全体重をがっしり受け止めてくれる弾力感。真新しいシーツの香り。その時点で私にとっては異常事態である。猫のおしっこが黄色くこびりついて取れなくなった小汚いペラペラ毛布を使っているので、万が一にもこの新品シーツを汚すことがあってはならないと緊張感が漂う。そして、へたれていない新品の枕。頭を乗せるのが申し訳なくなり、横にずらして眠ることを試みる。だが、体のどこかが強張って眠れない。
 眠れない時の必勝法として、「サハラ砂漠をイメージする」というのがある。これは6年ほど前に行ったモロッコのサハラ砂漠を回想するという技である。見渡す限りの砂、遠近感を失う世界。砂山の頂きから眺めた、心綺楼と区別がつかない、ひたすら続く砂山の大地・・・。これにラクダに乗った時の揺れのイメージをプラスすると、あら不思議。だんだんと眠くなる。いつもなら。
 体感で3時間くらい経ってるな、と思って時計を見るとピッタリ午前3時だった。このあたりで、もしや本当に一睡もできず、朝を迎えてしまうのではないか、という恐怖が訪れる。
 さらに恐ろしいことに、大群のチュンチュンが聞こえてきた。鳥の声なら眠りのBGMになると思ったら大間違いだ。1羽は「チュン・・・チュン・・・」くらいのスパンで鳴いてたとしても、聞いてるこちらとしては「チュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュン」とけたたましい。鳥だって目覚める時間なのだ。うっすら目を開けると空が明るくなっている。前職の徹夜明けの日を思い出すが、今は4時間ただ横になってるだけなのだ。辛い。こんなに寝れないのが分かっていれば、諦めて本でも読めばよかった。 
 そうやっていると、ついに眠りが訪れて2時間ほど睡眠することに成功した。
 その日の晩は、ペラペラの毛布にくるまって朝まで熟睡できた。


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