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【C101レポ】文章家がコミックマーケット101に参加してきた。

・当レポートの概要

 2022年12月30日と31日に開催されたコミックマーケット101に参加してきた。10:30~16:00に東京ビッグサイトで行われた同人誌即売イベントだが、公式いわく1日あたり参加サークルは約10000。総参加者数は初日なんと90000人を記録したという。
 滋賀の片田舎出身かつ、しばらく大きな祭りに縁のなかった筆者が、このイベントの感動と、そこで起こった考えを報告する。

・前提の説明

筆者の自己紹介

  はじめに筆者の紹介を行う。どのような前提をもって参加したのかを明確にしておかなければ、普遍的な感想文と同義になってしまうからだ。
 詳細は、ツイッターのアカウント@Higa_RENZANのプロフィールを読めば早い。ようは色々なことに手を出していて、多趣味の中で唯一文章に才能がある、というどこにでもいる大学生である。その大学も中退寸前だが、さして重要なことではない。
 プロフィールに普通でないところがあるとすれば、ADHDの傾向が強く、四六時中何かを考えたり物をなくしたりしている。帰りの夜行バスでも、ワイヤレスイヤホンのケースを失くした。その翌々日にもカラオケで財布を忘れたから、早いところ病院に行って診断書を貰ったほうがいいのでは、などと思っている。

お手伝いしたサークルの紹介

 この度はDr.SKYというサークルに、私の同人小説短編集『そこに月が見えたから』を委託頒布させてもらい、新刊内にも『猫の一生』という短編を寄稿させてもらった。サークルの説明には、ツイッターのアカウント@Dr_SK2Yのプロフィールを引用する。

“京大博士課程出身の科学者が集まって評論や医療・科学の分析機器や器具、反応などを擬人化しているサークル。”

@Dr_SK2Yプロフィールより

 私はこのサークルのDr.Yas氏と縁があり、売り子のお手伝いなどをするついでに委託もさせてもらえることになった。
 では、前提の紹介を終えて、感想に移っていく。

・感想

売り子視点 - 日本一カオスな羊の群れ

 私が委託した小説は、本来間借りしたブースのコンセプトに関係がないもの。コミケのためにデザインされた表紙でもないし、なんせ小説だから、一冊も売れないのが妥当である。しかし、大学の友人が制作したポップが呼び物となって、一冊買っていった人がいた。四十、五十代くらいの男性だったが、小さな声で「これを一冊」と言われた時の感動は、大晦日における感動のうち最大のものだったと言っても過言ではなかった。その時の小銭は、私の手汗でわずかに湿っていた。
 参加者には当然、様々な人がいる。超がつく高学歴もいれば、デザイナー、大学の教授まで、それこそ私の小説を勢いで買うようなお茶目まで勢揃いだ。
 多くの人が集まる祭りはそこかしこにあるけれど、あれほど多様で大規模に、アイデア満載のコスプレイヤーや参加者が揃うことはまずないと思う。コミケはそういうカオスに没入することができる場所として、間違いなく日本一なのだろう。日本一をこんなに安価で体験できるとは、本当に恵まれた環境に生きている。
 
 人はカオスの中にあってなお羊の群れのように設計された動線で生きることを免れない。が、個性的な個体を9万体集めて独特の動線で歩かせると、その轍は文化の模様を描き出す。

参加者視点 - 寒空のロボット兵へ「はいチーズ。」

@kikyoya3uraaka(Twitter)

 まず反省として、ほぼ予習せず参加したことが災いした。混雑具合と特殊なマップ表記と広大なホールによって大きく時間を削がれてしまった。東ホール、西ホール、企業ブースエリアなどがあるが、場所によっては大きく離れており、東ホールと企業ブースを往復などすれば20分くらいかかる。「とりあえず行ってみるか」などと気安く回ればそれだけで時間が無くなってしまうのだ。次に行く際には、必ずどこをどの順番で巡るか、目当てのコスプレイヤーがいればその人はどんなスケジュールで活動するのか、あらかじめ動線をデザインしていくことが大切だ。
 
 ネガティブな反省はさておく。実際、ポジティブな面のほうがはるかに多かった。
 その代表格はやはりコスプレイヤーだろう。これは単に美女レイヤーを指すのではない。ネタや人外など、面白かったりかわいらしかったりするキャラクターのコスプレも多い。自分が特に感動したのは、『天空の城ラピュタ』のロボット兵のコスプレだ。巨大かつ人間の声を発さないその徹底したなりきりには、神聖なものすら感じられた。実際、それを対面で撮影するカメラマンは皆恭しく頭を下げていた。親愛というより畏敬を抱いて楽しんでいたように思えた。同じくらい感動したのは、『チェンソーマン』のマキマのコスプレ。このコスプレをしている方は多かったが、完成度の高いものは本当に見ていて吸い込まれるようだった。原作がリアル志向であり、キャラデザインにも無理がない分、コスプレとの相性が良いのだと思われた。

・考えたこと

売り子視点 – コミケをハック

 2022はイベントを3つ(大阪心斎橋OPA・大学・Twitter)開催した。どれも仲間と一から作り上げたり自分で開催したものだったから、こうして参加する側になるのも面白いと感じた。
 自分がブースを出すとすれば、ジャンルごとの市場調査と、祭りの勢いを伴う衝動的な購買欲への理解を深める必要がある。それに、消費者がそのジャンルのオタクであるということに、小回りの利く同人との相性があることを知っておかなければならない。
 あくまで祭りであるから、一儲けしようという欲を見せた活動は反感を買う。プロに寄せすぎた完成度の作品や値段は、逆に消費者を遠ざける。実際、私はドイツの城郭について徹底的に掘り下げた同人誌に惹かれたが、2000円という価格と完成度の高さから、「これは高いし、かつ読む時間を取れないな」と思い、名刺だけ貰って諦めてしまった。私が買ったのは、デザイナーの方がデザインしたNFTの説明書(¥1000)と、とても綺麗な青い空のイラストの栞(¥100)だった。次はもっと思い切ってお金を使いたい。
 名刺といえば、自分がサークルを持っていれば似たジャンルの方に挨拶に回ったり、名刺を交換したりして仲良くなれるという点は、コミケの良い点だと思った。正直、制作費や準備にかかる時間を考えると、お金稼ぎをすることはできない。そういう場所でもない。だが、対面で客とコミュニケーションをとれたり、そこで自身のファンになってもらえるという点は、他のイベントには無いとても大きな利点だと思う。
 消費者の動線も独特だった。内側にニッチなジャンルのブースが詰まっていて、人はメジャーな外側を回った後に内側に流れ込んでくる。
 意外なことに、客はちゃんとブースの前に立ち止まったり、立ち読みしたりしてくれる。だから、表紙やポスターのデザインは目を引くものでありつつ、内容も推測できるものでなくてはならない。それをキッカケに立ち読みしてもらい、内容の挿絵やイラストに興味を持ってもらえればより印象に残るのだと思う。

総括 – 仲間がこんなにいる!世界はこわくない!

 Twitterにしか友達がいない、5ちゃんねるにしか友達がいない、という人がいる。けどそいつらの殆どはコミケに来る。希望が無くなったらコミケに来てみよう。ポケモンもロボットも、一人で来ているおじさんもカップルで来てる人も、エロ本を売ってる人もウシの写真を売ってる人も、女優も芸人も、大体の人種が揃っている。だからこそ、孤独を感じたら一度ここに来ることをお勧めしたい。高い天井と広い会場を、何かしらの共通認識をもった9万人が絶えず往来している。その光景は、絶対に希望的な印象を与えてくれる。

 日本一大きな文化祭。端的に表すと、それがコミケだと思う。

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