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書く側と書かれる側と

砂時計、と言う漫画をご存知でしょうか。
島根にやってきた少女が救われて、別れてまた出会う名作だ。
私はドラマの「砂時計」はずいぶん昔に見ていたのだけれど
その原作を亡くなった漫画家の芦原妃名子さんが描いていたと最近のニュース報道で知った。

あらためて漫画「砂時計」を読んだ。最後の方は涙しかなかった。
まだきっとかき続けたいものがあったと思う。でもそれも何も全てを置いて
旅立たれる。自分と年齢も変わらない。

私の体験したことは、小さなことだけれども。
取材された側に立ち、出来上がった記事が、自分の思っていないものへと変化して放たれた体験は、渋いものと戒めとして今も内省している。

3年ぐらい前、SNSの自分の名前を出しているアカウントとは別に、
別のアカウントを作った。
表向きには言えないような
黒い体験をしたので
同じような道を辿る女性がいないようにと
開設したものだった。

1年ぐらい続けてフォロワーさんも
数千人に増えていた。
(その時私はライターはまだしていなかった)

ある日、女性ライターの方からDMが届いた。
「あなたのSNSを見ました。つきましては
大手メディアにあなたの体験談を
載せたいので取材させてくれないか」

すぐに、
私は同じ思いをすることのない女性を
増やしたいので、多くの方にメッセージが届くのならぜひ
と答えた。

私でも知っている、
少しお堅いメディアへの掲載で、
1万文字相当の記事だという。

「そのために色々お話お聞かせください!
また連絡します」

との、意外とあっさりとした連絡に
ちょっとだけ、大丈夫かな?と思った。
私の思い、分かってくれる、よね?

でも、少しでも多くの人に届くのならばと
承諾した。

最初の連絡があって2週間ぐらい経った頃だろうか
「すみません!別の方からもOKの連絡いただいて
そのかたを先に取材していて遅くなりました」
ときた。

ああ、何人も同じような人を取材してるのかと思ったけど
とうとうあなたの順番が来たからとのこと。

どんなふうにお話をしようか、
私は体験してきたことを
大体まとめて書いていた。

まず、取材は全てオンライン、テキスト上だった。
Q・あなたの年齢と職業、出来事が起こった時の年齢、家族構成、あなたの家族の年齢、職業、出来事に至るまでの略歴を教えてください(できるだけ詳しく)
Q・あなたに起こった出来事の年月日、その後を、年月をつけてお教えください・・・・

嘆いた。こんなQが10個ほど並んでいた。できれば○日までにと期限まである。割と急ぎ目。苦心して伝わるように書いた。詳しく、家族のことも私の生い立ちのことも全て、全て・・。書いているうちに苦しくなった。どうやったって思い出す。

被害を受けた後に警察に事情聴取を受けているみたい。どうにか書いてメールで送ると

立て続けに質問がくる。
Q・ここにはこう書いてありましたが、これはどう言うことでしょうか。もっと詳しく教えてください。

それはそうでしょうよね。わからないところは深掘りする。そう。

自分にいい聞かせて、閉じてた糸を切って、傷を開いてもう一度見るのよ。
赤い傷が見えて、ここちゃんと癒えてなかったわって、懐かしくも見たり痛く見たりする。

ただ、そうして苦しみ悶えて答えていたメールに対して

女性ライターさんはきっと、そういうふうな態度をとると決めているのか
全く感情を示さない。淡々と、質問を投げる、世間から見て適切な深掘りをする。

大変でしたね、そうですか、しんどかったですね、私の身近にも、、
その言葉は一切ない。

それでもって、Qが厳しい、これが。できれば明日までにお返事くださいと。
ひい。
Q・ここの気持ちはどんな感じでしたか。ここでこう傷ついて、どんなふうに思いましたか。

寄り添いもなく歩み寄りもない、人生上であまり共感しないようにしてるのかな?
とこちらが、ライターさんに「共感」しそうなくらいに、距離があった。

そんなこんなで苦難な数日間の取材が終了。
仕事が終わった深夜にせっせとメールを返していた日も終わりを迎えた。

「ではこれから執筆しますね、原稿ができたら見てください、それから掲載になります」

わかりました。それ以外言えないほど、私の口は重たくなっていた。(続)






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