見出し画像

Ep11 リチャードと時刻表

リチャードに指摘されるまで気がつかなかったことの方が、むしろ驚きである。タイの電車(BTSと呼ばれる高架モノレール)には「時刻表がない」ということに。そんなことだから、タイには国としての真の成長がいつまでたっても訪れないんだ!と御大、いつになく手厳しい。

僕も通勤に使っているその「時刻表のないBTS」だが、遅くても10分に1本のペースで、実はそこそこコンスタントに発着してくれる。なので、時刻表はないのだが、視界の先に小さく見える程度の距離にある隣の駅を見やると、次の電車が小さく見えて、じきに来そうか来なさそうかは、目視をすればこと足りてしまうのだ。

あと何分で到着しますといったアナウンスも、前の駅まで電車が来てますといった表示も、電車が遅れたことへの謝罪の言葉も当然のようにないのだが、じっと待ってりゃそのうちいつかは来てくれる。しかも、不自由なく通勤できているのだから、少なくてもここタイでは、時刻表は大した意味を成さないのかもしれない。

そして、いざ電車が到着したとしても、人を押しのけてまで無理に乗車しようとはしない公共心の強いタイ人。日本人的感覚なら、えー、そんだけスペースがあれば乗れるでしょ?と思えても、タイ人はスッと身を引き、乗車をあきらめて次の電車を待つので、どのみち何本かは電車を見送ることになる。だから、なおさら、何時何分ぐらいの電車に乗ろうと計画するだけムダなのだ・・・

それでもリチャードの文句は続く。日本人は本当に細やかで正確で、素晴らしく計画的、だから一流の国になれたんだ!その点タイと来たらどうだ!?電車を走らせるだけ走らせて、時刻表がないなんてどういう間抜けだ!!タイを落とし、日本を持ち上げ、僕の肩を抱かんとばかりに誇らしげにまくしたてるリチャードに「時刻表、僕はなくてもわりと平気だったりするけど」なんて、とてもじゃないけど言えるはずがない。

画:久保雅子 www.masakokubo.com/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?