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Ep9 リチャードとご遺骨

骨が出たらしい。しかも大物の。リチャードは、自分と同じ名前の、彼よりも幾分有名な人物「リチャード三世」の骨について語り始めた。リチャード三世とは、15世紀の人物で、知る人ぞ知るシェークスピアの戯曲などにも登場するイギリスの王様のことである。戦乱の時代、彼は戦場に赴いたまま、散々な致命傷を負わされ絶命してしまったそうで、その亡骸を巡ってこれまで様々な論争が成されてきたらしい。川に流されたとか、敵が亡骸を持ち帰ったとか、あーでもないこーでもないと。

とにかくそのご遺体は何世紀にもわたって行方不明だったのだが・・・この21世紀に入り、厳密には2012年、とある考古学ファンの「ふつうの主婦」が、文献などを様々に研究した結果、レスターという街に「そこに遺骨がある!絶対ある!」と言い始め、その街のなんてことはない「ごくふつうの駐車場」に赴くと、「ここを掘ってほしいの!絶対骨があるんだから!」と街の人にそこを掘り返すよう熱心に頼みこんだ。

「はぁ?だったら、5万ポンド持ってきな!そうすりゃあ掘ってやっからよぉー。」と、市役所の役員から嘲笑を浴びた彼女だったが、なんの信念がそうさせたのか、彼女はその5万ポンドの資金を短期間で募ってみせ、街の人も彼女のその本気ぶりをいよいよバカにできなくなって、発掘作業が始まった・・・すると、なんと。出たのである!遺骨が出たのだ!

その後、炭素の年代測定で、その骨は戦争当時の1485年のものと判明。王様は「せむし」だったらしく、背骨の形状とその身体的特徴も一致。また、リチャード三世の子孫のDNA鑑定も符号して、「本物のリチャード三世の遺骨」のお墨付きが得られて、つい先日、国家レベルの大々的な埋葬、いや、「再埋葬」が行われたそうだ。

「ごくふつうの主婦」が世紀の発見をする。そんな信じられないことが、世の中には実際にあるんだよ。ケン、キミのワイフが今日出かけたら、なにかとんでもない掘り出し物を持って帰ってくるかもよ!リチャードはうまいこと言えたと思ったのか、僕にそのオチを2回繰り返し告げた。この発掘話、一瞬イギリス流の都市伝説みたいなものでは?と疑ってかかり、会社の帰りに念のため調べてみたところ、紛れもない事実のようだった。

我々が知らない歴史の断片は、地中の奥深くにまだまだたくさん埋まっているはずである。現世を生きる身として、骨身を惜しまず頑張らねば、である。

画:久保雅子 www.masakokubo.com/

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