見出し画像

銀行員が新規事業!?⑤(敗者復活編)


「はい。以上で合格チームの発表を終了いたします」

前回、2次審査で合格できなかったアラフォー銀行員。運命には抗えないのでしょうか。では、本編をお楽しみください。

続きものですので、良かったら第1回からご覧ください。



敗者復活

合格した2チームは喜んでいるが、我々も含めて落選した8チームは事実を受け止め切れていない様子だ。続いて、マイクを持った司会が驚きの内容を会場に響かせる。

「審査の結果、2チームが合格となりましたが、他のチームでも素晴らしいアイデアがありました。そこで、これから発表するチームついては、期間を延長して、再審査を行いたいと思います」

え? え? 思考が追い付かない。
どういうことだ。再審査・・・?

「再審査の内容については後日詳細を発表いたします。それでは、再審査の対象となったチームは、ひげじいさんのチームと若手チームの2チームです!!」

え・・・? これは喜んでよいのか?
一応、再審査で引っかかったけど、何もわからない。嬉しさよりも戸惑いが出てしまう。自分の相方も、若手チームも同じようだ。

その後、役員の有難いお話や、外部審査員のフィードバックがあったが、全く頭に入ってこなかった。どうなるんだ、どうなるんだ、どうなるんだ。頭はそれでいっぱいだった。


そして、ビジコンが閉幕した。
すぐに、運営に駆け寄り、話をする。
要点をまとめると、

・再審査は役員がその場で決めた内容なので本当に何も決まっていない。詳細は運営側でこれから作成して後で各チームに連絡する。
・新規事業の予算として合格が2チームでは少ないため、このまま落とすには惜しいチームに再チャレンジしてもらう。
・また、当行がする意義のない事業は基本的に落選となっている。今回の審査の詳細なフィードバックはチームごとに後日行う。

これ以上を聞こうとしても、「会場の片づけもあるし、本当に何も決まっていないから」と情報は引き出せなかった。


気づけば陽も沈んでいる。遠くの任地から来た人は、すぐに帰らないといけない時間だ。明日も普通に仕事がある。相方とともに帰路につき、電車の中で、相方も自分も正直な気持ちを吐露する。

「マジで再審査ってどうなってるんだ。お客さんにはすごく刺さる内容なのに」
「分かる。と言うか、こんな再審査とかいう訳の分からない状態になるんだったら、落とされた方がましじゃないか?」
「ホンマにな。明日の仕事が手につくか分からんわ。蛇の生殺し状態」

お互い文句しか出なかった。合格と落選チームとの差もよく分からない。
相方とは途中で別れて、それぞれの家路につく。

なんか色々ありすぎて寝れなさそうだなと思ったが、風呂に入って布団に入ったら、やはり疲れていたのか、すぐに眠りに落ちた・・・


再審査の詳細

もやもやした気持ちを抱えながら、翌日から普通に仕事をこなした。いや、はっきり言って再審査の内容が気になって、仕事に集中できない。

そうして、もやもやストレスを抱えながら2週間後。ビジコン運営とWEB会議となった。会議の内容は、再審査の詳細と、2次審査のフィードバックについてだ。

再審査の内容は以下の通り。
・審査員は役員5名。必ず合格か落選か白黒つける。再審査はなし。
・3ヶ月後に役員室でプレゼンを行ってもらう。持ち時間30分。
・外部のメンターとは契約終了。資料は業務時間内に作成すること。
・前回までの発表内容は概要をA4ペーパー1枚で運営から説明する。

外部審査員が居ないことが2次審査との大きな違いかな。
続いて、2次審査のフィードバック。こちらは再審査に向けて重要だ。

①内容は素晴らしい。
②実現可能性について確度を上げると良くなる(融資審査担当役員。”分からないものは分からない”を許さない性格)
③人力でやるのは非効率的。もっと初めから自動化やデジタル化の推進を検討してほしい(デジタル担当役員。スモールスタートが基本という研修を覆すポジショントーク)
④業界の〇〇社がすでに同じようなやっているから、この事業アイデアのままだとうまくいかないと感じる(思い込み持論が好きな役員。ならなんでお客様はやって欲しいって言ってんだよ。プロダクトもターゲットも全然ちげーよ)
⑤業界の解像度が非常に高い。すぐに取り掛かっても問題ない(外部審査員)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・処す? 処すの?
これだからうちの役員は・・・。まともなのは頭取と外部審査員だけか。

いや、冷静になろう。ちゃんと伝えられなかった自分の責任だ。あとは、合格チームが何で合格してるか、ほかのチームとの違いをビジコン運営に質問してみる。

「概念実証実験に協力してくれる企業が決まっていて、すぐにでも事業立ち上げに取り組めるから」ということだった。確かに我々のチームにはない要素だ。

実証実験はビジコンの次のフェーズだ。新規事業の立ち上げにはある程度の手順と乗り越える壁・時期がある。

①ターゲットとプロダクトや提供方法、仮のビジネスモデルを決める(←ビジコン、FS)
②プロダクトの提供が現実世界で成り立つかの実証実験(ビジネスモデル検証。通常クローズドで数先の協力)
③プロダクトを正式にローンチ。
④1先当たりの顧客獲得コスト<1先当たり売上、と成ることで商売として成立して規模を大きくできるようになる(シード期)
⑤プロモーションや従業員増加で急速に規模が拡大する(アーリー期)
⑥組織化が進み、企業としての安定度が増してくる(レイター期)

文字にするのは簡単だが、それぞれのフェーズを乗り込える前に消えていく企業の方が圧倒的に多い。


メタ分析

実証実験の協力先の確保は、実証実験が始まってからでよいと勝手に思っていたが、確かに協力先が居る方が説得力はある。協力するというアクションは顧客のニーズがあるという確かな証拠になるからだ。

審査員の特徴を踏まえたプレゼンができなかったのも落ち度だ。ビジコン自体に対するメタ分析が不十分だったな。

社内審査を経る新規事業立ち上げで、まず越えなければならない壁は、お客様ではなく、”社内”なのだから。融資審査を通す感覚と似ている。いくらニーズがあっても決裁者の意に添わなければ否決される。お客様目線のプレゼン資料など役に立たないということだ。


そして、落選となった要因として大きいのが時間が足りなかったことだ。

実はピボット(プロダクトやテーマの変更)を半年で2回もしていた。詳細に調べたり、メンターに相談すると変えざるを得なかった。もはや1次審査のアイデアは影も形もなく、時間だけが過ぎていたようなものだ。

また、仕事のできる部下が一人辞めた影響で仕事のしわ寄せがこちらに来ていた。異動の補充は最近なされたばかりだ。そこに加えて、企業倒産が1件発生していた。

いかに、本部のお偉いさんが、「ビジコンを最優先」と言えども、この状況で仕事を疎かにするわけにはいかなかった。

時間が足らないせいで、審査員の調査・分析にまで頭が回らなかったし、プレゼン資料のビジュアルや伝えたいことの明確化が十分とは言えなかったと思う。家に帰るのも遅くなり、業務時間外でやっても良いと言っても、時間が圧迫され続けていたのだ。


ともあれ、これでやることは固まった。

1.3ヶ月で実証実験の協力先を確保する
2.3ヶ月でプレゼン資料を役員好みに作り替える

時間に余裕があるわけではないが、3ヶ月あれば2つともできるだろう。相方にも協力してもらえば間違いない。


動機

そして、毎日遅くまで作業をして迎えた3ヶ月後。再審査の日。

・実証実験の協力先は4先確保した。
・実現可能性はそれっぽいことを論理的整合性をもって断定的な表現に変えた。
・デジタル化は、人力→デジタル化へのロードマップを作成した。
・いちゃもん事例は、そこの仕事を受けている企業からのヒアリングをエビデンスとして否定できる材料を用意した。質疑応答で聞かれるだろうから回答する。

準備は万端だ。
そして、再審査に参加するのは、我々1チームのみとなったようだ。途中で聞こえてきた噂では、再審査の対象となった若手チームは空中分解して、再審査はしない、ということになったようだ。

それだけ、仕事との両立にはかなりストレスがかかる。そして4人チームだったから、意思統一やコミュニケーションコストがかかりすぎたようだ。


ここからはもはや、ビジコンではない。ただの会議みたいなものだ。

すんなりとはじまり、前回までのおさらいを運営が説明する。そして我々のプレゼン。練習通りに9分ぴったりで納めた。質疑応答も想定した質問しか来ない。補足資料のQ&Aを投影しながら説明する。

少し質問が多くなり、質疑応答が長くなったが、手ごたえは十分。役員が審査会議をするために別室に移動していく。少し不安もあるが、本当にやれることは全てやった。あとは天に運を任せるのみだ。

そして、役員たちが別室から戻ってくると、頭取が話し始める。
「まずは、お疲れさまでした。よくできている新規事業だと思います。最後に一つだけ質問させてもらって良いですか?」

ここまで来て、何を聞くのだろう・・・。少し不安になるが首を縦に振る。

「それでは・・・、あなたたちは本当にこの新規事業に取り組むつもりがありますか? 本部に移動となり、生活環境も仕事も大きく変わることになります。それでも、心変わりはありませんか?」

はぁー? と一瞬思ったが、就職活動の最終面談に似てるなと思ったら、余裕が出てきた。ここは真面目にやるよりユーモラスに返した方が良いだろう。

少し演技ぶって、大げさに身振り手振りを加えながら”演説”する
「この3ヶ月は、通常の業務に加えて、実証実験の協力先の確保とプレゼン資料の作成を行ってきました。褒められたり、出世するわけでもないです。毎日20時以降、12時間以上も一人だけ職場に残って仕事していたのは、どうしてだと思いますか」

少し間をおいてから、頭取を真っすぐに見る。
「お客様のためです。協力先も複数いらっしゃいますし、何よりお客様は本当に困っているんですよ。だから、頼みますからやらせてくださいよ!」

本心がうまく伝わっただろうか。頭取にこんな生意気な口を叩く奴はいないだろうな、と自嘲する。

それを聞いた頭取は両手を挙げて降伏するかのようにジェスチャーをしながら口を開く。
「分かりました。分かりました。愚問だったようですね。それでは、再審査の結果をお伝えします。もちろん、合格です。おめでとうございます!」


そして、スタートラインへ

こうして、本部に異動となり、新規事業の立ち上げをはじめるようになった。アラフォー銀行員の本当のチャレンジの始まりである。

本部での新規事業立ち上げは、支店の仕事と違う大変さがあり、苦しめられることになるのだが、それはまた別のお話。

もがいて、もがいた先で、何かつかめるかもしれません。みなさんも"チャレンジ"してみてはどうですか? この物語が新たなスタートの一歩を踏み出すみなさんの後押しになれば幸いです。

(完)



いやー、長文をお読みいただきありがとうございました。
応援メッセージがなければ途中で投げ出そうかと何回思ったことか。ツイートやいいねなどで応援してくださった皆様、そして最後までお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。

最初は、物語風にするか、教訓風にするか迷ったのですが、まざっちゃいました(笑) 伏線引いたり、場面転換はドラマっぽさを意識してみました。もっと上手に書けるよなぁ、題名めちゃくちゃ、って読み返して恥ずかしくなります。

noteは書きたいものがあったら続けようかと思いますが、少しお休みして、ちょっと書き溜めてからにしようかと思います。週刊連載の漫画家さんはすげーなと思います。
ではでは、またどこかで。

第1回 チャレンジ編
第2回 社内転職編
第3回 ビジコン前編
第4回 ビジコン後編
第5回 敗者復活編(本ページ)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?