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銀行員が新規事業!?④〜ビジコン後編〜

ビジコン1次審査に合格してほっとしたのも束の間、部下からの相談があり、話を聞くことに・・・

続きものですので、よかったら第1回からご覧ください。
0.なぜ、社内ベンチャーを立ち上げようと思ったか?
  ~このままじゃ終われない~
 




決意のまなざし

部下からの話は、予想はしていたが会社を辞めたいという話だった。奥さんの父親が地方の中小企業の社長で、後継ぎとして来てほしいと要請があったのだ。

奥さんの実家が商売をやってるのは聞いていた。酒の場で「逆玉だ」とからかわれては、「継ぐ気はない」と言っていたが、何か心の変化があったのだろうか。

「自分ももう35歳です。ここいらが人生の分岐点と感じて悩みました。色々大変なのはわかってますが、環境を変えてみたくなったんです」

そう言って、こちらを見てくる部下のまなざしは決意に満ち溢れていた。普通なら、「もうすぐ昇格ポストも空くぞ」などと言って慰留するのだろうが、無駄だと分かっている。自分も同じ眼をしているのだろうか。

「分かった」とだけ言い、正確な退職時期、退職する場合の想定事務、引継ぎに関して打ち合わせを行った。退職は3~4ヶ月後を想定しているようだ。

6ヶ月後に2次審査だが、ちょうど異動時期のはざまで退職後の人員補充は見込めない。そうなると、ビジコン用の時間が捻出できるのか・・・。少し大変だろうが何とかなると楽観的に考えていた、この時は。

警告

1次審査通過者向けの研修の通達が来た。
内容は・・・大きく3つ。
・新規事業のセオリー
・新規事業創出支援事業者(メンター)との顔合わせ
・2次審査のスケジュールと詳細内容

正直、副業でちょっと不動産系をかじったぐらいだ。理論的なことは理解していないし、新規事業の定石レクチャーにメンターまで着くのはありがたい。

そして、「研修なんて久々だな」と少し心を躍らせている自分がいた。


東京某所。
なんと、研修の開催場所は、いつもの研修施設ではなく、ベンチャーが集まるオフィスビルの一角だった。

ぼろぼろの研修施設と違い、キラキラで見上げるようなビル。古びた食堂やおばちゃんなんて言うのは存在せず、小粋なカフェに洗練された感じの店員。現金不可のキャッシュレス決済オンリー。

ああ・・・、こうやってベンチャー経営者は勘違いしていくのか、と悟った。創業を経験しているから分かる。完全なムダだ。

いや、確かにアイデアは出るかもしれない。情報交換やコラボもやりやすいかもしれない。でも、何かが違うと本能が警告してくる。

ココニイテハイケナイ

違う世界をのぞいた気分だった。馴染む必要はない。必要な時にだけ利用すれば良いのだ。キラキラ気分は経営者には必要ない。

研修

全国から集まった1次審査合格者たちが集まった。若手から40歳ぐらいまでだろうか、中には見知った顔もいる。我々のような同期と二人のチームも珍しくないようだ。

研修が始まる。面白い。流石に創業支援事業で創業した社長の話だけはある。


研修で得たこと

1.新規事業はお客様のペインを解決する必要があること
→便利というだけでは、人はあまり行動を変えようとしない。面倒、つらい、退屈、仕方ない、余裕がないなどのネガティブな感情を解消することが必要

2.お客様は課題を課題と認識していないことが多い
→業界では当たり前と言うところにニーズが隠れていることがある。真のニーズは表面的な情報に覆い隠されている。

3.スタートアップ企業が失敗する理由の1位は「ニーズがなかった」
→実際にローンチしたらニーズがなかった、と言うことが往往にしてある。嘘みたいな事実。それだけペインの解決、真のニーズを事前に特定するのは難しい

4.スモールスタートが重要
→1〜3の経験則から、小さく始める。イニシャルコストを抑えつつ、数を回すことが重要。当初のまま100%成功する新規事業なんて存在しない。トライアンドエラーでピボットを何回もしまくる。成功するまでやり続けるのが成功の鍵。

5.広さと深さ
→狭く深くがスタートの基本。顔が見えるほど特定の顧客に深く刺さるものであることが重要。広げるのはその後。

6.お客様と100回以上キャッチボールを繰り返す。
→ブラッシュアップを繰り返す。オーダーメイドの無形商品を売ってるからなんとなく分かる。

7.全く新しいプロダクトの価値を社内できちんと評価できる人はいない。
→したり顔でこれはダメだ、あれは良いと社内で言われるが、評価できるのは顧客以外いない。しかし、社内での決裁を得ないといけない。

8.既存企業内での新規事業の立場は弱い
→カニバリズムが発生しなくとも、新規事業は疎まれて邪魔者扱いされる。既存事業が社内リソースを優先的に持っていく。消費しないリソースを活用する発想の方が受け入れられやすい。

9.掛け算で考える
→転職と同じように自分のできること同士を掛け算で考えて、何が解決できるか考える。転職と違うのは、求められるアウトプットスキルが定型化されていないことと、組み合わせの数が膨大であること。

テクニック的な所は他にももっとあるが、知識的な面ではこのような所だろう。そして、ここに銀行特有の特徴が入るとめまいがしてくる。

それは、事業の成否を、事前に予測可能という自惚れだ。融資でチェックにチェックを重ねて、保全でカバーする。潰れる会社に融資したものは人事的懲罰を受ける。こんな石橋を叩いて渡るような発想の人々が判断するとどうなるか。

文句だけはつけてくる、リスクをどうヘッジするのか聞いてくる、失敗してもよい前提のスモールスタートなんて選択肢に入っていないだろう。結果として遅々として何も進まない。というのは想像に難くない。

個人で創業するのとはかなり勝手が異なりそうだ。研修を受けておいてよかった。副業の発想にも良い影響を与えそうだ。

援護射撃

研修の後に、メンターとの顔合わせが行われた。メンターは業界ごとに精通したプロが用意されていた。チャットツールを使って、いつでも対応可能とのこと。正直、右も左もゴールも分からないのだ。業界の常識を知っていて第三者的に相談に乗ってくれる存在というのは非常にありがたい。

そして、二次審査の詳細が説明される。大きくは3つ。

①社内審査員4名(役員)、外部審査員3名(VCやベンチャー創業者など)にて当日合否結果を出す。
→社内の比重が高い。社内受けが良いように作らないといけない。外部審査員は社内審査員のアドバイザー的な役割か?

②8分間のピッチ+質疑応答20分。
→ピッチ時間は妥当。質疑応答は長めなので、スライドは15枚程度を大きな図表や絵でグラフィカルに見せて概要だけ説明。というのが良さそうだが、言うは易し。少なくとも、銀行本部が作るような、ぎっしり文章が詰まったパワポを作るのはまずいだろう。

③発表内容の変更は直前の締め切りまでいくらでも可能。
→ピボットがいくらでも可能。しかし、方向性が変わりすぎると調査やプレゼン資料作成に余計に時間が取られるので、現実的には2~3回が限度だろう。

最後に、衝撃的な発表があった。
今回の2次審査は業務外の扱いとする。さらに、業務時間内に行っても良い。そして、ダメ押しとして、「本2次審査は最優先業務として取り計らうように」と経営企画本部長から、参加者所属の支店長へ直接電話で伝えるというのだ。
支店長の2~3階級格上からの指示だ。本気だなと思った。



運命の日

そこからは必死に取り組んだ。お客様の所を何回も足を運んだり、他社の新規事業の模擬プレゼンを見学させてもらったり、発表の練習・プレゼン資料の修正などをして、やることはやった。

そして、2次審査の日がやってきた・・・
会場は、本部の役員会議室。銀行の中でも、特定の人たちしか足を踏み入れる経験はないだろう。参加者はみんな緊張の面持ちだ。

プレゼン開始前に、発表順がくじで決まっていく。我々は4番手。正直、先頭じゃないなら何番でもよい。全員発表→審査→結果発表、という流れのようだ。そして、流れのままに発表が始まっていく。

明らかにレベルの低い発表もあれば、プロが作った資料か、と疑うレベルの発表もあった。そして、我々の順番が来たが・・・何をどうしたのか思い出せないぐらいのプレッシャーが掛かっていた。気づいたら終わっていた。一応、プレゼンも時間内、質疑応答もきちんとできた、と思う。

やりきった。もう後は待つしかできない。後続の発表を全て見終える。審査時間に入る。この時間が異様に長く感じられた。真綿でじわじわ首を絞められるような感覚も襲ってくる。早くここから解放してほしい・・・!

そう思ったとき、別室で審査していた審査員たちが会場に戻ってきた。

「お待たせしました。それでは、これから合格チームを発表いたします」
その声に、参加者全員が固唾を飲む。果たして、10チームのうち何チームが合格するのか。前口上は程々に、発表が始まる。


「一つ目の合格チームは・・・、チーム〇〇です」

プロ並みの資料でプレゼンしていたチームだ。本部の次長が率いている。プレゼン資料の作成が得意な人をチームに入れていたようだ。もちろん、中身も素晴らしい。「我々のチームは完全に負けていた」と感じるほどの出来だ。

「二つ目の合格チームは・・・、チーム△△です」

今の時流に合ったテーマを選択したチームだ。経営者が好みそうなテーマ。しかし、中身は誰でもできるような内容で、正直スカスカだった気がしたが、いったい何が合格基準なのか・・・。

そう思ったのも束の間、司会の声に意識が引き戻される。


「はい。以上で合格チームの発表を終了いたします」

えっ・・・!?


(続きます)



次回、最終回敗者復活編!!


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(毎週日曜日 朝8時をめどに更新予定)

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