今年の全社も好調だった九州勢を見ながら、九州のサッカーについてなんとなく語ってみようと思った、というお話

全国各地を渡り歩いている身ですが、中でも佐賀という街は好きな街の一つです。神戸以外で住め、と言われたなら高松と並んで即答するくらい、個人的には気に入っています。まあ、高松は水さえ豊富なら最高なんですけどね…(笑)
そんな佐賀県は今年2度目、6月以来です。その時は西九州新幹線というおまけ付けの日帰りでしたが、今回はガッツリと2日間張り付きとなります。

10/21 全国社会人サッカー選手権大会@鳥栖市北部グラウンドB KMGホールディングスFC 4-3 NUHW FC、VONDS市原 0-2 FC延岡AGATA

始発の新幹線で博多へ。ノンリーグ(トップリーグ以外のリーグのことを総称して表現します。この界隈では主に地域リーグ以下のことを表すかな?)界隈の方々にとって、地域チャンピオンリーグと共にビッグイベントの全社。こぞって佐賀に集まるのですが、それらの方々が何やらSNS上で騒がしい。どうやらこの日の朝、鹿児島本線で車両事故が発生したらしく、小倉〜博多の一部区間が不通とのこと。慌ててJR九州のアプリから情報を入手。博多からは通常通り動いてそうなので、まずは博多まで行くことに。
博多で改札を出て鳥栖までの特急券を購入。ICで入ったところ、やはり列車の遅延は発生しているらしく、本来乗るはずのリレーかもめの1本前のリレーかもめがまだホームにいる。どうやらさっき着いたらしく、車内清掃と乗務員の調達待ちとのこと。通常の列車でもかなり早く着く予定だったのでホームで待つこと15分くらい。ようやく出発準備ができたので、リレーかもめ「武雄温泉行き」に乗る。そうだよね、遅延が発生してるから武雄温泉で長崎行きの新幹線とは接続しないから「武雄温泉止まり」ですよね?(笑)まあ、何はともあれ無事に試合には間に合いそうです。

この日の会場の鳥栖スタジアム北部グラウンド。名称こそ「鳥栖スタジアム」と付いていますが、鳥栖スタジアムとはかなり距離があります。てか、私の認識ではここは「鳥栖市北部グラウンド」なんですけどね…(汗)
鳥栖駅で「リレーしない」リレーかもめを降りて、鳥栖プレミアムアウトレット行きのバスに乗ります。プレミアムアウトレットから会場は歩いて15分くらいのところにあるので、時間さえ合えばJR弥生が丘駅から歩くよりもこっちの方が楽です。途中にコンビニもあるので買い出しも可能ですし…。
第一試合開始の30分くらい前に到着。ここ、北部グラウンドはサガン鳥栖の練習場で、クラブハウスも隣接していて、さらにコンパクトな敷地に2面取れます。この日は休憩所やボランティアの待機所など、そこらじゅうに張られたテントが所狭しと並んでいました。A、Bあるうち、お目当てのグラウンドは駅からは遠いサイド、プレミアムアウトレットからは近いサイドのピッチでした。隣のピッチに行こうと思うと、一度敷地から出て外の道路を経由していかないといけないという、ちょっと不便な造りでした。敷地の中に入ると、目の前にサッカーの大会には似つかないスーツ姿の方々が多数いました。なんだろうと思ったら、今回の1番のお目当てだったKMGホールディングスFCの会社の社員さん達でした。グラウンドの入り口付近にチーム受付を設けていて、応援に来た社員やその家族、あるいは役員さんたちの対応をされていました。都市対抗や一昔前のバレーボールの会場ではよく見かけた風景です。なつかしきというか、これぞ企業チームの正しい在り方というか。貴重なものを体験できました。

入口付近に設置されたKMGホールディングスFCの受付。
年配の社員さんが一人一人、丁寧に対応をされていました。
KMGホールディングスFCの受付で「応援に来ました」
と言ったら、このチラシとペットボトルのお茶をくれました。
「応援に来た」のはまあ、間違ってないですよね?(笑)

KMGホールディングスFC。もしかしたら聞き慣れのないチーム名かと思います。実は昨年からこの名称となりましたが、それまでは九州三菱自動車サッカー部として活動していました。グループを持ち株会社化したことに伴い、チーム名を今の「KMGホールディングスFC」と変更したようです。今年は前期からKYUリーグ4位となり全社九州予選に出場、予選を勝ち抜いて2015年以来の本戦出場となりました。九州三菱自動車はサッカー以外にも社会人野球のチームがあり、こちらも都市対抗や日本選手権に何度も出場し、さらに西武ライオンズなどで活躍した左腕の帆足や近鉄バファローズ、楽天ゴールデンイーグルスで活躍した有銘といったプロ選手も輩出しているチームです。トヨタグループと共に三菱グループも元々スポーツに力を入れているのですが、一自動車ディーラーとしてここまでスポーツに力を入れている企業も珍しいかもしれませんね。現に、この日の試合にはグループの会長以下役員の方々も来られていたようで、熱の入れようは半端ないものを感じました。
対するNUHW FCは昨年のインカレで準優勝した新潟医療福祉大学のサードチーム、つまり3軍となります。新潟県リーグ1部に所属しており、今大会初出場と共にチームとしても全国大会初出場とのこと。現在行われている北信越チャレンジリーグに新潟県代表として参戦、上位2位に入れば来年から北信越リーグ2部への昇格が決まります。ただ北信越リーグは同一学校のチームが複数同じカテゴリーに所属することが出来ないため、現在セカンドチームである新潟医療福祉大学FCが1部にいるので、たとえ昇格したとして来年1部昇格条件を満たす順位となっても、1部への昇格は出来ません。尤も新潟医療福祉大学FCがJFLに昇格したら話は別ですが、現実的には考えにくいかもしれませんね…。

赤のユニフォームのKMGホールディングスFC。
三菱といえばやっぱり赤ですよね!
白のユニフォームのNUHW FC。
こちらは新潟医福のセカンドと同じ色ですね。

純然たる社会人サッカーチームと学生チームという、全社的にもかなりレアなカードとなった第一試合。序盤はKMGホールディングスがチャンスを活かして7分にPKを獲得、キャプテン丸山が冷静に決めて先制します。さらにその3分後には13番福田の技ありのミドルシュートが決まり、早々に2-0とします。全国初体験でやや動きが硬かったのか、NUHW FCは序盤から劣勢を強いられます。しかし逆にこの2点で開き直ったのか、そこから猛攻が始まります。特にサイドの13番飯塚の突破が脅威的で、KMGホールディングスは突破を抑えきれずに何度もピンチを迎えます。キーパーやDFの粘りでなんとか切り抜けていましたが、今度は逆側の右サイドから崩されて20分と30分に失点。一気に同点となります。

7分、KMGホールディングスFCの突破を止められず
エリア内でファールをしてしまいPKを献上。
キッカーはKMGホールディングスFC2番の丸山。
右隅に決めて、KMGホールディングスFCが先制。
立ち上がりの先制点で試合の主導権を握りました。
さらにその3分後、13番の福田の放ったミドルシュート。
キーパーの頭上を越えて…
ファーのゴールネットに突き刺さりました。
思い通りの軌道に全身で喜びを表現する福田。
応援する同僚のいる前で、一緒に喜びを分かち合いました。
2点取られて目が覚めたか、NUHW FCの反撃が始まります。
右サイドからの崩しからエリア内に侵入
最後は走り込んだ10番佐藤のゴール。
スピードと体力に勝る学生チームらしい展開でした。
さらに猛攻は続きます。
やはり右サイドから。
1点目の起点となった35番桐山からのクロス。
1点目同様、中で合わせたのはまたしても10番佐藤。
佐藤の得点感覚の鋭さが光ったゴールでした。
俺たちはこんなもんじゃない!
さっきまで意気消沈してたとは思えない様子でした。

勝ち越しを狙うNUHW FCでしたが終了直前の40分。KMGホールディングス21番築地のゴールで勝ち越したKMGホールディングスFCがリードして前半を終えます。

カウンターを仕掛けるKMGホールディングスFC。
右サイドを駆け上がる21番築地。
DFを交わしてフリーとなったら…
ファーに打つと見せかせてのニアへのシュート。
不意を突かれたキーパー、反応するも追いつけず。
ゴールネットを揺らしてKMGホールディングスFCが勝ち越し。
終了間際の失点に肩を落とすNUHW FCの選手たち。
観客席に向かってガッツポーズ。
いい流れで前半を終えました。

勝ち越されたとはいえ、試合の主導権はNUHW FCが握った状態で後半を迎えましたが、しぶとく粘り強い守備で守り抜くKMGホールディングスFC。しかし、61分にNUHW FCにCKから同点とされます。勢いに乗じて勝ち越しを狙うNUHW FCでしたが、攻めを急ぐあまりに攻撃が単調になったり、またブロックを崩せず攻めあぐねる場面が増えます。このままPK戦にもつれるかと思われた79分、スローインのボールを途中出場の9番矢上がシュート。それがDFに当たってオウンゴールとなり、KMGホールディングスFCが再び勝ち越し。そのまま逃げ切り、KMGホールディングスFCが4-3の打ち合いを制して勝利。NUHW FCは2度追いつくも、最後まで勝ち越すことが出来ずに初戦敗退となりました。

61分NUHW FCのCK。頭で合わせたのは4番の富田。
打点の高いヘディングでゴールネットに突き刺しました。
キャプテンがここ一番で値千金のゴールを決めました。
そのままPK戦かと思われた79分。
右サイドからのドリブル。
DFを振り切って放ったシュートは…
NUHW FCの選手に当たって角度が変わり…
そのままゴールイン。
前半同様、終了間際での得点で
KMGホールディングスFCが勝ち越します。
シュートを打った9番矢上は喜びながら…
ホールディングスの会長以下役員の座る席の前へ。
役員の前で喜びを爆発させました。
会長以下役員の方々もご満悦の様子です。
試合終了後は、お偉いさん達へ丁寧なご挨拶。
会長、役員さんたちの理解があってこそのサッカー部。
みんな深々と頭を下げていました。

続いて第二試合です。18試合で勝点46という脅威的な成績で関東リーグを制したVONDS市原と、KYUリーグは惜しくも2位となったが負けたのは3位のジェイリースFC戦の1試合のみという、こちらも実力は折り紙付きのFC延岡AGATAとの対戦。市原は地域CL直前の最終調整、一方の延岡は地域CL進出を賭けた勝負掛けの初戦。共に負けたくない試合は、序盤から激しい攻防が展開されました。
勝負掛けの延岡が前線から激しくチャージするのを上手く交わしながらリズムを掴もうとする市原。高校サッカーで名前を馳せた布監督の作り上げたチーム。さすがに守備の基本がちゃんと出来てますね。一方の延岡は主に九州の大学からいい選手をたくさん集めていることもあり、基本的に当たりが強くその度に笛が吹かれるシーンが見られました。今後試合が荒れるのではないかという嫌な予感がしてきます。
前半は市原シュート3本に対し延岡は9本。市原としてはしっかり守って、相手の隙を突く作戦に出るしかなく、延岡は出来るだけ早い時間帯に先制して、相手の守備を崩したいが、それができずに終わった。そんな前半でした。

水色のユニフォームはFC延岡AGATA。
黄緑のユニフォームのVONDS市原。
市原の攻撃の中心は9番の谷尾。
スピードとドリブルを活かしてチャンスを作りました。
FKのボールに足を合わせようとする谷尾。
しかし綺麗にヒットせず、軌道は枠の外へ。
延岡のボランチに君臨する25番倉員。
大学時代から見てますが、プレスキックの精度は相変わらず。
市原のDF陣も彼への対応に苦慮していました。
倉員とコンビを組む21番青山。
大分U-15→大分高から来たルーキーは
先輩たちと遜色ない活躍っぷりでした。
右CKから高い打点のヘッドを放つも
市原のキーパー今川が反応して難を逃れる。

後半も攻める延岡、守る市原の構図は変わらず。しかし、前半からレフリーの判定にナーバスになっていた両チーム。47分に延岡10番森山に出されたイエローカードを巡って小競り合いが発生。その時、市原の32番篠原の放った一言が暴言と捉えられ、一発レッド。押され気味だった市原が残り30分以上を一人少ない状態で戦うことになりました。

度重なるファール紛いのプレーに怒りが頂点に達した篠原。
その怒りを必死に制しようとするキャプテンの渡辺。
篠原の放った一言が暴言と見なされ、篠原は一発退場。
市原は残り時間を一人少ない状態で戦うことになります。

一人少なくなった市原は攻撃の中心でもある沼を外し、ベテランの清原を投入、局面の打開を図ります。1人少なくなった相手に対して更に猛攻を仕掛ける延岡ですが、市原の堅い守備に手を焼きます。さらに市原が見せる時より鋭いカウンターやセットプレーの脅威にさらされ、時間だけが過ぎていく嫌な展開となります。
そのままスコアレスドローのままPK戦に突入するかと思われた80+1分、CKから DFの池元のゴールで待望の先制点。苦しみながらもようやく、市原DF陣を崩すのに成功しました。
勝つためには2点必要となった市原。篠原の退場などで生まれたアディショナルタイムは7分ありますが、とにかく時間がない。捨て身の攻撃を仕掛ける市原を欺くように、80+7分に中盤の高い位置でボールを奪った深澤からのカウンターから、最後は途中出場の酒井がダメ押しの2点目。地域CLへの権利賭けのFC延岡AGATAが、関東王者VONDS市原を破って2回戦進出を決めました。

一人少ないVONDS市原はなりふり構わず
どんどんと前線にボールを放り込む。
それを一つ一つ跳ね返していくFC延岡AGATA。
ジリジリと熱い終盤戦でのそんな一コマ。
VONDS市原13番有永がDFを切り返して突破。
倒れながらシュートを放つがキーパーがキャッチ。
PK戦かと思われた80+1分、CKから池元のヘッド。
頭で擦らせたボールはキーパーのはるか先を通り、
サイドネットに突き刺さります。、
待望の先制点に喜ぶ延岡の選手と
軌道を見ながら呆然とする市原の選手。
延岡はこの1点でまずは地域CLへの道が繋がりました。、
さらにショートカウンターから今度は酒井のゴール。
VONDS市原のメンタルを完全にへし折るゴール…
この追加点が明日以降にどう繋がるのか。
FC延岡AGATAの挑戦はまだまだ続きます…

企業チームの活躍が、スポーツへの企業メセナに繋がる日は来るのだろうか…

今回は特に九州勢の2チームについて、ちょっと掘り下げてみたいと思います。

まずは1試合目のKMGホールディングスFCから。前半戦4位、最終順位も上位3チームとは大きく水を空けられてはいますが、4位で終了。2017年の3位には及ばなかったものの、それに次ぐ順位でのフィニッシュとなりました。
九州三菱自動車時代から、主に九州の大学生を中心に補強しているこのチーム。東海学生リーグにハマる前は九州大学リーグにそこそこ通っていたので、名前と学校を見るとなんとなく「あの選手かな?」と見当がつくのですが、申し訳ない。KMGホールディングスFCのメンバーを見てもピンとくる選手がほぼいなかったです…。逆に言うと、上のカテゴリーで続けるのにはちょっと厳しいかも?といった子でも、仕事をしながらサッカーを続けられる環境があるのはとても重要なことだと思います。
昔はスポーツ好きの社長や会長が会社にチームを作って、選手を従業員として雇い、仕事をしてもらいながら野球なりサッカーなりを続けられる、そんな会社が大小問わず結構ありました。しかし最近は、そういう会社は本当に少なくなっています。物言う株主だの、経営健全化を推し進めようとする取引先の銀行だの、業績悪化がどうのだの、といったさまざまな理由から企業の持つスポーツチームというものが減少しています。
しかし今、そうした運動部を持つ企業は以前のように、社員の福利厚生を全面的に押し出すようなところは少なく、地域のスポーツへの貢献や、スポーツを通じての青少年への教育などを謳うところが増えています。そうした企業メセナの観点であれば、株主への説明もしやすいでしょうし、むしろ今はそうした地域や文化面での社会貢献度の高い企業が世間的にも高い評価をされる世の中になっています。そう考えると今こそ再び、企業がスポーツチームを抱えることの重要性が見直されるのではないでしょうか。
それが証拠に、2010年に休部となっていた日産自動車の本社と九州のそれぞれの野球部が、九州は2024年から、横須賀は2025年からそれぞれ活動を再開させると発表がありました。しかも横須賀に至っては、一度潰した専用野球場を作り直しての活動再開のようです。どこまでガチなんでしょうか?(笑)

他の大中企業がこれに追随するかは不透明ですが、第二の日産、第三の日産が出てくることを期待しています。
奇しくも、この日勝ったKMGホールディングスFCの2回戦の相手は、中国リーグ優勝の福山シティFCを破った東邦チタニウムサッカー部。全社においてもほぼ見ることが稀な、企業チーム同士の対戦になりました。PK戦の末、KMGホールディングスFCの勝利。ベスト8に勝ち進みました。準々決勝では優勝したFC刈谷に0-5で負けましたが、企業チームとして誇るべき大活躍と言えるでしょう。そんな企業チームの活躍があったこの大会。これは各地で活動している企業チームへの大きな励みとなることでしょう。
また、この日の会場にはたくさんの会社の関係者と思われる方々が来られていました。中には、制服姿で観にこられていた女子社員の方も見受けられました。選手の家族や親族、社員やその家族。みんなで楽しくサッカーを見るということが出来るということも、企業がスポーツチームを持つメリットではないでしょうか。改めて福利厚生というもののあり方を見たような気がします。
企業チームの活躍、企業メセナや福利厚生の充実、そういう観点による、これらの企業の動きこそが日本にさらなるスポーツ文化を植え付け、根付かせることと思います。近い将来、そのような明るい未来が待っていることを切に願うのでした。

そしてもう一つ。実はKMGホールディングスFCのこの日のスタメンにどうしても紹介しておきたい選手がいましたので、最後にちょっとだけ触れておきます。右サイドバックで起用されていた26番の甲斐大和がその選手です。
実は彼、ついこの前にJ-GREENでたまたま見た宮崎情報ビジネス医療専門学校から今年入った新人社員なのです。なんという偶然でしょうか。他の選手はみんな大卒の中、一人だけ専門卒というハンデもなんのその、3試合ともスタメンでの起用。初戦はNUHW FCの激しいサイド攻撃にやや苦労していましたが、ベンチの期待に十分応えられたのではないでしょうか。
先日のコラムでも書きましたが、専門学校卒の選手の卒業後の進路については、年々ますます厳しくなっていくことと思います。そんな中でも彼のような、数少ない専門卒の社会人プレイヤーがしっかりとサッカーを続け、さらに仕事もしっかりこなしていくことで、専門卒の子でも十分やっていけることを証明していく。そういう積み重ねが今後、社会人レベルでの競技人口の減少を遅らせ、さらに社会人サッカー全体の競技レベルの維持や底上げにも繋がるのなはないでしょうか。それにより、学生を受け入れる側の専門学校も価値や認知度も上がり、より高いレベルの選手が来るきっかけになる。そう信じています。
彼の存在は単なる一人のサッカープレイヤーに過ぎませんが、その裏にはそうしたバックヤードが拡がっている。そう感じるのは私だけでしょうか。彼の今後の活躍に期待しています。

宮崎情報ビジネス医療専門学校から今年入った26番の甲斐。
彼の活躍が後輩たちの将来も左右、するかもしれない…
今後の彼の活躍にも注目したいです。

一気に駆け上がってきたFC延岡AGATA。果たしてこのまま順調に…、行くのでしょうか?

2試合目に登場したFC延岡AGATA。元々は延岡にある九州保健福祉大学の社会人登録だったサブチーム「九保大FC」から「延岡からJリーグ」というコンセプトの元、今のチーム体制になりました。変わったその年に宮崎県リーグ1部で優勝、そのまま九州各県リーグ決勝大会も勝ち抜けて昨年からKYUリーグに所属しています。
昨年度は今年優勝したヴェロスクロノス都農を上回る2位。全国社会人サッカー大会では3位となり、地域チャンピオンズリーグに出場するも、1次ラウンド3位となり敗退。一気にJFLまで駆け上がるという壮大なチャレンジは叶いませんでした。しかし「九州にAGATAあり」と全国に知らしめた大躍進ぶりは、見ていて凄かったですし、驚愕でした。
そして全国から追われる立場となった今年、リーグ優勝という目標を掲げてのシーズンでしたが、勝点4差でヴェロスクロノス都農に優勝を許してしまいました。そして今年も地域CL出場権を賭けての全社出場となりました。

このチームがどうしてこんなに急激に爆発的な強さを発揮するようになったのか?それには理由があります。それは、九州にいる優秀な大学生を片っ端からスカウトしてチームに呼んでいるからです。
先制ゴールを決めた2年目の池元は福岡大学。2点目のゴールを決めた酒井は福岡大学で池元の1年後輩になります。キャプテンの亀井もやはり福岡大学から。宮崎県リーグ時代にに入った3年目の選手。ボランチでチームの屋台骨となっている倉員もやはり福岡大学出身で、キーパーの田渕や池元と同じ学年です。福岡大学だけではありません。高卒ルーキーの青山と交代で入った山本は鹿屋体育大学卒の同じくルーキー。試合には出なかったものの、ベンチでスタンバイしていたDFの田中は日本文理大学。地元延岡にある九州保健福祉大学からも2人入っています。さらに今年は九州出身者を中心に、関東や他地区の大学生も何人か入ってきました。
高いレベルでプレーした能力の高い選手を大量に集めるやり方は、短期間で最大の効果を上げるにはもってこいです。しかしそれには、それなりにリスクも伴います。それは多額の初期投資が必要ということと、もう一つは「チームの賞味期限が早い」ということです。

まずは初期投資の問題。AGATAのある延岡市はご存知の方も多いかと思いますが、旭化成の一大工場がある「企業城下町」です。肝心の旭化成はまだスポンサーになっていませんが、クラブパートナーの中には旭化成の関連会社の名前が見られます。さらにユニフォームスポンサーには、物流最大手のセンコーがいます。昨年度のグループ売上約7000億の超大企業がバックについています。どこまで長期的に投資してくれるかは分かりませんが、少なくともしばらくの間は資金がショートすることはないかと思われます。
さらに元々スポーツに理解のある旭化成。延岡工場には駅伝やマラソンで有名な陸上部や柔道部が活動していますし、倉敷工場にはかつて男子バレーボール部がありました。もしそんな旭化成が今後スポンサーに付くようなことがあれば、JFLから一気にJへ加速することもありうるでしょう。延岡の、旭化成の業績が悪くならなければそれほど問題はなさそうです。

問題はもう一つの「チームの賞味期限」です。何のことかとお思いの方も多いかと思います。軽く説明しますと、チームを強化しようと一気に大量に同年代、特に大卒選手を補強すると、FC延岡のように爆発的なパワーを発揮して一気にカテゴリーを上げていくことが可能です。しかしある一定のカテゴリーまで上がってしまうと、今度はそんな短期的な爆発力だけではその上のカテゴリーに進むことがなかなかできなくなります。そんな時に発生しがちなのが、この「チームの賞味期限の早さ」問題です。
これは私のあくまでも私見ですが、一気に大量補強したチームが爆発的な実力を発揮できるのは、だいたい3年が限度だと思っています。大卒3年目の25歳くらいがおそらくアスリートとしてのピークというケースが多いでしょう。その3年からあと1、2年くらいまでが、チームとしての爆発力を維持できるかもしれませんが、それでも後半の2年はその前の3年間よりも明らかにその力は劣るでしょう。
それから先はどうやってチームの実力を維持すればいいのか。それは「爆発力」から「推進力」に切り替えることです。そうして、ある一定のレベルを保ちつつも前に進んでいくことで、チーム力を維持していく必要があります。そのためには単に大卒の若い、活きのいい選手だけを補強していてはダメで、経験値のある選手やさまざまなタイプの選手を入れる必要があります。そうした世代交代が上手くいかないと、チームのレベルは徐々に低下していきます。そのうち、チームは停滞期に入りやがて衰退期へと差し掛かっていきます。そこまで行くと、もはや以前の輝きは完全に失われてしまい、また以前のような実力を取り戻そうとしても、相当な時間と労力が必要となります。そうなる前に手を打たないと、取り返しのつかないことになってしまいます。そんなリスクを抱えた強化方針が、この大卒選手の大量獲得です。

FC延岡AGATAが特に大卒選手を大量補強したのは昨年、つまり2022年です。チームの屋台骨となっている選手の多く、倉員や田渕、ゴールを決めた池元や酒井など、みんな2年目の選手です。つまり彼らにとって、そしてチームにとっても来年が本当の意味での勝負の年となるでしょう。出来ればそんな勝負の年の前にJFLに昇格したかったところでしょうが、準々決勝で四国リーグを制したFC徳島に負け、2年連続での地域CL出場はなりませんでした。もし来年も同じことを繰り返すことがあると、再来年からはチームの強化方針を大幅に変更せざるを得なくなるでしょう。そうなる前に、チームとしては来年最低でもJFL昇格を果たさないといけない。彼らにとって2024年はさらに厳しいシーズンになったとも言えるのです。
2023年という年がFC延岡AGATAにとってどのような年になるのか。それが分かるのは来年か、再来年か、はたまたもっと先になるのか?いずれにしても、FC延岡AGATAは来年が本当の意味で真価の問われる一年になることは間違い無いでしょう。

好調の九州勢。でも、その勢いは果たして今後も続くのか…

今大会の九州勢の活躍は目覚ましいものでした。開催県枠で出場したBrew KASHIMA以外の4チームは全てベスト8入り。全てベスト8で敗退したものの、昨年と今年の2大会に渡っての大活躍は全国のノンリーグ界隈に衝撃を与えたことでしょう。
そんな大活躍に沸く九州のサッカー界ですが、KYUリーグ以下の年代のカテゴリーを見渡すと、必ずしもその活躍が長く続くとは思いづらいのです。というのも大学、ユース年代の全国大会での成績があまり芳しくないのです。

まずは大学生。FC延岡AGATAやその他のKYUリーグ各チームがこぞって獲得に動く、九州大学リーグ勢。2021年はFC延岡に行った倉員や酒井などの活躍で福岡大学がインカレベスト8という成績を残しましたが、翌年の2022年から今年夏の総理大臣杯までのトーナメント、さらに選抜チームで競うデンソーチャレンジカップの九州勢の成績は散々たるものです。
2022年のデンチャレは本大会からのシードでの出場にもかかわらず、来年のシード要件である全日本選抜、高校選抜、プレーオフ選抜を除く上位4チームにから漏れた5位となり、翌年のデンチャレはプレーオフからの出場となりました。夏の総理大臣杯は福岡大学、九州産業大学、九州共立大学の3チームが出場するもいずれも初戦敗退。インカレも福岡大学、鹿屋体育大学、九州産業大学がそれぞれ初戦敗退でした。
今年、2023年のデンチャレはシード権を失ったためにプレーオフからの出場でした。順調に勝ち進むも、決勝で東北選抜にPK負け。本大会出場を逃したと同時に、来年もプレーオフからの出場となりました。しかも来年はプレーオフに関東選抜Bも加わるはずなので、さらに厳しい戦いを強いられるのではないかと思われます。総理大臣杯は鹿屋体育大学が1勝しましたが他の2チーム、日本経済大学と日本文理大学は初戦敗退。しかも鹿屋体育大学にしても、勝ったのはお世辞にも全国レベルとは言い難い北海道代表の北海道教育大学岩見沢校。あまり手放しで喜べるものでもないです。
つまり、大学レベルの九州勢の成績はかつての強かった頃の九州とは比べ物にならないくらい良くないです。

ユース年代も見てみましょう。2022年の総体は熊本の大津のベスト8が最高位で、8チーム中4チームが初戦敗退とあまり奮いませんでした。しかし冬の選手権では、夏ベスト8の大津と鹿児島の神村学園が共にベスト4と躍進し、やはり九州の高校のレベルの高さを全国に見せつけた形となりました。しかしその他のチームは、長崎の国見、福岡の飯塚のベスト16はありましたが、やはり残りの4チームは初戦敗退ということもあり、やや物足りないところでもありました。全国リーグであるプレミアリーグですが、こちらは鳥栖U-18がウエストで優勝、川崎U-18とのプレミアリーグファイナルにも3-2で勝利。ユース年代の頂点に立ちました。さらにプレミアプレーオフでも神村学園が北信越代表の金沢U-18とプレミアウエスト10位で参戦したC大阪U-18に勝利。2023年シーズンのプレミアリーグ昇格を決めました。大学生が軒並み結果を出せなかったこの年でしたが、ユース年代はまだそれなりに成績は残せていました。
しかし今年はというと、総体は長崎の国見こそベスト4入りはしましたが、他のチームは東福岡が1勝、それ以外は全て初戦敗退。さらにプレミアリーグのウエストでは最多の4チームが所属しているにもかかわらず、残り3節の現時点での最高位は大津の6位。しかも現時点ですでに1位の広島U-18との勝点差が10あるので、優勝の芽はなくなっています。その下に東福岡。今年昇格した神村学園は前半こそ好調だったものの、夏以降は調子を崩して残留ラインギリギリの10位。そしてその下には、昨年度チャンピオンの鳥栖U-18が勝点3差付けられて降格圏内に位置しています。
さらにもっと深刻なのは、先月に報道された大津高校サッカー部内におけるいじめが発覚。その影響で大津のプレミアリーグの試合も3試合が棄権扱いとなりました。しかしこの問題は、それだけで決して済む問題ではありませんし、極めて根深い問題です。大津ならずとも九州の高校サッカー界に深刻な影響を及ぼすことは間違いありません。この問題は、今後も九州のサッカー界に暗い影を落としそうな気がします。

と、この2年の九州における学生サッカーの低調ぶりを見ると、大人のサッカー界とは対照的のように思います。Jにおいても、J3最下位と低迷する北九州はやや気掛かりですが、同じJ3の鹿児島は昇格圏内の2位と好調。またJ1の福岡はリーグ8位、さらにルヴァンカップのファイナリストと、チーム史上初の快挙を成し遂げています。総じて言ってもまあ、良い方向に向かっているように思えます。そんな良い流れに逆らうように、学生年代がこの1年半ずっと苦しんでいます。九州の子たちが卒業後みんな九州のチームに行くとは限りませんが、少なくともその傾向は強いです。そんな九州サッカー界の将来を担うことになるだろう世代の不調が、今後の九州サッカー界にマイナスに作用しなければいいなと、そんなことを全社で好調なKYUリーグ勢を目の前にして思ったのでした。

ということで、まずは全社佐賀大会の初日のお話でした。2日目のお話はまた改めて…


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