育児日記Season3 (第1回) ふたり目は贅沢ですか?
【承前】
「セフレ以上恋人未満」から、ふさことの関係は始まった。
男女の関係になって半年ぐらい経って、ふさこからコクられた。
「樋口さんの子どもが欲しいです。お金はいりません。籍も入れなくていいです。一切迷惑をかけません」
真に受けたわけではないけれど、気が付いたら僕は、ふさこが当時メインで働いていた京都に移り住み、所属する松竹芸能の要請により入籍し、お金を折半して、赤ん坊の一文の育児を全面的に担っていた。
数え切れないほどの夫婦の危機を乗り越え、東京に戻り、一文は5歳になった。
言葉が遅く、「表出性言語障害」と診断されたけど、素直ないい子なので、僕とふさこにとってたいした悩みではない。
それより大きな問題は、
「ふたり目が欲しい」
ということ。
「カーッ、何言ってんだ⁉︎ いまどき子どもをふたり以上持つなんて、金持ちしか許されないぞ」
「ひとりだって贅沢だ」
「望んだけど子どもがひとりもいないカップルも多い。欲張りすぎじゃない?」
そういう意見があるのは当然だと思う。
僕もふさこも兄弟(妹)がいる。
一文のためにも弟か妹がいるほうがいいのではないか。
そう思って子作りをした。
そもそも一文は、ふさこがピルをやめて2、3ヶ月で自然妊娠してできた子。ふさこ、39歳と10日の初産だった。
2018年3月にふたり目を妊娠した。こちらもヤリまくっていたら自然な流れで妊娠した。
5月末の10週目検診、一緒にバースセンターに赴いた。
エコー検査をすると、お腹の中の胎児の心臓は止まっていた。
繫留流産だった。
僕もふさこも愕然とした。頭の中が真っ白になり、時間が止まった気がした。
あのショックは経験した人でないとわからないと思う。いまだにあのときの診察室の空気感を記憶している。
ふさこは僕に謝ったが、もちろん彼女が悪いわけではない。
誰かがふさこの腹を叩いたわけではないし、妊娠がわかってからも、無理をして夫婦生活をしていたわけではない。
赤ん坊が自分の意志で、この世に生まれ落ちたくないと決めた。そう考えることにした。
翌年(2019年)も記子は繫留流産した。
12週が経過していたことと、妊娠初期から通院していなかったため、大きい病院では処置手術をしてもらえなかった。
やむを得ず、記子が「魔女」と呼ぶ、近所にある産婦人科医に処置をしてもらった。
ふさこの苛立ちは、夫である僕にぶつけられた。
とにかくいっぱい泣いた。
愁嘆場を演じた。
https://cakes.mu/posts/31812
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それでもふさこはあきらめない。
体外受精にチャレンジすることにした。
思わずブルった。
これまで話には聞いてきた。金はかかるわ、薬のせいで妻は太るわ、夫婦仲は悪くなるわ……いいことなんか一個もないと。
なのに、まさか自分がそれに挑むことになるなんて。
これは、すっかり家事育児が専業になったハードボイルド作家と、あたまのおかしいヤリマン弁護士が、ふたり目欲しさに悪戦苦闘する実話です。
〔前フリが長いよ!〕
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