医師の資産形成_入門編__1_

皮膚科医の抗菌薬の使いかた

臨床の現場に出て最初につまずいたのが抗菌薬でした。
大学の講義でまったく習っていないためです。

そして抗菌薬の勉強を始めると、膨大な範囲をカバーしなければならず途方に暮れてしまいました。

個人的には、抗菌薬の勉強は皮膚科の範囲から始めることがお勧めします。
皮膚感染症ではカバーすべき細菌が限られているため理解しやすく、抗菌薬の使い方のエッセンスも詰まっているからです。

このnoteでは私のブログから、抗菌薬についての記事をまとめて紹介したいと思います。


第一章:フロモックスを使ってはいけない理由

まず抗菌薬を使うにあたって、第一に知っておくべきトピックはフロモックスです。

私が皮膚科医になったばかりの頃は、フロモックスやメイアクトを多用していました。
しかし最近は一切使わなくなっています。

皮膚の感染症の原因菌は、ほぼグラム陽性球菌のレンサ球菌とブドウ球菌の2種類です。

フロモックスやメイアクトなどの経口第三世代セフェムは、主にグラム陰性球菌をターゲットにしています。
その分グラム陽性球菌への抗菌力は下がっています。

また経口第三世代セフェムは吸収率が低く、ほとんどは便に排泄されてしまうと言われています。

腸管吸収率
セフジニル(セフゾン)25%
セフジトレン(メイアクト)16%
セフポドキシム(バナン)46%

レジデントノート17(2) 287-292, 2015

そのため効果は低く、耐性菌や偽膜性腸炎やリスクがあるだけ。

皮膚感染症にはグラム陽性球菌への抗菌力が高いもの、そして腸管吸収率が高いものを使用することが望ましいと考えられます。

腸管吸収率
アモキシシリン(サワシリン)75%
セファレキシン(ケフレックス)90%
セファクロル(ケフラール)93%

レジデントノート17(2) 281-286, 2015.

そこで皮膚科医が使うべき抗菌薬は主に2種類だけになります。

・第一世代セフェム
・βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン

2つを比べると、阻害剤配合ペニシリンの方がスペクトラムが広く、嫌気性菌全般にも抗菌力を持っています。

第一世代セフェムとβラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリンには、それぞれ内服と静注があるから全部で4つになります。

図


皮膚感染症の治療では、これらを徹底的に使い尽くす必要があります。

ブログはこちら>>皮膚科医の抗菌薬の使い方①


第二章:蜂窩織炎の治療法

第二章以降は具体的な疾患の治療法についてです。

海外には皮膚感染症のガイドラインが存在します。
「Practice guidelines for the diagnosis and management of skin and soft tissue infections: 2014 update by the infectious diseases society of America.」
Clin Infect Dis. 2014 Jul 15;59(2):147-59

このガイドラインから、まず蜂窩織炎の治療法について解説したいと思います。
また糖尿病性足感染症、動物・人咬傷、重症皮膚感染症では、それぞれ別の対応が必要になります。

図3

2-1. 蜂窩織炎の抗菌薬

第一章で書いたように、蜂窩織炎には第一世代セフェムを使用します。
全身症状のない軽症例では経口、全身症状を伴う中等症では静注です。

軽症 ⇒セファレキシン
中等症⇒セファゾリン

MRSAは蜂窩織炎の原因菌になりにくく、通常はカバー不要とのことです。

2-2. 糖尿病性足感染症の抗菌薬

しかし糖尿病の足感染の場合は、もう少し広い範囲をカバーしたほうがよいようです。

軽症であれば第一世代セフェムでもよいですが、中等症以上であればグラム陽性球菌の他に腸内細菌、嫌気性菌をカバーします。

そのためβラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリンを選択します。

軽症 ⇒セファレキシンorアモキシシリン/クラブラン酸
中等症⇒アンピシリン/スルバクタム


2-3. 動物・人咬傷の抗菌薬

動物・人咬傷の場合は、第一世代セフェムが使えないことに注意が必要です。

感染の原因となる菌のひとつEikenella corrodensには、第一世代セフェムが効きません。

軽症でもβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンを使用します。

軽症 ⇒アモキシシリン/クラブラン酸
中等症⇒アンピシリン/スルバクタム


2-4. 重症皮膚感染症の抗菌薬

ただしショックを伴う重症感染症(壊死性筋膜炎など)の場合は緑膿菌やMRSAまで含めた広範囲のカバーが必要になります。

バンコマイシン+ピペラシリン/タゾバクタムorカルバペネム

ブログはこちら>>皮膚科医の抗菌薬の使い方②


第三章:皮膚MRSAの治療法

MRSAはCA-MRSAとHA-MRSAの2種類に分類されます。

・CA-MRSA(市中感染型)
・HA-MRSA(院内感染型)


皮膚感染症から分離されるMRSAは、ほとんどが市中感染型です。
CA-MRSAは抗菌薬の感受性が比較的良好です。
そのため皮膚のMRSA感染症では必ずしも抗MRSA薬を使う必要はありません。

海外でCA-MRSAに対して推奨されている抗菌薬は3種類です。

・ST合剤
・クリンダマイシン
・ドキシサイクリン/ミノサイクリン

ブログはこちら>>皮膚科医の抗菌薬の使い方③


第四章:膿痂疹の治療法

限局した病変であれば外用抗菌薬で治療可能ですが、病変が広範囲になれば内服抗菌薬が推奨されています。

Impetigo can be treated with oral or topical antimicrobials, but oral therapy is recommended for patients with numerous lesions or in outbreaks affecting several people to help decrease transmission of infection.

4-1. 外用抗菌薬

グラム陽性球菌に感受性のある抗菌薬を使用します。
よく使用されているゲンタシン軟膏は感受性が低いため、皮膚感染症には不適です。

抗菌薬感受性(MSSA)
・ゲンタマイシン 36.5%
・ムピロシン 99.5%
・フシジン酸 99.5%
・ナジフロキサシン 100% 
J Med Microbiol. 57(10): 1251, 2008

海外で推奨されているのはムピロシン(バクトロバン)です。
しかし日本では皮膚感染症への保険適応がないため、ナジフロキサシン(アクアチム)か フシジン酸(フシジンレオ)を使用します。
これらはCA-MRSAにも感受性があります。

抗菌薬感受性(MRSA)
・ムピロシン 98.7%
・フシジン酸 98.7%
・ナジフロキサシン100%
J Med Microbiol. 57(10): 1251, 2008

フシジンレオよりアクアチムの方が耐性化しにくいとのことです(MRSA感染症の治療ガイドライン 日本感染症学会)。


4-2. 内服抗菌薬

基本的には蜂窩織炎と同様に第一世代セフェム(ケフレックス)を使用します。

Because S. aureus isolates from impetigo and ecthyma are usually methicillin susceptible, cephalexin is recommended.

培養でMRSAが検出された場合は、CA-MRSAに感受性のある抗菌薬に変更します。

ただし注意が必要なのは、培養で検出された細菌が本当に感染源なのかということです。
皮膚表面には種々の細菌が常在していて、びらんや潰瘍があればほとんどの症例で細菌が培養されます。定着(critical colonization)であれば抗菌薬の投与は必要ありません。


第五章:皮下膿瘍の治療法

皮下膿瘍の治療は切開排膿で、基本的に抗菌薬は不要とされています

Incision and drainage is the recommended treatment for inflamed epidermoid cysts, carbuncles, abscesses, and large furuncles.

The addition of systemic antibiotics to incision and drainage of cutaneous abscesses does not improve cure rates.

全身症状がある場合や免疫不全患者では抗菌薬を投与します。

アメリカでは皮下膿瘍の原因菌の63%がCA-MRSAなので、基本的にMRSAを考えて抗菌薬を使用することが推奨されています。

しかし日本でも同じように全例でMRSAのカバーが必要なのかはわかりません。
青木眞先生の感染症診療マニュアルでは、膿瘍の第一選択は第一世代セフェムになっています。

ブログはこちら>>皮膚科医の抗菌薬の使い方④


まとめ

皮膚科医の抗菌薬の使い方についてまとめました。
まず皮膚感染症をマスターすれば、他の分野についても理解が深まると思います。
ブログでは「オグサワ」についてなど、もう少し詳しく解説しているので、興味のある方は御覧ください。

▼ブログリンク一覧▼

1. フロモックスを使ってはいけない理由
2. 蜂窩織炎の治療法
3. 皮膚MRSAの治療法
4. 膿痂疹・皮下膿瘍の治療法


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