グアム_海

ハローグアム #2

◎ハローグアム 


空港は閑散としている。

21時にもなると、ほとんどのお店は閉まっていた。

フライトの予定時間は23時。

旅にトラブルはつきものだというけど、いきなり出鼻をくじかれるとは。

ぼくらは、突然できた時間を持て余しながら、とりあえず空港の中を行ったり来たりして、時間をうめた。

主に時間を過ごしたのは、飛行機の離発着が見える展望デッキ。日も落ちてきて、だいぶ涼しくなっていたし、飛行機をただぼーっと眺めているのは飽きなかった。

しかし、最初こそは賑わっていた展望デッキも、時間が経つにつれ、ひとりふたりといなくなり、とうとうぼくらを含めて2、3のグループだけが暗闇のなかに取り残された。

彼らもぼくらと同じグアム便に乗る人たちだろう。

今頃、空の上にいるはずが、まだ日本の空港内にいる。

滑走路には、飛行機もほとんどいなくなった。


それから、しばらくして、展望台入り口の自動ドアが開いた。ぼくがそっちに目をやると、白髪交じりの警備員がこちらに近づいてきて、「もう閉まる時間ですから、中に入って下さい」と事務的に告げた。

警備員は、展望デッキに残っていたほかのグループにも、のそのそと近づき、同じことを告げていった。

ぼくらは、最後のオアシスを奪われたかのような重い足取りで、空港内に戻った。


まだまだ時間はある。

ぼくは、唯一開いていたコンビニでメロンパンを買った。夕食は19時ごろに済ませていたので、小腹が空いたら食べようと思ったのだ。

それにしても、時間の進みがやけに遅い。

展望デッキというオアシスを奪われたぼくらは、空港内のベンチに座り、時間が過ぎるのをひたすら待った。

(誰もいなくなった空港カウンター)


それから、なんとかかんとか時間をつぶし、ぼくらは、ようやく出国審査をパスした。パスポートには出国のスタンプが押され、国外に行くのだという実感がうれしさとともにこみあげてくる。

メロンパンは結局食べなかった。

乗るはずのなかった、グアムに行く予定のなかったメロンパン分の重さを抱え、ともかく、ぼくらは日本を旅立った。

窓の向こうの景色は、真っ暗だった。



日本からグアムまで約3時間30分。

機内では、あまり眠れなかった。

海外に初めて行くんだという小さな興奮と漠然とした不安が相まって、目が冴えてしまった。とりあえず目は閉じてみたけど、どうにも眠れない。

結局、グアムに着いたのは深夜3時過ぎだった。

ぼんやりとした頭で、入国審査の長い列に並ぶ。5人くらいの審査官が、少し怒ってるのかなという口調で

「ネクスト!」

と、列に向かって声を張っている。

最初の難関がやってきた。ぼくは、ネットで何を聞かれるか、さんざんチェックしてきた。抜かりはない。けども・・・ってやつだ。

働かない頭を懸命に𠮟咤激励して、事前に調べた「聞かれる」ことを思い出す。

まず「何しに来たのか?」
これは旅行だ。つまり、「sightseeng」
次は「何日、泊まりますか?」
これは3日。つまり「3days」
あとは「この国に来たのは初めてですか?」
これは初めて。つまり「first time」

シミュレーションは完璧。あとは聞き取れるかどうか。それと堂々としていることだ。

「ネクスト!」

ぼくの番が来た。


審査官は、小太りでメガネをかけたおじさんだった。

パスポートを渡すと、パスポートのページをめくりながら、鋭い視線で、ぼくの顔をチェックする。悪いことをしたわけではないのに、どうもソワソワする。

ついで、親指の指紋をとり、ちいさなカメラで写真を撮られた。一通り確認を終えると、審査官は質問をしてきた。かろうじて聞こえた単語をもとに、ぼくは堂々と答える。

「さいとしーん」
「すりーでいず」
「ふぁーすとたいむ」

審査官は厳格な表情でうなずき、パスポートにスタンプを勢いよく押し、ニコリともせず「エンジョイ」と言った。

最初の関門は、無事クリアだ。

ぼくは、ほっと胸をなでおろし、友達と合流した。スーツケースも無事に届いていた。

ツアー会社が手配したバスに乗り、ぼくらはホテルに向かう。

グアムの街は、暗くて、何も見えなかった。


ホテルに着くと、同じホテルに泊まる人たちが疲れた体を引きずりながら、降りていく。

ホテルの部屋はまあまあ綺麗だった。

安いツアーだったので、最低限の清潔さがあれば問題ない。部屋のカーテンを開けると、うっすら空が白んできていた。

ぼくは、コンタクトを外して、ベッドに倒れこみ、目をつぶった。

今日の疲れが数時間寝て取り除けるのかと疑問を抱きながら。


つづく



#エッセイ #日記 #旅行 #旅 #グアム

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