グアム_海

ハローグアム #6

◎ハローグアム     


チップという慣習がある。

チップとは、サービスに対して少額のお金を渡すことである。

ぼくらが、海からホテルに戻ると、掃除のおばちゃんが部屋の中にいた。彼女は、洗面台の清掃をしている最中だった。

一体、いくら渡せばいいのだろう。

ぼくが調べたところによると、相場は1ドルから2ドル。初日は、枕の上に1ドル置いていったが、足りたのだろうか。

そもそもサービス業は最低賃金が低く設定されているため、チップを生活の糧にしていることが多い(Wikipedia調べ)

ぼくらは、このあとすぐ出る予定だったので、お風呂掃除をしている彼女に声を掛け、1ドルずつ、つまり合計2ドルを洗面台に置いていった。

彼女は、ニコッと笑って、ぼくらを送り出した。

ホテルのロビーを出ると、恰幅のいいおじさんが、「ジュウ、ジュウ、シャゲキ、シャゲキ、ヤラナイ?」と片言の日本語で話しかけてきた。

グアムでは、実弾射撃を体験できる施設があるらしく、そのおじさんは手で銃の形を作りながら、ぼくらを誘っているらしい。

おじさんは、ぼくらが断ると、「ノー?ザンネン」とたいして残念そうな素振りも見せず、プラスチック製の白いイスに腰掛け、空を眺めながら、次の客が来るのを待っていた。


バスに乗り、ショッピングモールに向かう。

その途中、おおきなスーパーに寄った。特に目当てのものがあったわけではないけど、アメリカのスーパーってどんなものなのか興味があったのだ。

入口には、屈強な警備員が立っている。カートもやたらでかい。シリアルもカラフルだし、グミなどのおやつもカラフルだ。

店内を歩いていたら、初日にもらったジュースのことを思いだし、飲料コーナーに向かったが、同じものは見つからなかった。

ショッピングモールに着くと、お土産を物色。いろいろ探し回った挙句、ローストされたマカデミアナッツとマカデミアナッツがチョコレートでコーティングされた定番のお土産を買った。

そういえば、ショッピングモール内に入るとき、後ろから人が来ていたので、片手で扉を開けたまま待っていたら、その人が「サンキュー」とぼくに言ってくれた。

映画やドラマの登場人物が言っているのではない、他ならぬ自分に向けられた「サンキュー」にかなり感動した。


ふたたび、海に戻り、水平線に沈む夕日を眺める。

大きな夕日が、海にオレンジ色の帯を映している。目の前にはまた趣の違うグアムの海があった。

沖の方では、夕日に照らされながら、力強い掛け声とともにボートを漕ぐ学生たちのシルエット。砂浜では、ブルーノマーズの曲を楽しそうに歌う地元の女の子たちが歩いている。

ぼくらにとって、海に来るのはこの日が最後だった。明日の朝には飛行機に乗り、日本に帰る。

名残惜しい気持ちを抱えながら、ぼくらは海の上にあるおおきな夕日を眺めていた。

(拡大してみたらわかるけど、サーフボードに犬を乗せているおじさん)


グアムでの、最後の晩餐は、「ゴリラズ」というお店のハンバーガー。

味は抜群。

半分ぐらい食べたところで、ウェイトレスに「味はどう?」みたいなことを聞かれたので、ぼくらは親指をたてて、笑顔で応じた。

店のカウンター席では、常連さんらしき人たちが飲んでいる。

しばらくしたら、そこに、ギターを背負った男性が、フーウッと言いながら、ラテンのノリで腰を揺らしながら入ってきた。ずいぶんと陽気である。カウンターにいた常連さんたちも、「ご機嫌なやつがやっときたぜ」といった感じで、反応している。

なんだかアメリカドラマのワンシーンみたいだなと、ぼくは、ぼんやりと思った。

会計を済すと、ABCストアに寄った。ABCストアに来るのもこれが最後だ。

ぼくは、またいくつかのお土産とオバマ大統領が首からレイを掛け、にこやかにウクレレを弾いている栓抜きを買った。

オバマの頭からビンの王冠を抜く金具がくっつけられている。

実は、前日なぜかビンのお酒を買ってしまい、栓抜きがないため、おあずけになっていたのだ。

レジに持っていくと、店員の女性が、「オバマ~」とおどけながら、オバマの栓抜きを袋に入れてくれた。この人懐っこさは、もはやDNAレベルなのかもしれない。

ホテルに帰ると、部屋が暗かった。

昼間ぐらいから停電していて、夜には復旧するだろうと見込んでいたが、まだ復旧していなかった。

しかし、最初に大きなトラブルを経験したせいか、ちょっとしたことでは、動じない。

トラブルって起きるもんだよね、そんな大人の余裕をぼくは手に入れていたのだ。


ぼくらは、部屋の小さな丸テーブルに座り、軽い晩酌をした。近くのお店の明かりと月明かりが、部屋をほんのりと照らす。

ぼくらは、話してはときおり、黙り、グアムでの最後の夜を過ごしていた。

窓の外、遠くに見える月は、三日月だった。



つづく



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