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iTunes - 20年の功罪

 2019年10月、最新版MacOSのリリースに伴い、20年にわたってAppleファンに愛されてきたiTunesの幕が閉じられた。

■ プラットフォームへの華麗なる転身
 iTunesストアのリリースを皮切りに、Apple社が自社のビジネスモデルをプロダクト設計、生産、販売のpipelineモデルから、プラットフォーム型のビジネスに切り替えることができた。
 iTunesとiPodには、音楽が違法で交換できないような技術が実装されているので、海賊版に苦しんでいる音楽業界から大きな支持を得ていた。iTunesストアが初期から幅広い音楽会社とアーティストの20万曲を預けることによって、たくさんのユーザを集めることができた。
 また、iTunesストアがローンチ当初から以下のような低価格戦略を取った。
 - 30秒までのサンプルが無料で試聴可能
 - 1曲から購入可能
 - 1曲0.99ドルの低価格
その理由は、短期的に1曲の利益が低いとしても、魅力なサービスとして多くのユーザと音楽を自社プラットフォームに誘導できるなら、長期的にネットワーク効果を発揮させ、より多くのユーザに曲、MacとiPodなどを販売することで、プラットホーム全体としての利益を高めることができるからだ。
 結果、最初の2ヶ月間で8割の曲が少なくとも一回以上ダウンロードされていて販売が好調で、もともと人気なiPodとの相乗効果もあるので、見事に競合サービスと海賊版を撃退した。この成功事例はハーバードビジネススクールを始め、多くの大学授業でケーススタディとして扱われている。

■ 音楽業界への影響
 ただし、iTunesは本当に音楽業界の救世主であったか?個人的には疑問を持ってる。
 1曲から購入可能になったので、CDアルバムを一つの完全なる作品として楽しむ人が減り、好きな曲だけを買う人が増えただろう。アルバム販売数のランキングを見ると、歴代トップ30の中で2000年以後のアルバムはアデルの「21」だけだった。個人的に極めて遺憾に思うポイントの一つだった。
 また、IFPIから発表会している音楽業界全体の売上をみると、iTunesストアのリリースされた翌年の2004年からダウンロード販売のシェアが大きく伸びる一方、音楽業界全体の売上が年々落ち込んでいた。幸いに、近年サブスクリプション型音楽聴き放題サービスの成長のお陰で、業界全体の売上が再び伸びてきた。
 ちなみに、2003年頃にも音楽聴き放題サービスがあったけど、当時のモバイルネットワークは必要となるスピードと容量を提供できないため、利用が自宅のネットワークとPCに限定され、今ほど人気がなかった。ユーザのアルバムと曲に対する所有欲もこの20年でだんだん弱くなってきただろう。

■ プラットフォームと手を組むのは慎重に
 Apple社と手を組んだレーベルの売上が低下した。Amazonと10年契約を結んで在庫を提供していたトイザらスが破綻した。価値の生産者としてプラットフォームのパートナーになる際には、たくさんのパートナーの中で自分のパワーを保つのは非常に重要である。それができないと、競争原理が働きはじめて生産者側の利益が低下するし、もともと自社の顧客が他のパートナーに取られる可能性もあるので、必ず慎重に進めないといけない。

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