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悲しみこそを色鮮やかに表現する。

絵画展「めだたない生きかた」の回想のようなもの。

2022年の個展を終えることができました。

今年の展示を終えることができたのは多くの寛容な、やさしい人たちのおかげです。伝えきることのできない感謝の気持ちが自分の中に静かに積もっていく心地よさを、反芻しています。

私は時々転んだり、けがをしたりします。多くの人と同じように、けがを負わされることもあります。生きていくなかでそういったときの対処方法を数えられないくらい持つようになりました。それが「めだたない生きかた」という展示テーマになりました。

たくさんの人と話をした気がします。絵を真剣にみてくれるということだけで(というよりも、会場まで足を運んできてくれるだけで、連絡をいただけるだけで)奇跡を見ているに近い感情を覚えるのですが、会話が始まってしまったら、その喜びははかりしれないものがあります。

世界について、目の前の人について、人間という生き物について、考えることが好きな私の脳は、常にフル稼働しています。それなりに答えを出すこともあります。理解してきたことも納得してきたことも多いはずです。それでも不可解なことが起こり続けるのです。この世界は本当に途方もなくて、安全に生きることはほとんどままなりません。けれども、誰かと話していると腑に落ちることがたくさんあります。誰かと一緒に絵の前で何かを考えるときに、届くはずもなかった事柄にたどり着いてしまうことがあります。その瞬間の驚きと喜びと、世界が少しだけクリアーになる開放感のような感覚に憑りつかれています。

たどり着ける場所が途方もなく遠い場所であることほど、嬉しいことはないのではないでしょうか。これは旅が大好きな私の特性なのでしょうか。誰かの力を借りることは、より遠くにたどり着く可能性です。そのルートをたどる以外に、私がそこにたどり着く術もありません。そんな喜びのいくつかについて、今回の個展で特に強く印象に残ったことについて記録していこうと思います。

「悩んでいるように思う。」

何人かのひとがそんなことを口にされました。どなたも心配してくれているというよりは、労わってくれているようでした。この人はこの「悩み」についてよく知っている人なのだろう、と感じました。悩みは、誰かにとっては価値があったりします。悩みの一つ一つはこの世界にあふれているもので、外に全く出さない人もいて、存在すらなかったことにしてしまう時もあるでしょう。でも実はすぐそこにもあったのだ、と、なんといいいますかその存在を認めてもらったようでした。特別でありふれているからこそ、こんな風に共感してもらえるのでしょう。悩みは癒そうと思わなくてもいいのかもしれません。誰かとふれあっているうちにそれは苦しみを伴わなくなることも多いように思います。

「悲しみこそを色鮮やかに表現する。」

これには目から鱗が落ちました。ウロコすぎたのでこの記事のタイトルにしました。私の人生の中で一年と少しくらいだろうか、それはもう驚くほどに人生に悩みが皆無!みたいな最強モードの期間がありました(いいことです)。不思議なことにこの期間の私の絵は暗くて少しおどろおどろしいのです。長い間、自分が描いたあの期間の絵については本当に疑問でした。私は明るい気持ちをで暗い色で描くのです。

感情だけを描いているわけではないから、明るくて鮮やかな絵を描いているときに「悲しんでいるのだろうか」なんて心配することはないのだけれど、けれども確かに、私はマイナスな感情ほど色とりどりに描いているような気がします。それはある意味では、心のバランスをとっているのかもしれないけれど、私はこうも思うのです。きっと喜びよりも悲しみのほうが種類が多くて、様々な形をしている。喜びとは単純で明快、悲しみとは複雑で難解だと思う。それこそ色相や明度の、端から端まで走り回らないといけないくらいに。少なくとも、悲しみの本質の一つに複雑さや難解さをおいているからこそ、そんな風に考えているからこそ、私はこう描くのだと思います。そして自分がそんな風に感情というものを捉えている、ということに、私は今まで自覚が持てませんでした。これを絵の力といわずに、なんと表現したらいいのでしょうか。

これらの感動的な出来事について、(共感や発見といったものについて、)私の拙い文章で伝わるのかわかりませんが、とにもかくにも綴ってみることにしました。

心が誰かと共鳴する瞬間の喜びを知っている人とは、どこかでわかりあえるような気がします。けがをした時に私がすること、けがを負わせる悩みや悲しみの捉え方、けがを癒す共感や共鳴のような奇跡みたいな出来事のこと。今回の展示ではこんなふうに広がることができました。

私は常々、「絵を完成させるのは作者かもしれないけれど、展示を完成させるのは鑑賞者なのではないだろうか」と思っています。今年も個展という形でたくさんの人と出会えたこと、お話しできたことに心から感謝します。

また次の地点でお会いできる日を楽しみにしています。



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