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インベーダー・ゲーム

「はい、これからはマイコンの時代になります。もうこれホント。絶対そう」

僕が高校生の頃、急に訳の分からないことを言い出した父が、大金をはたいて買ってくれた謎のマシンが届いた(当時はパソコンの事をマイコンと言う人が多かった)。
買ってくれたと言っても、僕は一言も欲しいなんて言ってないし、そもそもマイコンの事もよく知らない。こんな乱暴なプレゼントがあっていいのか。
という旨を抗議したら、
「プレゼントってのはな。突然されたほうが嬉しいんだよ」となぜかドヤ顔をかましてきたので、議論を諦めた。

家に届けられたのはNEC PC-9821シリーズだった。
といっても知ってる人は多くないと思うが、フロッピーディスクから起動して、馬鹿でかいCRTモニターの真っ黒の画面にDOSコマンドを打ち込んで操作するというなかなかの代物だった。Windows3.1というOSが一応入っていたが、動作は不安定でまだまだコマンドを覚える必要があった(ちなみに現代のパソコンがCドライブから始まるのは、AとBがフロッピー用だった名残である。これ明日から使える豆知識な)。

もちろんインターネットなど無く、Googleは存在すらしていない。
わからない事は専門誌などを読んで手探りで調べなければならない。父も別にエンジニアでも何でもないサラリーマンで、買い与えたはいいが教えられるわけでもない。

僕が毎月買っていたのが「マイコンBASICマガジン」というマニアックな専門誌(と言ってもIT黎明期にはそこそこメジャーな雑誌だった)。
これはコマンド文法からプログラミングまで学べる本で、さらに読者が書いた何万行のソースコードが紙に印刷で掲載されているという、今考えると狂気の教典であった。

僕はゲームを作ってみたくて、インベーダー・ゲームのソースコードを毎日写してプログラムしていた。
現代の開発環境のようにエラー箇所を教えてくれたりしないので、動かなければ数万行のコードを一から調べなければならない。途方も無い作業であった。

さらには不安定になるとフリーズして、また一からやり直すのも頻繁だった。自動保存などというオーバー・テクノロジーはもちろん存在しない。

数ヶ月かけてようやく完成したゲームは、一応動いただけでものすごい感動だった。
が、所詮は原子的なインベーダー・ゲーム。中身は面白くもなんともなく、楽しいのは作るまでである。
そしてまた新しいプログラムを書き始める。

この無間地獄とも言うべき苦行により、僕は計らずもプログラミングの基礎を習得した。
これが後の人生で飯のタネになっていく事になるのだから、父の気まぐれも捨てたもんじゃない。

Jリーガーのサッカーとの出会いはキャプテン翼だったりする。案外そのくらいの出来事が一生の仕事になったりするんだから、人生は面白い。

日本ではプログラミングが義務教育になるそうで、小さいお子さんのいる方は、スマホやタブレットも悪く無いけど、やっぱりパソコンを買ってあげて欲しいと思う。

できれば、「プレゼントってのは突然されたほうが嬉しい」らしい。

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