とりとめもない音楽の話#3 『834.194』サカナクション


暗いアルバムだ。

初めて1周とおして聴いて得た感想はそれだった。それはつまり、好きなアルバムだということでもあった。底抜けに暗いというわけでもなく、その逆でもない。ただ、明るいといえるであろう『新宝島』や『多分、風。』に至ってもこのアルバムの中では、シングルの時とは違った風合いを持っているように思える。風通しの良さを保ちつつも、独特の低い温度感を持ったアルバムだ。

この感覚、どうにも覚えがあって思い返したところ、昨年リリースのtofubeats『RUN』を聴いた時の感覚にそっくりだったことに気づいた。

両者に共通しているように思えるのは、実に個人的なアルバムであるということだ。

tofubeatsはアルバムの指針になったという『ニュータウンの社会史』という本から得た着想やこれまでの自身の考え方や楽曲を振り返り、メジャーでは初めて自らの声だけでアルバムを作った。一般的な評価はどうだったのかわからないが、tofubeatsのアルバムとしては決して明るいものではなかっただろうし、実に内省的なアルバムだったのだろうと思う。ただ、それがまったく嫌な感じのしない、素晴らしいアルバムだった。

サカナクションは多数のシングル曲を抱えながらもそれらを巧みに組み合わせ、それどころかカップリング曲やリミックス曲、果ては前身バンドの曲までもを引き出しながら、彼らの辿ってきた道筋をまとめた。東京編と札幌編という2枚組の大作になりながらも、冗長さを感じさせない作りは見事という他ない。実に個人的な思いの強いアルバムながら、押し付けがましくないのだ。

大きな成功を得たあと、長年オリジナルアルバムを出してこなかった彼らが、成功を高らかに歌うでもなく、かといって徹底して内にこもるわけでもない、このようなアルバムを出したことは本当に素晴らしいことだと思う。

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